<社説>少年事件記録廃棄 保存規定順守を徹底せよ

 1997年の神戸連続児童殺傷事件など重大少年事件の記録が、事実上の永久保存に当たる「特別保存」にされず廃棄されていた問題で最高裁は25日、調査報告書を公表し、「最高裁による不適切な対応に起因する」と責任を認め、謝罪した。 社会を震撼(しんかん)させた重大少年事件を検証するために不可欠な記録が失われた。永久保存の規定が徹底せず、保管スペースの問題にこだわるあまり、現場判断で事務的に「廃棄ありき」で処理したのだ。最高裁の責任は重い。

 最高裁は特別保存に当たって国民の意見や専門家の知見を取り込むため、常設の第三者委員会を設置する。記録保存の基準を明確にし、各裁判所に順守を徹底させる必要がある。「廃棄ありき」ではなく保存に向けた議論が求められよう。保管スペース確保なども検討すべきだ。

 記録廃棄が明らかになったのは昨年10月である。処分されたのは「特別保存」の対象とすべき事件記録50件余。2004年に長崎県佐世保市で起きた小学生による同級生殺害などの事件が含まれている。

 1964年の最高裁の内規では、一般的な少年事件や審判記録は、少年が26歳になるまで保存するよう定めている。その上で史料的価値の高い事件記録は26歳以降も「特別保存」とすることになっている。92年の通達では「社会の耳目を集めた事件」を対象とした。

 この規定の形骸化が記録廃棄の事態を招いた。背景にあるのは保存記録の膨大化である。最高裁は91年、記録の保存スペースの確保のため「特別保存記録の膨大化の防止策」を周知していた。そのことで保存の消極的な姿勢が強まり、特別保存の判断権限を持つ裁判所長が関与しないまま現場レベルの判断で貴重な記録が処分された。

 ずさんというしかない。記録保存に対する裁判所の認識の甘さが露呈した。「廃棄ありき」の認識から脱却しなければならない。

 少年事件の記録はプライバシーの観点から原則未公開だが、制度改正によって公開対象となる可能性がある。その場合は事件防止の資料として活用できたはずである。

 事件で家族を失った遺族は資料閲覧の機会が失われた。神戸連続児童殺傷事件で犠牲となった少年の遺族は記録廃棄について「事件の真相に近づけるかもしれないという遺族の淡い期待すら奪い去るもの」と批判している。裁判所は遺族の言葉を重く受け止めてほしい。

 2019年には戦後の重要な民事裁判記録の廃棄が問題になった。その中には未契約軍用地強制使用を巡る代理署名訴訟も含まれている。沖縄戦後史にとって貴重な財産であったはずだ。

 事件や民事の裁判記録も歴史の証言であり学ぶべきことは多い。その資料価値を再確認する必要がある。

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