社説:終盤国会 浮足立たず徹底した議論を

 国会会期の来月21日まで3週間余りとなった。先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)をまたぎ、会期末をにらんだ重要法案審議が焦点となっている。

 防衛費大幅増を賄う財源確保法案に野党が対決姿勢を強めているほか、原発利用や人権問題に関わる懸案が多い。

 ところが、自民党内でサミットを成果として衆院の早期解散論が取りざたされている。国民に負託された任期4年の半分にも満たないのに、「選挙に勝てそうだ」と投げ出すのは身勝手が過ぎる。

 浮足立つことなく、物価高で厳しい国民生活や、今後の社会の在りように責任を持った熟議こそ国会の使命である。

 急浮上してきたのがマイナンバーカードを巡るトラブルだ。証明書の誤交付や別人の医療情報、公金受取口座のひも付けが全国で次々に発覚。政府は「総点検」を迫られた。

 カードに健康保険証を一本化し、使途も広げる法案はすでに衆院を通過したが、このまま押し通すべきでない。点検後の対応を優先するのが当然だ。

 在留資格のない外国人の収容・送還ルールを見直す入管難民法改正案の参院審議も本格化している。長期収容の解消をうたいながら収容期間の上限を設けず、難民申請中に迫害が危ぶまれる本国へ帰す恐れに国内外から批判が高まっている。

 日本の難民認定率の低さや司法機関の審査関与といった根本的問題の見直しが欠かせない。

 LGBTなど性的少数者の理解増進を図る法案も大きな論点だ。一昨年に与野党の実務者で合意した「差別は許されない」の文言を、自民党が保守派に配慮して「不当な差別はあってはならない」などと修正した。

 与党案としてサミット直前に提出したが、差別禁止の対象を狭め、後退させる内容だ。

 G7首脳声明は「すべての人々が性自認や性表現、性的指向に関係なく暴力や差別のない社会」実現を掲げた。議長国として履行の責任が問われよう。

 立憲民主、共産、社民3党が元の合意案を、日本維新の会と国民民主党が第3案を提出した。権利擁護に資する法制化を図ってほしい。

 原発60年超運転を可能にする法案は、東京電力福島第1原発事故の反省から「依存度低減」を掲げてきた方針の大転換だ。

 だが、5法案を束ねたせいで議論は深まっていない。延長条件などを先送りし、「原発回帰」に走る政権の姿が際立つ。

 前半国会の焦点だった放送法の解釈変更問題は、立民議員の失言で追及がうやむやとなった。新解釈が政府の放送への干渉を強めたことこそ核心である。

 与党の横暴を阻むべき野党の足並みがそろわないのはもどかしい。立民と維新の共闘は憲法審査会を巡る発言などで解消したが、巨大与党に抗するには野党間の協力を広げるほかない。

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