長寿な市区町村ランキング 川崎市麻生区、長生きの秘密は「坂道歩き」と「趣味の充実」

坂の多い川崎市麻生区

5月12日、厚生労働省が全国の市区町村の’20年時点における平均寿命を公表した。

女性でもっとも長寿だったのは神奈川県川崎市麻生区で89.2歳(全国平均87.6歳)。麻生区は男性の平均寿命でも84.0歳(全国平均81.5歳)と1位になり、アベックで日本一の長寿な町に!麻生区の長寿の秘訣はなんなのか。

「昨年秋に65歳以上を対象に実施した高齢者実態調査で、『15分くらい続けて歩いていますか』という問いで、麻生区の人は川崎市のほかの区と比べてもっとも高い88.2%が『できるし、している』と回答しています。また、がん検診を定期的に受診している割合は34.9%で川崎市で2番目の高さ。健康に気を配っている区民が多いことが影響しているのかもしれません」(麻生区地域ケア推進課)

どうやら、足腰が強い麻生区民。記者が実際に町を訪れてみると、その理由に合点がいった。

麻生区は、多摩丘陵に位置し、連なる里山を切り開いて発展した町。そのため、とにかく坂道が多いのだ。アップダウンを繰り返す道を高齢者がてくてく歩いている姿を多く見かけた。

坂道が多い麻生区のなかでも日本一の急勾配と噂されるのが麻生区岡上の「十番坂」。坂の途中に住む70代の男性はこう語る。

「ここに住んで40年。坂があるのは当たり前の風景だね。通勤や買い物、ゴミ出しなどでこの坂を行き来していれば自然に足腰が鍛えられますよ。坂は多いけれど、交通の便がよく、病院にも通いやすいです」

■ウオーキングでは得られない、坂道の効果

スポーツ医学、健康増進学が専門の田中喜代次・筑波大学名誉教授も、この“坂道の多さ”に太鼓判を押す。

「長寿のための3本柱は『運動』『食生活』『社会参加』。歩くことは、このうちの運動にあたります。特に坂道では、筋肉のなかでもふだん歩くことで鍛えられる遅筋だけでなく、速く強い力を発揮するときに働く速筋が鍛えられるのです。

加齢で筋肉量が落ちていくのは速筋が衰えるから。しかし、高齢者は無理のない運動を勧められるため速筋を鍛える機会がないのです。速筋が衰えると、体を支える瞬発力が低下し、バランスを崩したときに転倒・骨折の原因に。一日に30秒でもいいから、坂道や階段を上ったり、スクワットをしたりして速筋を鍛えることが長寿につながります」

ちなみに3位の長野県下伊那郡高森町、5位の兵庫県芦屋市も坂道が多いことで知られている。

さらに田中教授は、麻生区民の健康に対する意識の高さにも注目しているという。

「生活習慣病の予防のための特定健診やがん検診の受診率の高さは、区民の健康リテラシー、つまり健康意識の高さを表します。このことが、食生活の乱れをコントロールすることにもつながるのでしょう。社会参加による人との交流は、ただ会話をするだけの場合と異なり、約束や連絡をするため、脳によりよい刺激になるのです」

■仕事よりも趣味が好きな麻生区民

元気な老後を過ごすには、長く働くことが重要だとよくいわれているが、前出の高齢者実態調査で「あなたは今後も収入がともなう仕事をしたい(続けたい)と思いますか」との問いでは、65歳以上の麻生区民の51・8%が「仕事をしたくない」と回答。ほかの区に比べて仕事への情熱は低いらしい。

その一方、趣味を通じた交流や友人と接する機会があると回答した人はほかの区に比べて多い。また、「川崎市地域福祉実態調査」(’19年度)によると、麻生区民は地域活動やボランティア活動に参加したことがある人の割合がほかの区よりも高い。

つまり、趣味など、自分の選んだ活動で社会と結びついていることが、長寿につながる可能性があるのだ。

じつはこの傾向は、女性の平均寿命ベスト2位になった熊本県上益城郡益城町にも共通する。

「7年前の熊本地震で益城町は大きな被害を受けましたが、その際に炊き出しやご近所の安否確認など女性がボランティア活動を率先していました。もともと益城町では婦人会が活発で、今でも地域のボランティア活動などの中心は女性です」(益城町健康保険課)

4位になった草津市がある滋賀県は、都道府県別の女性の平均寿命でも2位になっている。

「名古屋、京都、大阪と大都市へのアクセスがいいこともあり、住みよさランキングで草津市は、滋賀県内で1位、近畿地方でもつねに上位に入っています。全国的に少子化が進むなか、今でも人口が増加中です。町の活気が刺激になって、高齢者も元気なのかもしれません」(草津市健康増進課)

■青森県民に多い「まずい」習慣

一方、平均寿命ワースト1位となったのは大阪市西成区。

「大阪府では、お笑い芸人のゆりやんレトリィバァを起用して健康増進への取り組みをさかんに行っています。しかし、大阪府は、がん健診の受診率が低く全国的にも最低レベル。大阪の女性は振り込め詐欺に引っ掛かりにくいといわれますが、他人の言うことをすぐには信じない地域性が、検診受診では悪い方向に働いているのかもしれません」(大阪市関係者)

また平均寿命ワースト30のうち、半分以上となる16市町村が含まれているのが青森県。濃い味を好む県民性が影響しているのだろうか。もっとも平均寿命が短かった東津軽郡今別町の健康・福祉の担当者が語る。

「特定健診、がん検診とも無料にして受診率を上げる取り組みをしたり、管理栄養士を職員に採用し、高血圧による脳卒中など突然死を防ぐための減塩習慣の普及・啓発活動を行っています。

ただ町民への配食サービスではせっかく減塩メニューにしても、味が薄いと醬油をドボドボとかけて食べる人も……。最近は減塩食に慣れてきた人もいるので、少しずつでも効果があらわれることを期待しています」

今回のランキングからわかるのは、長生きするために大切なのは、足腰を鍛える運動をすること、食生活や検診を受診するなど健康に気を配ること、そして趣味やボランティアなどを通じて他人と関わることのようだ。

当たり前のことのようにも思えるが、実際に取り組む人とそうでない人で差がついたのが今回の結果。寿命を延ばす行動を取り入れて、ピンコロを目指そう!

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