宮沢氷魚「当事者の気持ちを代弁」 発達障害の青年役、丁寧に 映画「はざまに生きる、春」で主演

「透と春のように、互いに壁を乗り越えようと努力するのはすてきなこと」と話す宮沢氷魚=大阪市内

 仕事も私生活もうまくいかない女性と、発達障害がある青年画家がでこぼこなコミュニケーションを重ねながらも、互いに理解しあうことの大切さを知る。純愛映画「はざまに生きる、春」で俳優・宮沢氷魚が主人公の画家を演じている。納得のいく演技に到達するまで何度も「迷子」になったといい、それだけの時間をかけた、思い入れのある作品だ。

 雑誌編集者の小向春(小西桜子)はある日、取材で「青い絵しか描かない」画家・屋内透(宮沢)と出会う。思ったことをそのまま口にし、うそがつけない透の純粋さは「発達障害」に起因するものだった。人の顔色ばかりをみて生きている春にはそれが魅力的に映り、次第に引かれていく。

 思いを寄せ合う2人だったが、相手の気持ちをくみ取れない透の言動に春は一喜一憂。ある誤解から気持ちがすれ違いかけ、春は、初めて自分の心に正直になろうとする。

 撮影前、医療関係者や発達障害の当事者と話した。「言葉遣い、声のトーン、目の動きなどは演技に反映させた」が、「発達障害だからこう、と最初から決めてかかったわけではない」と宮沢。オリジナリティーあふれる自由な表現、好きなことにことさら熱中する気質など、脚本で示された彼の個性を軸に、自分なりに透の造形を組み立てていったという。

 前作ではゲイの男性を演じた。「マイノリティーとされる人を演じるとき、自分の表現の仕方、届け方を間違えると当事者を傷つけ、差別を助長してしまう。作品を通してその人たちの気持ちを代弁するつもりで演じている。それは本作でも同じ」と責任の重さを語る。

 話題の舞台「パラサイト」も控え、多忙を極める。映画と舞台では表現の仕方や熱量も違うが「俳優としての幅は間違いなく広がる」と楽しんでいる様子。ただ「器用にこなすようになるのは怖い。役の人生を丁寧に生きたいですね」。

 公開中。シネ・リーブル神戸では6月2日から。(片岡達美)

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