酒蔵にいらっしゃい 各地で魅力堪能するツーリズム 「郷土料理と楽しんで」

有料の試飲を楽しむインド人観光客。おちょこを土産として持ち帰ることができる点も人気を呼んでいる(神戸市で)

酒に関連するさまざまなイベントを通じ、魅力を堪能してもらう「酒蔵ツーリズム」が各地で広がる。酒造りの現場を巡ったり、農作業体験と組み合わせたり、地域の酒造会社や自治体が工夫を凝らした企画を用意。新型コロナウイルス下の規制が緩和される中、国内観光客やインバウンド(訪日外国人)の増加を見込み、日本酒を含む地域の食の魅力を発信しようと意気込む。

戻って来た客足

有料の試飲を楽しむインド人観光客。おちょこを土産として持ち帰ることができる点も人気を呼んでいる(神戸市で)

百黙、嘉宝――。老舗酒造会社、菊正宗酒造(神戸市)の酒造記念館にある試飲コーナーは8種類の酒をそろえ、国内外から多くの来場客が訪れる。

記念館は、兵庫県の灘五郷酒造組合や神戸・西宮両市、民間企業による「灘の酒蔵」活性化プロジェクトが展開する酒蔵ツーリズムのうち、酒造りの現場などを巡るコースに含まれている。

試飲に訪れたインド人の男性は、おちょこに嘉宝を注ぎ、くいっと飲み干すと「おいしいね」と顔をほころばせた。同社担当者は「コロナ禍が落ち着いてきた今年以降、客足が戻ってきた。土産だけでなく、旅行中に飲むために買っていく外国人も多い」と人気ぶりを話す。

同プロジェクトの酒蔵ツーリズムは国内の若者世代のファン獲得にも力を入れる。現地の酒蔵を回るスタンプラリーでは、訪問先で入手できるQRコードをスマートフォンに取り込むと、人気アニメ声優を起用した音声ガイドを聞ける企画を用意。2022年は、現地に訪れ、プレゼント企画に応募した人が900人を超えるなど誘客に結び付いている。

農、陶芸体験も

酒蔵体験ツアーの本格始動に先立つモニターツアーで、仕込みを体験する参加者(1月、広島県東広島市で=一般社団法人ディスカバー東広島提供)

広島県東広島市の賀茂鶴酒造は、本年度から酒造好適米の田植えや収穫、酒の仕込みを体験できるツアーを始める。郷土料理「美酒鍋」を杜氏と一緒に作るなど、その地域でしか体験できない企画を用意。自らが製造過程に携わった日本酒は、翌年に自宅に届く。

同酒造は「酒だけでなく農業や食への理解を深め、地域の経済を活性化していく仕組みを作りたい」と意気込む。

福島県三春町は、田植えや稲刈り体験に加え、リンゴの摘果など季節の農作業と、酒器を作る陶芸体験もできるツアーを展開する。コロナ禍で中断を余儀なくされるも今春、4年ぶりに復活させた。

日本文化に触れ

酒蔵ツーリズムは、酒蔵見学や利き酒など、酒をテーマにしたイベントを中心に、土地の歴史・文化を伝える観光形態の一つ。

酒造会社や自治体などでつくる日本酒蔵ツーリズム推進協議会の杉野正弘事務局長は「誘客して地域で酒を消費してもらうことが大事」と指摘。「現地で郷土料理との相性も楽しむことで、日本の文化そのものに触れる機会を提供できる」と地域に観光客を呼び込むことの重要性を強調する。 島津爽穂

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