【タイ】日本食ブームで売込み強化[食品] 牛肉など輸出急増、消費力に期待

空前の日本食ブームが続くタイで、日本企業が食品の売り込みを強化している。日本の農林水産物・食品の輸出先でトップ10に入るタイでは水産品の人気が高いほか、牛肉、梅酒を中心とするリキュール・コーディアル、緑茶(抹茶)などの輸出が大幅に伸びている。特に牛肉の輸出額は昨年に8割、リキュール・コーディアルは7割増えた。タイでは富裕層が10万円近くする北海道産タラバガニを購入し、梅酒専門バーに集まる若者が多いなど、消費力の高さにも期待がかかる。

日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所の調査によると、タイでは日本食レストランの数が2022年に5,000店を突破した。前年比で2割超、店舗数にして1年間で1,000店余りも増えるなど、空前の日本食ブームが起こっている。

22年のタイへの農林水産物・食品の輸出額は前年比14.9%増の506億円。国・地域別では8位につけ、日本の農林水産物・食品輸出額全体(1兆4,148億円)の3.6%を占める。

輸出額の上位品目は◇カツオ・マグロ類(鮮魚・加工品用):21年は77億円で1位◇豚の皮(革製品用など):同54億円で2位◇イワシ:同33億円で3位——などとなっているが、このところは牛肉やアルコール飲料の輸出も急増。牛肉の輸出額は昨年に79.6%増、リキュール・コーディアルは72.2%増をそれぞれ記録した。

■見本市への出展2倍に

日本食ブームと新型コロナウイルス規制の終了を受けて、23日に首都・バンコクで開幕した東南アジア最大級の食品見本市「タイフェックス・アヌガ・アジア(THAIFEX-ANUGA ASIA)2023」では日本の食品企業が売り込みを強化。ジェトロが設置したジャパンパビリオンには、昨年の18社・団体の2倍となる37社・団体が出展し、販路の開拓・拡大に向けてタイの飲食企業や食品バイヤーに商品を売り込んでいる。

■高級活魚が富裕層にバカ売れ

初出展のカネイシフーズ(札幌市)は、北海道産の水産品のタイへの輸出を6年前に始めた。タラバガニや毛ガニ、ホタテ、アワビなどを生きたまま航空便でタイに運び、自社(タイ法人)の水槽に一度入れてから富裕層(個人顧客)やバンコクの高級すし店に販売している。

石崎圭介・最高経営責任者(CEO)はNNAに対し「現在はコロナ前の2倍となる月200~300キロを輸出しているが、入るとすぐ売り切れる。タラバガニは1杯(4~5キロ)2万~2万5,000バーツ(約8万~10万円)もするが、富裕層が買ってくれる」と話す。事業開始当初は運んだカニが全て死んでしまうなど、ノウハウを構築するのに大変だったというが、販路開拓では大きな苦労がなかった。交流サイト(SNS)を通じて口コミが広がり、タイ全土の富裕層向けに販売。常連客だけで50人を数えるほどになり、飲食店向けも超高級店のみと間口は狭いものの、約15軒に販売しているという。

タイ向け輸出が昨年8割も伸びた牛肉。タイに初上陸する「知床牛」は、見本市で試食も実施=23日、タイ・バンコク近郊(NNA撮影)

同社は今年新たに北海道産の黒毛和牛「知床牛」の輸出を始めることから、タイフェックスへの初出展を決めた。知床牛は「日本でも市場に出回らない」(石崎氏)ほど希少価値が高く、タイに輸出されるのは初めて。石崎氏によると「脂身が軽く、赤身の味が濃い」ことが特長。チルドで運ぶため、最高級部位は「1キロ当たり3,500バーツ前後」と高価になる見込みだが、「日本食の中でもめずらしいもの、手に入りにくいものの引き合いが強い」(石崎氏)ことから、常連客や焼き肉店に販売できるとみている。

タイには22年時点で焼き肉・すき焼き・しゃぶしゃぶ店が727軒ある。高級和牛を出す店や入店待ちが発生する人気店も多い。

■女性中心に梅酒が人気

梅酒・梅干しを世界の46カ国・地域に輸出販売する中田食品(和歌山県田辺市)の海外営業課マネジャー、北村仁嗣氏は「タイは梅酒がブームということで、力を入れていきたい」と話す。

和歌山県庁によるとバンコクには8軒もの梅酒バーがある。和歌山県農林水産部食品流通課の鷲岡恵子副課長によると「1杯の値段は決して安くはない」が、女性や若者に人気だ。ジェトロバンコク事務所は、リキュール・コーディアルの輸出額急増は「梅酒がけん引している」との見方を示す。

中田食品は8年前にタイへの輸出を始め、商品は日本ブランド専門店「ドンドンドンキ」などで販売されている。タイでは定番の梅酒のほか、梅酒にモモやマンゴーの果汁を加えたリキュールもよく売れている。北村氏は「(リキュールは)ネクターのようで飲みやすく、女性に受けている」と話した。

中田食品の北村氏(中央)は和歌山県の鷲岡氏(左)らと共に、「紀州産南高梅」を使い和歌山の天然水で仕込んだ自慢の梅酒を売り込む=23日、タイ・バンコク近郊(NNA撮影)

和歌山県の鷲岡氏によると、県内企業30社がタイに食品を輸出している。輸出額が最も多いのはハマチなど水産品だが「ウメやミカンの生産が盛んなので、果物とその加工品の輸出を増やしたい」と鷲岡氏。特にウメは日本全体の生産量の6割を占める特産品のため、欧州でも梅酒のキャンペーンを行うなど、海外での売り込みに力を入れていると説明した。

■カフェ向けで抹茶も伸び

昨年のタイ向けの品目別輸出額を見ると、緑茶も39.1%増の6億4,000万円と大きく伸びた。抹茶を使ったドリンクやスイーツがタイでも流行しているためで、人気の高まりを背景に、ジャパンパビリオンには抹茶を扱う企業4社が出展した。

緑茶の輸出を専門とするエバーグリーン(静岡市)は、宇治(京都府)や八女(福岡県)の抹茶を売り込む。中小路和義・代表取締役は「タイにはカフェ向けに抹茶を直販していたが、今年からディストリビューター(代理店)を入れることにした」とコメント。出展ブースには代理店のスタッフが立ち「飲食店などとの商談をどんどんまとめてくれている」と話し、「単価は低くなるものの販売が効率化できる」として販売拡大に期待感を示した。

ジャパンパビリオンにはこのほか、昨年からタイの流通大手セントラル・グループの店舗でちくわなどの販売を始めたヤマサちくわ(愛知県豊橋市)、「醬油いくら」や冷凍ホタテなどを輸出するエビコー(札幌市)、「カツオのタタキ」などを扱う興洋フリーズ(高知市)などが出展している。タイフェックスは27日まで、バンコク北郊ノンタブリ県の展示会場「インパクト」で開催。世界40カ国余りの3,000社以上が出展し、会期中は140カ国から9万5,000人余りが来場する見込みとなっている。

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