社説:G7とAI 議論深めルール作りを

 人工知能(AI)を巡る国際ルール作りが主要議題の一つだった先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の首脳声明は、民主主義の価値観に沿った「信頼できるAI」を共通目標に掲げた。

 担当閣僚で利活用の方法を議論する「広島AIプロセス」を進め、年内にもG7の見解を示すという。

 「チャットGPT」に代表される生成AIは、インターネット上の膨大なデータを学んで精巧な文章や画像を作る。急速な普及の一方で、偽情報拡散や著作権侵害、個人情報の流出、犯罪への悪用などの懸念も高まっている。

 データには誤りや偏見も混じり、開発者でさえ制御不能ともいわれる。真偽不明の「答え」が流布すれば民主社会の基盤を揺るがすことにもなりかねない。

 重視するべきはプライバシーや人権、透明性などである。実効性のある共通ルール作りは先進国の責務だろう。利点や危険性について、さまざまな観点から議論を深めてほしい。

 サミットに先立つG7のデジタル・技術相会合では、「法の支配」「人権尊重」などAIを適切に利用するための5原則で合意した。教育相会合の共同宣言も、学習面で思考力低下などの懸念を踏まえ「リスクを軽減する重要性を認識する」とした。

 ただ、首脳声明では規制を巡って各国で温度差があることも認めた。具体策に踏み込めなかったのもそのためではないか。

 とりわけ、利活用に前のめりな日本政府の姿勢は気がかりだ。岸田文雄首相は「AI活用の議論を主導し、今後の道筋を示したい」と意欲を見せていた。

 政府は6月の成長戦略(新しい資本主義実行計画)改定に向けた論点案で、生成AIの利活用のため環境整備や日本語対応アプリの開発を官民で進めるとした。

 文部科学省は夏までに、学校現場における注意点や有効な活用法をまとめた指針を公表する。

 背景にはAI技術の開発で遅れている焦りもあるようだ。だが、チャットGPTの規制導入を巡っては先導する欧州に加え、活用一辺倒だった米国でも議論が始まっている。バイデン政権は差別の回避やプライバシー保護を柱とする原則「権利章典」を発表した。

 日本では新たな法規制に向けた動きはなく、G7の議長国として議論を主導する役割が果たせるか心もとない。「周回遅れ」の上、「信頼」を後回しにするようなことはあってはならない。

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