仏テルモン、世界最軽量のシャンパーニュボトル開発 CO2排出量を削減へ

Image credit : Champagne Telmont

持続可能なシャンパーニュ(シャンパン)造りに取り組む仏ブランド「テルモン」はこのほど、世界最軽量のシャンパーニュボトルの開発に成功した。新開発のボトルは、従来のものよりも35グラム軽い800グラムで、ガラスの溶解や製造工程でのCO2排出量を1本あたり約4%削減できるという。同社は2030年までにクライメートポジティブを目指すほか、2031年までに自社と生産パートナーのブドウ畑をすべて有機栽培に転換する方針を掲げるなど取り組みを進めている。米サステナブル・ブランドがテルモンのルドヴィック・ドゥ・プレシCEOに話を聞いた。(翻訳・編集=小松はるか)

テルモンと仏ガラス瓶製造会社ヴェラリアは4月、世界最軽量の800グラムのシャンパーニュボトルを使った最新の実証実験が成功したことを発表した。同社はガラス製ボトルの製造や貯蔵、輸送の工程で排出されるCO2が確実に削減できることを喜んでいる。

35グラムという数字だけを見ると、大した数字ではないと思うかもしれない。しかし、この数字には膨大な量のガラスを使用する産業を前進させ、変化させる大きな可能性が秘められているのだ。

ドゥ・プレシCEOは、「835グラムという重さに挑戦することを決め、本日、最初の結果が出ました。とても前向きな結果でした」と語る。

ルドヴィック・ドゥ・プレシCEO Image credit : Champagne Telmont

テルモンとヴェラリアは最初に行ったという3000本の実証実験の明確な手法について詳細は明かしてないものの、2社は新たに開発したボトルが、自動車タイヤにかかる圧力の2倍以上の圧力がかかるとされるシャンパーニュボトルの国際的な耐圧基準を満たしているか、さらに貯蔵や輸送の過程で圧力がかかっても亀裂が入らないかなど、耐久性を検証したという。

ヴェラリアの担当者は米サステナブル・ブランドの取材に対し「ライフサイクルにおけるボトルの耐久性や使用(圧力、ボトルの重ね置き、澱(おり)抜きなど)を保証するために、シャンパーニュやボトルの製造工程に関連するあらゆる必須要素を考慮に入れて、ボトルを製造しました」と説明する。

テルモンは試験の一環として、3000本のシャンパーニュボトルを貨物船でシンガポールに輸送した。どのボトルも損傷することなく着港したという。ドゥ・プレシCEOは「成功のカギは、損傷を与える確率が高まる人間の手を介さず、全ての製造工程を自動化できたことです」と説明する。

軽量ボトルを使用し、オーガニック認証を取得したシャンパーニュ「レゼルヴ・ド・ラ・テール」は初回の生産量が3万本。3年間熟成させるため、市場に投入されるのは2026年の予定だ。ドゥ・プレシCEOは「軽量ボトルを使ったシャンパーニュを3万本製造するという大胆な挑戦をするということは、それだけの自信があるということです」と胸を張る。

ガラス瓶の膨大なCO2排出量

ガラス瓶の製造は非常にエネルギー集約的だ。また、多くの製造者は独自にデザインしたシャンパーニュボトルを展開しており、形が異なることで排出量はさらに増加する。一方、ワインボトルのデザインについては、シャンパーニュボトルと同様のニーズがあるわけではなく、標準的なワインボトルはガラスの使用量がシャンパーニュボトルに比べて少ない。

テルモンの場合、ガラスの溶解や製造時に排出されるCO2の量が同社の総排出量の約24%を占めている。今回の新たなボトルを使用することで、1本あたりのCO2排出量を約4%削減できるようになる。

また、同社ではリサイクルガラスを87%使った、利用しやすい形の「クラシック」ボトルにこだわっている。2社は現在、リサイクルガラスの使用量を90%まで引き上げようと取り組みを進めているという。「新たな軽量ボトルを使いたいというシャンパーニュメゾンがあれば、共有する準備は整っています」とドゥ・プレシCEOは話す。

しかし、大手のシャンパーニュメゾンは年間3000万本以上のシャンパーニュを製造しており、今回の試みの3万本とは桁違いだ。また、数世紀にわたる伝統や、厳格な基準が重んじられる業界を繁栄させていく難しさもある。メゾンを説得し、従来の方法を転換させていくことは、一夜にしてなせるものではない。テルモンの取り組みには時間と証明が必要だろう。

希望もある。テルモンが1912年に創業した仏シャンパーニュ地方は、気候変動への取り組みをいち早く始めた地域の一つで、最初に取り組みが行われたのは2003年だ。同地方のブドウの生産者やシャンパーニュメゾンで構成される「シャンパーニュ委員会」がこれまで実施してきた重要な成果のなかには、シャンパーニュの製造に使用した水をすべて処理して再利用する取り組みや、副産物を新たな方法で再利用するなどの取り組みがある。

テルモンが目指す次の段階

テルモンは1月、自社のサステナビリティガイドを発表した。その手引書は、同社が取り組んでいるものや取り組んできた多くの事業を紹介するだけでなく、シャンパーニュ業界が直面する広範な気候変動に関する課題に目を向けようとするものだ。

ガイドは、2030年までのクライメートポジティブ、2050年までのネットポジティブの実現を宣言することに終始せず、スコープ1・2・3の同社の排出源を明確に特定している。もちろん、ガラス製ボトルの製造は、原料のブドウの生産と並んでスコープ3の最大の排出源だ。ドゥ・プレシCEOによると、テルモンは従来の無色透明のボトルから、リサイクルガラスを85%使った再利用可能な緑色のボトルへの変更を進めている。この変更により2030年までにスコープ3の排出量を19.3%削減できる見込みだ。

さらに、同社はシャンパーニュ地方でボトルの返却プログラムに試験的に取り組んでいるという。消費者に使用済みの空のボトルを返却してもらい、洗浄して、スパークリングワインやシードルのボトルとして再利用するというものだ。

テルモンは自社と生産パートナーの農地をすべて有機栽培に転換することを目標に掲げる。自社が所有する畑は2025年までに、生産パートナーの畑は2031年までに、オーガニック認証を取得できるように支援していく方針だ。昨年には、同社のこうした理念に賛同した、俳優で環境活動家のレオナルド・ディカプリオ氏が出資をしたことも話題となった。[^undefined]

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