「鼻毛の抜きすぎ」で気管支ぜん息を招く可能性が!

(写真:アフロイメージマート)

マスクフリーの日々が戻ってきたが、気がつけば鼻や口周りのケアが怠りがちになっていたことを認めざるをえない人も少なくないはず。「よく見たら、鼻毛が飛び出していた……」なんてことも珍しくないかもしれない。

しかし、相手が女性だと「アナタ、鼻毛が見えていますよ」なんて指摘、なかなかしづらいものだ。“人の振り見てわが振り直せ”とばかり、にわかに鼻毛チェックを始める人も多いだろう。

ところが、あわてて一気に抜いたり切ったりするのはタブーなのだという。みらいクリニック院長の今井一彰先生はこう言う。

「私たちの体で不要なものは何一つなく、鼻毛にも私たちの体を守るための大切な機能が備わっています。しかし、意外とその大切さは認知されていません」

鼻毛には大きく分けて2つの役割があるのだという。一つは鼻腔内の温度と湿度の調整機能、そして、もう一つがフィルターとしての役割だ。

「鼻で息を吸うときは鼻腔に潤いを与え、吐くときは水分を抑えた空気を出して鼻腔の潤いを保つといった、湿度と温度の調整をしています。鼻毛は鼻の中の粘膜を乾燥から守ってくれているのです」

鼻毛の働きが実感できるのが、サウナに入ったときだ。空気が乾燥している熱いサウナの中で鼻から息を吸うと、鼻の奥に痛みを感じることがあるだろう。しかし、このときでも鼻毛は鼻から入る空気の温度を抑え、湿度を上げて空気を鼻に入れてくれようとしているのだ。

「鼻毛のこうした機能があるからこそ、私たちは外気の暑さや寒さ、湿度に適応しながら呼吸をすることができているのです」

そしてもう一つのフィルター機能。

「呼吸によって鼻から入ってくる空気中のほこりやアレルゲンなどの汚れやゴミの8割は、鼻毛によって鼻孔のあたりで防ぐことができます」(今井先生)

空気が汚染されている場所に住んでいる人は鼻毛が伸びやすいといわれるが、これは体が防御のために起こす自然な反応だ。

■鼻毛の量でぜん息発症率も変わる! 鼻毛に着目したおもしろい研究があるのだそう。

「2011年にトルコで行われた研究で、季節性の鼻炎を持っている患者233人を対象に、鼻毛の量が『多・中・少』の人に分けて気管支ぜん息の発症率を調べたところ、『少』の人が45%、『中』の人が26%、『多』の人が17%でした。鼻毛がいかにフィルターの役割を担っているかがわかる結果です」(今井先生)

女性は男性に比べて体毛が薄いが、鼻毛にも同様の傾向がある。つまり、女性のほうが、フィルター機能が弱い傾向にあり、それが長期にわたって健康に影響を与えることは十分に考えられるのだそう。

「特に呼吸器関連の疾患は、年代を追うごとに増えます。40歳を過ぎてから、ぜん息や花粉症などのアレルギー疾患が増えることと鼻毛の濃さに相関があるといえるかもしれません」

今井先生は、鼻呼吸の大切さも訴える。

「口呼吸はフィルターのない状態と同じで、温度や湿度調整の機能も働きません。口呼吸をしていると口が渇きやすく、免疫力が低下するなどと言われますが、鼻で呼吸をすることの大切さはこういうところにもあります」

■鼻毛の手入れは切りそろえるだけで十分

こんなにも大切な役割を担っているならば、もはや見た目の理由だけで粗末にしてはいけない。

そこで、鼻毛のケアについて、耳鼻咽喉科医でラファ・クリニック院長の正木稔子先生が教えてくれた。

【手入れ法】

鼻頭を指で左右上下に動かしながら、カットする面をフラットにし、ハサミで入口から5mmのあたりをカット。あとは飛び出している毛だけをカットする。

「女性は美容の観点から鼻毛を気にする傾向がありますが、鼻毛をやたらと抜いたり、短く切ったり剃ったりする必要はなく、見えている部分をほんの少し切りそろえるだけで十分です。最もオススメなのは、女性がまゆ毛を整えたりするのに使う、小さなハサミを使って、鼻を切らないよう、注意しながら鼻の穴から飛び出す分だけをカットすることです」

このとき、決してハサミを中まで突っ込んで鼻毛を短く切りそろえたりしないように。鼻毛があっても、短すぎると重要な働きが発揮できなくなる。

ハサミのほかにも、毛抜き、鼻毛カッター、ワックスなど鼻毛処理のアイテムは多種あるが、注意したいのは抜く行為だ。

「鼻毛を巻き込んで抜くタイプの鼻毛カッターや毛抜き、まとめて一気に鼻毛を抜く鼻毛用ブラジリアンワックスなど、“抜く”ことを主眼にしているアイテムがありますが、注意が必要です。鼻毛を抜くと毛穴から皮膚が炎症を起こし、鼻前庭炎といって、鼻の穴の入口から近い小鼻のあたりが腫れたりすることもあります」(正木先生)

そうなると、抗生物質で炎症を抑えることとなり、見た目だけでなく、痛みまで長引いてしまう結果になりかねない。

鼻毛の大切な役割を忘れず、丁寧にカットしていこう!

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