豪雨「ため池」遠隔監視で安全に スマホ確認、外出は不要 鳥取県で導入進む

遠隔監視システムの映像のサンプル。現在、県のホームページ上で誰でも閲覧できる(北栄町提供)

ため池を撮影するカメラを確認する前田さん(鳥取県北栄町で)

鳥取県は、線状降水帯による豪雨などが相次ぐ中、農家らが直接ため池に出向くことなく、遠隔地から水位などを監視できるシステムの普及に乗り出した。設置や通信にかかる費用は行政が補助。スマートフォンなど市販の端末があれば、自宅でも映像で確認できる。ため池監視役の安全確保に加え、水害の恐れを早い段階で察知し、地域住民が前倒しで避難行動に移れるよう後押しする。

高さ3メートルの鉄柱の先に備えたカメラが捉えるのは、水田やビニールハウスが並ぶ地域の一角にあるため池。2021年7月、線状降水帯による豪雨に襲われ、県内で唯一、ため池が決壊し、家屋や農業施設に被害が出た北栄町は、県の補助を受けながら、全13カ所の防災重点ため池に同様の機器を設置した。

各所のカメラの映像は全て、警戒水位に達しているかどうかを示すグラフとともに、県のホームページ上で公開され、誰でもスマホなどから閲覧できる。

地域の自治会役員として、町内の防災重点ため池3カ所を含め、計7カ所のため池の管理を担当する農家の前田修志さん(58)も、スマホを通じ、ため池を監視する。

これまでは雨が降る中でも、ため池に出向き、距離を取って監視していた。監視システムが整備され、前田さんは「もう外に出ないで済む」と安心する。

遠隔監視システムの映像のサンプル。現在、県のホームページ上で誰でも閲覧できる(北栄町提供)

前田さんは大雨などの際、ため池の水位を把握し、自治会で共有する。それに基づき、自治会が必要に応じて住民に避難を促す。

北栄町は、前田さんのような自治会の監視役を「防災上、重要な存在」(産業振興課)と位置付け、遠隔監視システムによって、監視役の身の安全を確保していく考えだ。

今後は地域住民の迅速な避難に役立てる。自治会の防災研修に出向き、警戒水位に近づいていることがリアルタイムで分かる遠隔監視システムの利点を生かし、前倒しの避難などを周知していく。

遠隔監視システムの映像と合わせて表示するグラフのサンプル。ため池が警戒水位に達しているかどうかを示す(同提供。一部加工)

住民の費用負担なく整備 「重点」全312カ所設置へ

県は市町村と連携し、22年度から、遠隔監視システムの導入推進に着手。県内の防災重点ため池の全312カ所に設置する方針で、これまでに25カ所で設置を終えた。今後も設置を急ぐ。

18年7月の西日本豪雨や21年7月の豪雨など、大規模な水害につながる自然災害が相次ぐ中、遠隔監視システムを通じ、「安全な場所で、いち早くため池の状況をつかみ、前倒しの避難開始という一連の行動を各地に広げたい」(農地・水保全課)と考える。

ため池を監視するライブカメラなどの設置費は国の事業を活用。設置後の通信費は保守作業を含め、年6万円と見積もり、県と市町村で負担。農家ら地域住民の費用負担をなくし、導入が進む環境を整備した。

今後、梅雨時期に入れば線状降水帯による大雨のリスクが高まり、その後は台風のシーズンが始まる。県は「今年も、ため池には警戒が必要」(同課)として遠隔監視システムの活用を促していく方針だ。 大森基晶

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