円安が進んだら、インフレが進行したら…投資家に必要な「連想力」を磨く方法

株式投資は連想ゲーム−−多くの投資家が共感するこの言葉には、株式市場を理解するための重要な鍵が隠されています。経済の動向、社会の変化、業界の特性など、膨大な情報から一つの予測を導き出すためには、情報を結びつけ、連想する力が求められます。

今回は、投資初心者や日本株に興味をお持ちの方々に向けて、連想ゲームと呼ばれる理由について、具体的な事例をもとに解説していきます。


例1:円安が進んだら…

まず最初の事例は、為替の動きです。
為替レートは、企業の業績に大きな影響を及ぼします。例えば、円安が進むとどうなるでしょうか?

円安は、輸出や海外権益を持つ企業にとって有利です。円安になると、海外からの収益が円換算で増え、企業の業績を押し上げるからです。このような企業には自動車産業や電機産業、そして商社などがあります。
逆に、原材料を海外から大量に輸入する食品産業や製紙産業は、コストが上がり、円安に打ちのめされる可能性があります。

具体例として、円安が進んだ2022年10月から現在までの商社の動向を見てみましょう。

この期間、商社は全体的に好決算を上げており、特に三菱商事(8058)は5月9日(火)に発表した2023年3月期連結決算において、純利益が前期比26%増の1兆1,806億円と初めて純利益で1兆円を超えており、過去最高益を更新しました。この決算は商社首位となりましたが、三井物産(8031)も最終的な利益が1兆1,306億円と過去最高益を更新しています。

三菱商事は株価が右肩上がりで、2022年10月から1,000円以上も上げています。
このように、経済の動きを連想し、それが企業の業績や株価にどのように影響するかを予測することが、投資成功の一助となります。

例2:インフレが進行したら…

次に、インフレによる影響について考えてみましょう。
インフレということは資源価格が上がっているということですので、前述した商社や、原油などのエネルギー関連もヘッジとして機能すると考えられます。
原油・ガス開発生産で国内最大手のINPEX(1605)は、2022年に2倍近く上昇しました。

またインフレが進行すると、一般的には物価が上昇し、銀行が金利を引き上げる動きを見せることが多く、金利に敏感な金融業や不動産業への影響が予想されます。具体的には、金利上昇は住宅ローンの負担増となるため、不動産業にとってはマイナスの影響を及ぼします。

一方、金利上昇による貸出利息増加は、銀行の収益を増やす可能性があります。メガバンクの三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)は、インフレの恩恵を受ける代表的な銘柄と言われています。

インフレ進行は経済が活発になっていることを示すため、一部の業界には好影響を及ぼす可能性もあります。
例えば、消費が活発になると、小売業や旅行業、エンターテイメント業界などが利益を得やすくなります。

しかし、一方でインフレは生活必需品のコスト増加をもたらすため、消費者の負担が増えることから、一部の個人消費関連の銘柄にとってはマイナスの影響を及ぼす可能性もあります。

例3:技術革新が起きたら…

長期的な連想の例として、技術革新の影響を考えてみましょう。特に、IT業界やバイオテクノロジー業界では、新しい技術が開発されるとその業界全体が大きく変わる可能性があります。

新たな技術が開発されると、その技術を開発した企業だけでなく、その技術を利用することでビジネスモデルが変わる企業も大きな利益を得ることができます。また、その新技術に対応することができない企業は、市場からの評価を大きく下げる可能性もあります。

例えば、クラウド技術の進化により、情報管理やビジネス運用のあり方が大きく変わりました。これに対応できた企業は大きな成長を遂げ、その株価も大きく上昇しました。最近のニュースですとChat GPTなどがホットな話題かと思いますが、AIチャットボットやAIレポーティングシステムを展開するインフォネット(4444)は2023年3月に入り、2倍以上に急騰しています。

技術の進歩について知っておくこと、関連銘柄が何かおさえておくことは、中長期的な投資において優位性があると考えます。

例4:身近なニュースから…

例えば、新型コロナウイルスのパンデミックが発生した際、リモートワークやオンライン学習の需要が急増しました。これを受けて海外の例ですが、ZoomやMicrosoft Teamsなどのリモートワークツール、またはCourseraやUdemyなどのオンライン学習プラットフォームの株式は、その後大きく上昇しました。日本でも巣篭もり関連が上昇したほか、買いだめ需要で食品スーパーの株価なども上昇したことは記憶に新しいでしょう。

街中の行列やスーパーの陳列、自分の消費行動の変化など、身近なところから関連銘柄や業績への影響を投資家目線で考えるということができれば、利益につながる例だといえます。

足元ですと、欧米に遅れて経済活動を再開した日本では、インバウンド(外国からの観光客)銘柄が好調です。海外の観光客だけでなく、日本人も旅行をするようになり、イベントの再開などで消費していることは、皆様もお感じかと思います。三越伊勢丹ホールディングス(3099)は1991年のバブル期の売上高を更新しており、売上が過去最高を記録、2022年から見ると株価も1.5倍以上となっています。

社会の動向や、一般的な消費者の行動に基づいた見識から投資の決定を下す、投資家がリアルタイムで世界の動向を読み取り、その情報を利用して先を見越した投資判断をする能力を持つことは、一般的な市場トレンドに先行して投資を行うことで、他の投資家よりも優位に立つことが可能です。

しかし、すでにその情報が市場に織り込まれている(株価にすでに反映されている)可能性があることはお忘れなく。

根拠に基づいた判断が重要

投資とは、世界の動きを読み解く連想ゲームという側面があります。
そして、連想力は短期売買だけでなく、長期投資の視点からも大切です。企業の業績予想や株価の動向を理解するためには、経済の動き、業界の変化、技術の進歩など、さまざまな要素を連想し、その影響を予測する力が求められます。

投資においては、自身の職業や業界の動向、趣味、地域の特性といった、身近な情報から連想を始めることも大切です。
例えば、自身がIT業界で働いていれば、新たな技術トレンドや業界の変動をいち早くキャッチし、投資の判断材料にすることができます。
また、自分が住んでいる地域の経済状況や産業の動きも、地元企業の株価動向に影響を及ぼす可能性があります。

私の知人でカメラマンの方は、キヤノン(7751)の株を買われていたのですが、ファンだから持っていて、新製品などの情報も得ているし、決算資料をみるのも楽しいとおっしゃっていました。
投資における連想力を磨くためには、広範な知識と敏感な観察力、そして論理的な思考力が求められます。それらを身につけることで、株式市場の変動に対する理解が深まり、より賢明な投資判断が可能となります。

なお最も大切なのは、投資はギャンブルではなく、根拠に基づいた判断が重要であるということです。連想ゲームのような投資の世界でも、その根拠は経済の動向、企業の業績、社会の変化といった、具体的なデータや情報に基づくものでなければなりません。

またそれら全てが折り込まれている事実が「株価」であり、その動きを表す「チャート」を見ておかないと、自分が得ている知見が利益につながるものなのか、正しい判断ができないと思います。どんなにいい銘柄でも、タイミングを逃すと高値掴みをしてしまうこともありますので……。


初心者の方も、既に投資を始めている方も、これらの視点を持つことで、投資の世界がより深く、より広がり、そしてより興味深いものになることでしょう。そしてその結果、資産形成の一助となり、より豊かな未来を手に入れることができるでしょう。

皆様の投資の参考にしていただければ幸いです。

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