大物俳優が出ると犯人がバレる『古畑任三郎』はミステリードラマのジレンマを突破した

(写真:東京スポーツ/アフロ)

住んでいた場所は違っても、年齢が近ければ「そうそう! わかる」って盛り上がれるのが、青春時代、夢中になったドラマの話。活躍する同世代の女性と一緒に、“’90年代”を振り返ってみましょうーー。

「若い世代にとって田村正和さんといえば『古畑任三郎』(フジテレビ系)ではないでしょうか。大スターで多くの作品に出演されましたが、代表作であることは間違いありません。’94年に始まった第1シリーズこそ視聴率は12~15%でしたが、再放送の反響が大きく、続く第2シリーズの平均視聴率は25%を超えました。作品は第3シリーズまで続き、さらにスペシャル版など全42回を数える、長寿人気ドラマとなりました」

そう話すのは、世代・トレンド評論家の牛窪恵さん(55)。

脚本を手掛けたのは、当時、舞台を中心に活躍していた三谷幸喜。テレビドラマでは『やっぱり猫が好き』(’88~’91年)、『振り返れば奴がいる』(’93年・ともにフジテレビ系)で注目を集め、『古畑任三郎』で誰もが知る存在となった。

「見どころは、毎回登場する豪華ゲストです。しかし、大物が登場すれば、すぐに犯人だとバレてしまいます。そこで同ドラマでは『刑事コロンボ』シリーズのように、あえて最初に犯人を明かし、古畑任三郎がどのように犯人を追い詰め、トリックを解明していくのかを見せる手法を取りました。物語がクライマックスを迎える前に暗転し、古畑が事件の見立てを視聴者に向けて問いかけるシーンが差し込まれるのも、舞台出身の三谷さんらしい演出なのではないでしょうか」

■田村正和さん演じる古畑任三郎の際立つ存在感

中森明菜、菅原文太さん、明石家さんま、山口智子、SMAP、イチローなど、多岐にわたるゲストが登場した。

「犯人役に抵抗を持つ芸能事務所もありますが、キャラクターを生かすのに長けた三谷さんの脚本力がものを言ったのでしょう」

バディを組む巡査・今泉慎太郎役の西村まさ彦も同作品でブレーク。お笑い芸人の石井正則も、俳優としての才能を開花させた。

「なにより、田村さん演じる古畑任三郎の存在感は際立っていました。特徴的な仕草やしゃべり方など、多くの芸人やタレントがマネしてきたほどです」

’21年、田村正和さんが逝去した際、“2代目古畑”を予想する声もあったが、三谷は自身のエッセイで《古畑を僕に書かせてくれたのは、紛れもなく田村さんです。田村さんがいなくなってしまった今、古畑任三郎が事件現場に戻ってくることはもうありません》と記した。

「これほどのハマり役だったからこそ、いまだに人々の心に刻まれているのですね」

【PROFILE】

牛窪恵

’68年、東京都生まれ。世代・トレンド評論家でマーケティングライターとして『ホンマでっか!?TV』フジテレビ系)など多数の番組で活躍

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