北朝鮮の女囚20人が入れられていた「特別部屋」の値段

北朝鮮で重要視される価値は「体制への忠誠心」だが、それはあくまでも建前だ。実際に大切なのは「カネ」だ。窓口担当者は書類の発行に便宜を図るとしてカネを受け取り、配電担当者はカネを受け取って工場向けの電気を民家に横流しする。賞やコンクール、進学、兵役、就職も、カネに物を言わせればある程度なら希望が叶えられる。

地獄の沙汰もカネ次第。刑務所の受刑者までもが、カネの力で楽に過ごすことができる。逆にカネの力が通じなくなれば、想像を絶する苦痛に耐えなければならない。その実態を、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋によると、道内の甑山(チュンサン)教化所(刑務所)が、先月3日から10日まで、朝鮮労働党のグルパ(取り締まり班)と平安南道教化局の検閲(監査)を受けた。

甑山教化所に収監されている男性2000人、女性3000人の受刑者は、蒸したトウモロコシ粉しか与えられないまま、日々、強制労働に苦しめられている。

受刑者は11の班に分けて労働させられているが、入所から3カ月までは「新入班」に入れられ、教化所の規定などについて教育を受ける。その後、穀物を栽培する農産班、野菜を栽培する野菜班、豚や鴨を育てる畜産班などに配属され、労働に当たる。国から一切の食糧が支給されないため、受刑者が自分たちの食べるものと、それ以外のものまで含めて育てなければならないのだ。

どの班に配属されるかの基準は存在しないが、豚のエサを盗み食いできる畜産班や、食堂班への配属が好まれ、カネを持っている受刑者は、看守や幹部にワイロを掴ませ、配属に便宜を図ってもらう。

ここまでならどこの教化所でもある話だが、甑山教化所の場合は、その上がある。独房ならぬ「特房」、つまりスペシャルルームがあるのだ。

韓国に住む親戚からの送金を受け取った容疑で逮捕され、実刑判決を受けてこの教化所に収監された情報筋は、スペシャルルームについて次のように語った。

「教化所を管理する教化局の高官に年間500ドル(約6万7000円)を渡せば、高官が教化所の幹部に電話をかけてくれる。高官とコネがなければ、受刑者を管理する教化所の幹部に毎月100ドル(約1万3000円)を渡せば特房に入れてもらえる」

情報筋は、女性だけで特房に20人はいると聞いたと述べた。今回の検閲で、ワイロを受け取って特房を提供していた平安南道教化局幹部2人と、甑山教化所の所長が撤職(解職)された。

また、この教化所で5年間受刑したという別の情報筋は、この情報が事実であることを認めた。その証言によると、今回の検閲で、米ドルのワイロを渡して特房で暮らしていたトンジュ(金主、ニューリッチ)の受刑者は、これまで15日に1回のペースで家族との面会が許されていたが、それが半年に1回に減らされた。さらに、3年の刑期延長が言い渡されたという。

いずれの情報筋も、特房での具体的な処遇については触れていないが、労働の免除、きちんとした食事の提供、外部との自由な連絡などが考えられる。

教化局は、面会は制限したものの面会飲食(食べ物の差し入れ)については制限していない。教化所で栄養失調にかからずに生き残るためには、外部からの食べ物の差し入れが欠かせないが、差し入れを制限して、受刑者が餓死でもしたら、また別のトラブルが起きかねないと憂慮したのかもしれない。特房に入れるほどの経済力のある受刑者なら、まず間違いなくかなりの地位にある幹部とのコネがあるからだ。

情報筋によると、受刑者の個人情報の記された資料には、入所前に何をしていたかが記録されている。幹部、大手の卸売業者、麻薬の売人など、誰が金持ちであるかはある程度わかるため、それを元にして、ワイロを要求する。

このシステム自体に変更がないことから、ほとぼりが冷めれば、元の木阿弥だろう。捜査もみ消しも、関係者の口封じも、裁判の量刑も、カネとコネの力でなんとかなってしまう社会全体の腐敗は、こんな一度の取り締まりくらいでどうにかなる類のものではないのだ。

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