「ゼレンスキーのサミット」庇を貸して母屋を取られた岸田首相 【コラム・明窓】

ゼレンスキー大統領の会見に耳を傾ける各国の記者たち=5月21日 広島市中区、国際メディアセンター

 わが国の宰相の顔を画面越しに見ていて、あることわざを思い出した。「庇(ひさし)を貸して母屋を取られる」。ほんの一部を貸したところにつけ込まれ、全部を乗っ取られることを意味する。

 議長国として迎え、自らの強い意向で選挙区でもある被爆地広島で開いた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)。核保有国の米英仏やインドの首脳らが原爆資料館を訪れ、慰霊碑に献花した映像は画期的で、「核兵器のない世界」の実現に向け、世界に大きなインパクトを与えた。サミット前半の主役は間違いなく岸田文雄首相だった。

 ところが、2日目の20日午後3時半ごろ、ウクライナのゼレンスキー大統領が仏政府専用機で広島空港に降り立つと、メディアの注目はサミット議長から、国際映像で見慣れたカーキ色のパーカ姿の動向に移ってしまった。

 米国から欧州の同盟国によるF16戦闘機の供与容認を取り付けたほか、ロシアと良好な関係を維持するインドのモディ首相やグローバルサウスを代表するインドネシアのジョコ大統領とも会談して和平を直接訴えた。まさしく「ゼレンスキーのサミット」。岸田首相にとっては、庇を貸して母屋を取られた格好になってしまった。

 現在の世界情勢から見れば仕方ない側面もある。だが、気候変動やエネルギー情勢への連携など忘れてはならない課題も多い。真の主役は岸田首相やゼレンスキー氏ではないはずだ。

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