【コラム】大阪のIR区域整備計画認定を受けてのマカオの反応は?(WEB版)/勝部悠人

去る4月14日、日本政府はカジノを含むIR(統合型リゾート)について、大阪府・大阪市及び合同会社日本MGMリゾーツとオリックス株式会社が中心となって設立した大阪IR株式会社から認定申請が出されていた整備計画を認定したと発表。計画によれば、開業予定時期は2029年秋~冬とのこと。いよいよ日本におけるカジノのオープンが現実味を帯びてきたといえよう。

このニュースはマカオでも速報され、翌15日には現地各紙が大きく紙面を割いて詳しく報じた。1面トップに掲載したところもあるなど、「世界最大のカジノ都市」でも注目度の高いトピックだったことがうかがえる。

日本では、21世紀に入って以降、何度かカジノ導入機運が盛り上がったタイミングがあったが、さまざまな要因からなかなか実現に結びつかなかった経緯もある。それでも、「アジア最後のフロンティア」と呼ばれるなど潜在市場として常に話題に上る存在であり続け、毎年マカオで開催される国際カジノ見本市では必ずといっていいほど日本テーマのセミナーやパネルディスカッションが組まれてきた。

筆者はマカオ滞在歴が10年以上になるが、現地の記者や業界関係者と会う際に私が日本人と知られるや、必ず「いつ?」、「どこに?」と聞かれたり、日本はどうなっているんだとボヤかれたりもした。今回の正式発表により、晴れてクリアな回答ができるようになったので内心ホッとしている。

前置きが長くなってしまったが、今回は現地メディアが日本版IRに関して、どのようなポイントに注目しているのかをご紹介したい。

マカオとしての最大の懸念事項は地域間競争の激化だ。マカオのカジノ売上の97%がインバウンド旅客によるものとされ、旅客ソース別統計を見ても、そのほとんどを占めるのが中国本土からの旅客であるのは明らか。近年、シンガポール、フィリピン、ベトナムといった東アジアの新興カジノ国の成長が著しく、パイの奪い合いとなっている。特に日本については、中国本土と地理的に近く、また中国人の間で人気の旅行先となっていることから、マカオにとっては危機感が強いようだ。ただし、中国は広い。東北部、北京、上海あたりの北部からはマカオより大阪の方が近いが、マカオは南部に位置し、1億人の人口を擁する広東省と陸で接している点で優位性があり、棲み分けができるとの見方もある。

次に、大阪のIR計画にはMGMが参加するが、マカオにもMGMのIRが存在する。これについては、ポジティブに受け止められているようだ。先ほど、日本は中国人にとって人気の旅行先と述べたが、中国人に限らず、世界的にも人気のデスティネーションとなっている。現状、マカオは中国本土旅客への依存度が極めて高く、政府は直近のカジノライセンス入札の重要評価基準に国際客の誘致策を盛り込んだほど。大阪とマカオのMGM施設同士でゲストを相互送客することで共存共栄できるのではないかとの期待がある。すでに新ライセンスは決定し、1月からスタートしているが、政府が公表した評価点順位のトップはMGMだった。

そして、マカオには時間的余裕があるとの指摘も。マカオはウィズコロナへの転換を経て年初からインバウンド旅客数、カジノ売上とも急回復が進んでいるが、依然としてコロナ禍の3年間で負った痛手は癒えておらず、コロナ前の勢いを取り戻すには2~3年かかるとの見方が一般的だ。とはいえ、大阪のIRが開業するまで少なくとも6年間あり、マカオとして日本をはじめ、東アジアの競合カジノ国の状況を研究しつつ、十分な対策を講じることができるというもの。マカオの新カジノライセンスはスタートしたばかりで、期限は10年間となっている。前ライセンス期の20年余を見ても、ここから各事業者が集客につながる多種多様なハード、ソフトを次々と導入してくることが予想され、競合を引き離しにかかることも十分にあり得る。

一方、マカオでは新ライセンスのスタートと同時にカジノテーブルとゲーミングマシンの総量規制が導入されており、ゲームの種類やマシンの多様性といった点で海外勢との競争が不利になるという意見もあった。

マカオにおける報道を俯瞰すると、マカオとして日本をライバル視していることは間違いなく、競合の出現を好機に再点検と対策によるポジショニング強化を促す内容が主であった。今後も日本版IRの一挙手一投足が注視されることだろう。

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。

© 遊技日本合同会社