今季も“怪物”トラックの饗宴、ETRC開幕。オープニングは”帝王”ハーンが制し、王者キスも2勝

 車両総重量5.3t超、1万3000ccの直列6気筒ツインターボディーゼルが1500PS以上を発揮する“怪物”トレーラーヘッドの饗宴、ETRCヨーロピアン・トラック・レーシング・チャンピオンシップが開幕。会期直前に集中豪雨に見舞われたイタリアはミサノで5月19〜21日に開催され、シリーズ6冠を誇る“帝王”ヨッヘン・ハーン(チーム・ハーン・レーシング/イベコ)がシーズン初戦で勝利を収める結果に。同じく2014-2015年に続き、2021-2022年の連覇による自身4度目の戴冠を決めた王者ノルベルト・キス(レベス・レーシング/MAN)も、予選完全制覇からの2勝を飾っている。

 先の4月下旬にはチェコ共和国のアウトドローモ・モストで公式テストを実施し、着々と2023年シーズンへの準備を進めてきたETRCパドックの面々だが、ときを前後して第2戦の開催予定地だったハンガリーより「最優先事項であるハンガロリンクの再建工事のため」との名目で、開催が不可能になったとの伝達を受ける。結果、現時点でも代替案は決まらず、6月3〜4日のスケジュールが空白となったまま開幕戦の週末を迎えた。

 その5月中旬も、イタリアはエミリアロマーニャ州を中心に大規模な水害が発生し、イモラ・サーキットで開催予定だったF1エミリア・ロマーニャGPも中止に追い込まれる事態に。幸いなことに、ミサノことワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリが位置する南部リミニは、他の地域ほど悪天候や洪水の影響を受けておらず、数日間にわたる綿密なチェックと軽微な修復を経て、無事にETRCのイベント開催にGOサインが出た。

 各陣営ともにオフの数カ月で完全に解体およびオーバーホールされた車体により、新シーズンに向けて最適化されたトラックを持ち込み、アンドレ・クルシム(ドントタッチ・レーシング/イベコ)やアントニオ・アルバセテ(Tスポーツ・ベルナウ/MAN)らもリビルドなった新型車両を投入。ハーンやキスといった絶対王者らの牙城切り崩しを狙う。

 しかし雨絡みからドライに展じる難しい条件となった今季最初の予選では、残り5分の段階でサッシャ・レンツ(SLトラックスポーツ30/MAN)が「セーフティ」と判断しピットに向かったものの、ここからの路面改善が著しく、スーパーポール圏内から降格するのをただ見守ることしかできない状況に。

 そのポール争いはいつもの“トップ2対決”となり、キスがポールポジションを奪取。フロントロウに並んだハーンの背後には、シリーズの紅一点として奮闘するシュティフィ・ハルム(チーム・シュバーベントラック/イベコ)が続くグリッド順となった。

集中豪雨の被災地に「想いを馳せる」としたETCRプロモーター。ミサノは無事開催の運びとなり、今季も“Innovation Camp”が引き続き実施される
雨絡みとなった土曜予選から、王者ノルベルト・キス(レベス・レーシング/MAN)がさすがのスピードを披露する
しかしレース1はシリーズ6冠を誇る“帝王”ヨッヘン・ハーン(チーム・ハーン・レーシング/イベコ)が初戦で勝利を収める結果に
トラブルから復帰のキスも、レース2で破竹のオーバーテイク劇場を開演し、あっさりと今季初勝利を飾った

■王者キスがレース2で最後尾発進から怒りの挽回を披露

 サーキット上空には灰色の雲が垂れ込め、今後さらに雨が降ることを示唆する天候のなか、ポールシッターのキスは典型的な2022年のレース運びでオープニングヒートを開始したものの、2周目突入を前に真紅のMANは急速にスピードを失い始め、そのままターン1で停止。メカニカルトラブルによりここで早くも姿を消してしまう。

 ライバルが戦いから離れたことで、ハーンは誰も縮めることができない快適なリードを築き、2番手はハルムが引き継いだが、アルバセテからの大きなプレッシャーにさらされ、終盤にはポジションを明け渡すことに。

 そのまま、なんとか表彰台最後のポジションを維持したかった彼女にも悲劇が襲い掛かり、残り3周でチーム・シュバーベントラックのイベコはパンクの疑いから白煙を噴き上げ、ハルムはレースを続行しようとするも、最終的にはダメージが大きすぎて断念。代わってクルシムがポディウムに滑り込む結果となった。

 続いてトップ8リバースで始まったレース2は、ギヤボックス交換の必要が発覚したハルムがスタートを見送るなか、王者キスが最後尾発進から怒りの挽回を披露。

 わずか3周でトップ5に浮上し、4周目までにトップを争う典型的なレンツ対キスの戦いに持ち込むと、濡れた路面によるラインとグリップを有利に活用した王者が逆転。最終的にレンツに約17秒差をつけて今季初勝利を収め、3位にはアルバセテとのサイド・バイ・サイドを0.4秒差で制したハーンが入った。

 明けた日曜は早朝から太陽の輝く快晴に転じると、前日同様レンツを打ちやったキスが定位置のポールを確保。3番手ハーンに、トラック修復なったハルムのイベコ陣営がセカンドロウに並ぶ。

 レース3はスタートダッシュこそ先頭2台が互角の勝負を繰り広げたものの、その後はチャンピオンの“横綱相撲”となり、3位ハーン、4位ハルムのオーダーでチェッカーを迎えた。

 週末最後となるレース4は、終盤までリバースグリッドの優位を保ったプロモーターズカップ登録のホセ-エドゥアルド・ロドリゲス(ロボコノーテ・レーシング・トラックチーム/MAN)とステファン・ファース(タンクプール24レーシング/スカニア)が粘り抜き、初の総合優勝を飾るかと思われた。

 しかし、ふたりのインディペンデント組を襲ったのはアルバセテの新型MANで、そのまま勝利を飾ったスペイン出身のベテランが週末の新たなウイナーとなった。

 前述のとおり第2戦予定地だったハンガリーはキャンセルとなり、現段階では6月10~11日のスロバキアリンクが続くラウンドに指定されている。

シリーズの紅一点として奮闘するシュティフィ・ハルム(チーム・シュバーベントラック/イベコ)も“トップ2”の背後で気を吐く。昨季未勝利の鬱憤を晴らせるか
晴天に恵まれたレース3は、チャンピオンの“横綱相撲”になり、キスが週末2勝目をマークする
新型MANの23号車を投入したアントニオ・アルバセテ(Tスポーツ・ベルナウ/MAN)が、レース4で週末の新たなウイナーに
プロモーターズカップ登録のホセ-エドゥアルド・ロドリゲス(ロボコノーテ・レーシング・トラックチーム/MAN)は、クラス3勝を飾っている

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