難病ALS患者の嘱託殺人事件初公判 元医師の被告、起訴内容否認

 治療法のない難病を患い、将来を悲観する女性の依頼を受け薬物で殺害したとして、嘱託殺人罪などで起訴された元医師の裁判が京都地裁で始まった。元医師は罪状認否で起訴内容を全面否認した。

被告の元医師「共謀も実行もしていない」

 起訴状などによると、元医師の山本直樹被告は2019年、知人の医師・大久保愉一被告と共に、全身の筋肉が次第に衰え、治療法のない難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患う林優里さんから依頼を受け、京都市内の林さんの自宅を訪れ薬物を投与して殺害したとされる。

 捜査の過程で明らかになったのは、SNSでのやりとりだ。生前、将来を悲観した林さんはツイッターで『安楽死させてください』と投稿したところ、大久保被告とみられる人物が「訴追されないなら、お手伝いしたいのですが」と返信。林さんは「嬉しくて泣けてきました」と返信し、その後2人以外には見られない直接のメッセージ交換へ移行したとみられる。

 したがってその後の意見交換、計画立案の詳細が明らかにはなっていないが、最初のやりとりから数カ月後の2019年11月、大久保被告らは偽名で林さんの自宅を訪れ薬物を投与し、訪問からわずか16分で部屋を後にしたことが分かっている。2人が訪問後、林さんの容体は急変しまもなく死亡。遺体から普段服用していない薬物が検出され、事件が発覚した。なお捜査の過程で、事件直前の19年11月に林さんから山本被告の口座に計130万円が振り込まれたことも判明している。

 捜査当局はこれらの経緯について、大久保被告、山本被告とも林さんの主治医ではななく主治医に連絡もしていないこと、林さんの死期が間近ではなかったこと、報酬とみられる金銭の授受があったことから嘱託殺人とし起訴した。

 今日の初公判で山本被告は「起訴状に記された日時に大久保被告と一緒に林さんの自宅にいたことは間違いありませんが、共謀もしていませんし、もちろん実行もしていません。」と述べ、起訴内容を否認した。

 なお山本被告は別に、山本被告の父靖さんを山本被告の母淳子被告とともに3人で共謀して殺害した疑いが浮上し起訴され、今年2月に有罪判決を受けている(控訴済)。

浮かび上がる「安楽死ビジネス」の姿

 捜査の過程で浮かび上がってきたのは、山本被告と大久保被告の異常な関係性だ。山本被告は医学部を中退していて医師国家試験を受ける資格がなく、通常であれば医師になることはできない状況だった。しかし大久保被告からある不正な方法で受験資格を得る方法を指南され、医師にになることができたとみられている。その他、2人はSNSに「安楽死請負います」などと書き込んでいたことが分かっており、SNSを舞台に安楽死をビジネスにしようとしていたことがうかがえる。

 林さんに対する嘱託殺人の事件で、大久保被告の裁判日程はまだ決まっていないが、さきに地裁判決が出ている殺人罪の公判では、山本被告は「大久保被告の単独犯行」を主張し争う姿勢を見せている。こちらの裁判でも全面的に争い、大久保被告とも対立する可能性がある。いずれにしろ、今後の公判で真実が明らかになるのか注目される。

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