「働きたいけど…」悩み多様、向き合った困窮者や障害者は4万7千人 兵庫・丹波の就職支援窓口が10年

開設10年を迎えた「丹ワークサポートたんば」=丹波市春日町黒井

 兵庫県丹波市と兵庫労働局が共同運営する就職支援窓口「丹(まごころ)ワークサポートたんば」(丹波市春日町黒井、市役所春日庁舎1階)が開設から10年を迎えた。3月末までに延べ4万7184人が利用し、1900人が窓口を通じて就職。生活困窮者や障害者らの就労支援や相談に力を入れており、多様な仕事の悩みに向き合い続けている。(那谷享平)

 現在、兵庫労働局の相談員3人▽臨床心理士などの資格を持つ民間の専門相談員▽市職員-を含む計6人が勤務。ハローワークと同様の求人紹介や職業相談に加え、キャリア相談やカウンセリング、模擬面接などを充実させている。

 人口減少が続く中、雇用対策を強化して定住を促すことなどを目的に、2013年4月に開設された。職業紹介業務を所管する国と市が一体で窓口を運営するため、移住促進や生活保護、子育て、商業振興などの市部局と連携し、ワンストップで利用者をサポートできるのが強みだ。

 同様の窓口は21年度末で全国180余りの自治体が導入している。兵庫では、ほかに県や神戸市、尼崎市、姫路市など8自治体。大都市が中心で、丹波のような地方都市は珍しい。兵庫労働局の担当者は「丹波市の人口減少への熱量が高いということだと思う。利用者や就職者の数も多い」と話す。

 丹ワークサポートたんばは「インターネットで仕事を探せる時代だからこそ、窓口に来る人と大切に向き合いたい」。今後、パート勤務の希望者や子育て後の復職希望者、若者など、さらに幅広い人に来てもらえる窓口を目指すという。

 23年度からは、市が市内に誘致した企業の人材確保の支援にも注力する方針。相談員が企業を訪問して仕事内容や職場環境を把握し、利用者とのマッチングにより、市内で生じているという人材不足の解消を図る。問い合わせやキャリア相談、心理相談の予約はTEL0795.74.3660

### ■国と丹波市、一体で運営 生活困窮など多様な相談に対応

 開設10年を迎えた「丹(まごころ)ワークサポートたんば」。さまざまな人が希望や悩みを胸に、仕事を求めて窓口を訪れる。日々、彼らと向き合う相談員らは「相談者の状況や時代が違っても、対応の原則は変わらない」と口をそろえる。大切なのは、利用者が自己と社会への理解を深める手助けをすることだという。

 「丹波市と連携しているため、市から紹介されて生活困窮や就職困難に悩む人に対応する機会が多い」。開設時から相談員を務める木下智絵さん(51)は言う。過去には、人生を悲観し、追い込まれて市に連絡した人がワークサポートにつながり、就職に至ったケースもあった。

 「仕事が続かない」「ハラスメントで休職を余儀なくされた」「長く仕事から遠ざかっており、まず何をしたらいいか分からない」。利用者の悩みは多様。じっくりと話を聞いていくと、それぞれが抱える背景や葛藤が垣間見えてくるという。

 「就職で困っている人は周囲から『甘えている』と思われがちだが、実際は違う」。それが、ワークサポートで10年働いた木下さんの実感だ。

 利用者が自分に合った仕事を見つけるために重要なのは、自分自身と社会をより詳しく知ること。「最初は自分の良さや弱みに気付けていない人が多い。何も生活困窮者に限ったことではない」。木下さんら相談員たちは、考えを巡らせながら利用者に接する。

 例えば、発達障害や精神障害のある人なら、症状や自分の特性を自覚できているか。若い人なら「正社員しか許さない」「お前にこの仕事は向かない」という親の言葉を真に受け、選択肢を狭めていないか。子育てでキャリアにブランクがある人なら、自分の技能を過小評価していないか…。

 心を閉ざし、投げやりな言葉を口にする人には、相談員自らの経験談を話して自己開示し、信頼関係を築くよう努める。臨床心理士の資格を持つ専門相談員の力も借りながら、利用者それぞれの課題を洗い出していくという。

 面接用のスーツを買うお金がない人には市職員の寄付した古着を貸し出し、海外出身者に翻訳機を使って対応。その人に応じたサポートを提供しようと手探りの日々だ。

 木下さんは「通常のハローワークよりも利用者と関わる時間が長いからか、就職が決まった後にわざわざ報告に来てくれる人も多い。喜びを共有することがやりがいになっている」と話している。(那谷享平)

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