JR三島会社とJR貨物、2023年度の針路は 新しいプロジェクトなど話題をご紹介【コラム】

室蘭線でキハ143形気動車を置き換える737系電車。電車化による走行性能向上で、苫小牧―東室蘭間は所要平均9分短縮します(写真:鉄道チャンネル編集部)

2023年度が始まって間もなく2カ月。1987年4月1日に発足したJRグループは37年目に入りました。コロナ禍は連休明けの2023年5月8日から、感染法上の位置付けが5類に引き下げられ、鉄道各社もあの手この手で利用促進に努めます。

今回は中央のマスコミに載る機会が少ない、JR北海道、JR四国、JR九州、JR貨物の近況を集約。各社の事業計画などから、本サイトをご覧の皆さんに興味を持っていただけそうな話題をピックアップしました。

時速320キロ、東京―札幌間4時間半運転(JR北海道)

まずはJR北海道から。新函館北斗ー札幌間(線路延長約212キロ)で建設工事が進む北海道新幹線は、本サイトでもご紹介させていただいた通り国土交通省の有識者会議で、6000億円を超す事業費増加が判明。一部工事の遅れも明らかになり、2030年度末の開業予定に〝黄信号〟が灯っています。

それはともかく、JR北海道が取り組む札幌駅整備では2022年10月、高架上北側に新設した11番ホームの供用を開始。空いた南側に、新幹線ホームを整備するスペースを確保しました。

新幹線札幌開業時、JR北海道が目指すのは新函館北斗ー札幌間最高時速320キロ運転。そして東京―札幌間最短4時間半の速達性です。東海道・山陽新幹線でいえば東京ー小倉間と所要時間はほぼ同じ。「東京から札幌へは空路」の大勢は変わらないものの、鉄道も一定のシェアが期待できます。

JR北海道が新幹線関連で2023年度に進めるのは、札幌駅の駅舎工事。新幹線札幌駅に関しては、〝大地の架け橋〟をコンセプトにしたデザイン案が2022年3月に公表済みです。新幹線駅は在来線札幌駅の東側(苗穂寄り)に位置し、札幌市中心部を東西に分ける創成川上空にお目見えします。

創成川上空をまたぐ北海道新幹線札幌駅=イメージ=。北海道の山並みを曲線状の屋根で表現。駅機能では、新幹線から在来線への乗り継ぎしやすさに工夫します(画像:JR北海道)

札幌駅は駅の大規模改良工事が進行中で、JR北海道の2023年度事業計画には南北乗り換えこ線橋工事、新幹線高架橋増設工事、耐震補強工事が明記されます。課題は物価高騰を受けた工事費の増加。JR北海道は工程や材料調達などの適切なコントロールに努め、影響を最小限に抑えます。

車両関係のうち事業計画で打ち出したのが、①737系通勤形交流電車の新製、②H100形電気式気動車の新製、③電車・気動車の重要機器の取り替え、④車両検査機器などの導入ーーの4項目。ファン注目の737系電車は、本サイトでも詳細にレポートされています。2023年5月20日から室蘭線にデビューしました。

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「2024年問題」でビジネスチャンス(JR貨物)

続いては順不同でJR貨物。事業計画では、「鉄道事業部門の収支改善」を目標に掲げます。犬飼新・社長は2023年4月3日の社員向け訓示で、「コロナ禍の影響で、ここ数年で鉄道貨物輸送量は2割減った。何としても利用を増やすため、社員全員が必死になる気持ちが必要だ。私も先頭に立っていく(大意)」と決意を述べました。

物流業界をみれば、働き方改革関連法(通称)が施行される2024年4月を機に、深刻なトラックドライバー不足が予想されます。「貨物(荷物)があっても運べない」が「2024年問題」。大量の貨物を定時に運べる、JR貨物への社会的期待が高まります。

追い風の中、JR貨物がターゲットとするのが、例えば東京ー大阪間、大阪ー福岡間といった輸送距離500キロ前後の中距離帯です。具体的戦略では、市場調査データを分析して機関車や貨車を適正に配置。ソフト面では柔軟に運賃設定して、コンテナ列車の貨物積載率を向上させます。

2024年問題などを見据え、トラックから鉄道へのモーダルシフトを促すため、物流事業者にコンテナ積み替え施設の利用をうながします(資料:JR貨物)

EH500形を日本海縦貫線対応に、貨物新幹線の車両も検討

2023年度設備投資計画に示された、鉄道分野の投資予定額(維持・更新)は149億円。車両関係では、EF210ー300形とEF510-300形2形式の電気機関車(EL)を増備します。

さらに、仙台総合鉄道部に所属するELのEH500形48両を日本海縦貫線対応に改造する工事を引き続き実施(一部施工済み)。北海道・東北―関西方面の貨物列車は通常、東北・東海道線など太平洋ラインを走行しますが、万一の自然災害時に代替ルートの羽越・北陸線などを経由することで輸送ルートを確保します。

日本海縦貫線走行対応に改造するEH500形。JR貨物が1997年から導入する2車体連結・主電動機軸8軸の強力機でニックネーム「金太郎」(写真:やえざくら / PIXTA)

もう一点、事業計画で目に止まったのが、「長期経営計画『JR貨物グループ長期ビジョン』に掲げた施策への対応」。新技術・スマート貨物ターミナルの実効策として、「物流イノベーションに向けた貨物新幹線車両などの検討」を打ち出しました。

5月20日に27年ぶりの運賃値上げ(JR四国)

JR四国の2023年度事業計画は、グループ全体の「JR四国グループ事業計画2023」と、単体(JR四国単独)の「2023年度事業計画」の2本立て。鉄道部門の目標は「鉄道事業における収益拡大施策の推進」です。

JR四国は2023年5月20日、運賃を値上げ(旅客運賃の上限変更)しました。運賃改定は、消費税率引き上げに伴う運賃見直しを除けば1996年1月以来27年ぶり。改定率は定期外、定期、料金の全体で約13%。およそ20億円の収支改善を見込みます。

西牧世博社長は2023年3月31日の会見で、「運賃改定が認められたのは2022年度の大きな成果だ(大意)」と述べました。

四国新幹線を核にした公共交通の維持・再生策を検討

JR四国が車輌関係で2023年度に取り組むのは、老朽度や耐用年数を考慮した的確な更新。①特急電車とローカル気動車のリニューアル、②各種電子機器更新、③ワンマン運転拡大のための車両改造、④新型ローカル気動車の国際調達準備ーーの4項目を実施します。

リニューアルする特急電車は、1992年にデビューした8000系。電子機器などの更新とともに、客室設備で座席の交換やコンセントの増設を予定します。

8000系リニューアルデザインイメージ(画像:JR四国)

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四国全体で待望論が高まる四国新幹線については、2017~2019年に有識者や四国四県、地元経済界などとともに設置した「四国における鉄道ネットワークのあり方に関する懇談会Ⅱ」の中間整理(2019年10月公表)を踏まえ、将来的な四国新幹線の整備を前提にした公共交通の維持・再生策を検討します。

日田彦山線をBRTで復旧(JR九州)

2016年の株式上場で純民間会社になったJR九州は、今のところ事業計画などの発表はありません。古宮洋二社長は2023年4月3日の社内向け訓示で、「3カ年中期経営計画の2年目に当たる2023年度は、JR九州グループが将来に向けて夢を描く、極めて重要な年だ」と強調しました。

本年度の重点施策では、2022年9月23日の開業から半年を経過した西九州新幹線(武雄温泉―長崎間)の開業効果維持・拡大、2017年7月の豪雨で被災した、福岡、大分の両県にまたがる日田彦山線添田―夜明間のBRT(バス高速輸送システム)による今夏の復旧などを掲げます。

記事:上里夏生

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