ボディターンタイプは腕をまったく使わない? 上級者の悩みを科学の力でレスキュー

大事な場面で出る右へのミスに悩む上級者のスイングを徹底解析

スイングには大きく分けて2つのタイプがあります。リストワークで球をつかまえるリストターンタイプと、体の回転で球をつかまえるボディターンタイプです。ただし誤解してほしくないのは、ボディターンタイプだからといって腕をまったく使わないというわけではないのです。今回は上級者の方のレッスンですが、ボディターンを目指している初級・中級者の方にも、大変参考になるお話です。

今回の受講者は…

「持ち球はドロー系ですが、緊張すると右にプッシュするミスが出てしまいます。絶対に右に行ってはいけない場面がくると、安心して打てなくなってしまいます。いまはなるべく腕を使わず、体のターンを重視したスイングを心がけています。それと、人からは“タメが少ないスイング”と言われるのも気になっていますね…」(高木さん 平均スコア70台)

ヘッド、シャフト、体の動きからスイングを解析

スイング軌道を解析すると6度以上のインサイドアウト軌道になっている

まずはインパクトの瞬間のヘッドの挙動を見てみましょう。ヘッドスピード(以下HS)は男子プロ並みの52m/s、飛距離も素晴らしいですね。上級者らしく、ドライバーはインサイドアウトのアッパー軌道で振れていますが、6度以上のインサイドアウト軌道になのが気になるところ。HS40m/sぐらいの女子プロなら申し分のない軌道です。しかし、男子プロ並みのHSにはインサイドアウトの度合が強過ぎるので、球筋が不安定になる要因になってきます。

シャフト解析では男子プロ平均以上の162度というタメがあることが判明

次に、シャフト挙動診断はどうでしょうか。これにより、ボディターンタイプかリストターンタイプかを見極め、リリースするタイミングやタメの深さなどを知ることができます。8.4という「リストターン比率」の数値を見ると高木さんはボディターンタイプで、リリースするタイミングも完璧。なおかつ、「アンコック角」(タメの角度)は162度もあり、男子プロの平均以上でした。タメが少ないと指摘されるそうですが、まったく気にする必要はありません。そもそもタメがなければ、52m/sというHSは出せないのです。

左腕の回旋角度がアドレス時に対してインパクトで25度も戻っていない状況

最後に、体の各部の動きを、モーションキャプチャーで分析してみましょう。気になるところは、スイング中の左腕の回旋角度です。アドレス時に12度、トップで131度になり、37度でインパクトしています。左腕の回旋はアドレス時と同じ角度に戻るのが理想ですが、25度も戻りきっていません。前回のレッスンのようなリストターンタイプの方であれば、切り返しから左腕を意図的に外旋させる指導になりますが、ボディターンタイプの高木さんのケースでは指導方法が異なります。テークバックで左腕が内旋し過ぎることでインパクトで戻り切らないので、テークバックを改善すべきなのです。

テークバックでヘッドを上昇させる腕の使い方

プロ(左)と比較して、テークバックでのヘッドの上昇が不十分

ボディターンスイングを目指すといっても、腕を一切使わないわけではありません。ボディターンに適した腕の使い方を覚えることが必要となります。アドレス時のボールとひじを結んだ“エルボーライン”に沿ってヘッドが上がり、そのラインに沿ってヘッドが下りてくるのが理想です。高木さんの場合、エルボーラインの下側にヘッドが上がり、ダウンスイングもラインよりも下側に下りてくるので、インサイドアウト軌道の度合いが強くなっている状態です。

体を回すだけではヘッドは上がっていかない

初心者の方をレッスンする場合、テークバックで胸を右に向け、ダウンスイングからフォローにかけて胸をしっかり左に向けることをまず教えます。これがボディターンの基本ですがこのままでは不十分です。ただ体を回転するだけでは、テークバックでクラブヘッドが上昇しないからです。先ほどお話したエルボーラインに正しく沿って上げるには、リストワークの意識が欠かせないのです。

始動で左手を下へ押し、右手を上へ引く動きでヘッドの自然な上昇をうながす

アドレスの状態から、ただ体を回しただけではヘッドは上昇しません。そこで、テークバック始動で体を回し始めるのと同時に、左手を下方向に突き出しながら右手はひじを曲げて上に引くという、ちょっとした腕の動きを加えます。こうすることで、テコの原理を使って簡単にヘッドを上昇させることができるのです。ボディターンを覚えたての初心者にも身につけてもらう動きですが、70台でラウンドする腕前を持つ高木さんも、実は足りていなかったところ。ボディターンタイプの場合、ダウンスイングで積極的に左腕を戻す動きは不要ですが、テークバックでしっかりとヘッドを上昇させるリストワークが不可欠なのです。

ハーフウェイバックでのヘッド位置が高くなり、極端なインサイドアウト軌道も解消へ

今までのスイングでは、テークバックでシャフトが寝てヘッドの上昇が不十分だったことによって、インサイドアウト軌道が強まり、タイミングを合わせるのがシビアになっていました。それだとフェースが戻りきらないリスクが高く、右プッシュのミスが起きやすい。ボディターンスイングに必須のリストワークを意識することで、「球がつかまらずに右にすっぽ抜ける」という恐怖心がなくなるはずです。

それでは、今回のレッスンを動画でおさらいしましょう。

動画:ボディターンでも必要な腕のアクションとは?【サイエンスフィット】動画はオリジナルサイトでご覧ください

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