本の匂いっていいよね 鎌倉・本を嗅ぐ会、感受性に共感、追想も 親戚宅の玄関、英国紅茶、恋人のシャンプー…

本の匂いを嗅ぐ参加者=鎌倉市小町1丁目

 「親戚宅の玄関の匂いがする」「昔のせっけんで洗ったワイシャツの香り」。神奈川県鎌倉市内でユニークなイベントが開かれている。その名も「本を嗅ぐ会」。持ち寄った書籍の匂いを嗅いでそれを基に語り合う集まりだ。主催する会社員・樋渡茉佑子さん(28)=同市=は「本の魅力の楽しみ方の一つとして広まっていけば」と意気込んでいる。

 日曜日の夕暮れ時が迫るJR鎌倉駅近く。雑居ビル3階にある会員制図書室「かまくら駅前蔵書室」(同市小町1丁目)では男女7人が持ち寄った本の匂いをテーマに感想を述べ合う。「おばあちゃんの部屋にあった本の匂い」「最近嗅がない匂い。何々記念館で嗅いだことあるかな」。本の題名は「日本文学全集64 石川達三集」だ。今から半世紀以上前、1967(昭和42)年2月発行の書籍で、今では珍しい活版印刷の本という。

 そのほかにもクッキーの匂いがするという寺山修司の「絵本・千一夜物語」や英国紅茶の香りがするとされる「ハリーポッター」、「ビニール臭の強い」印刷したばかりの小冊子などさまざまなジャンルの書籍の匂いをテーマに語り合った。本の内容と匂いに関係はないという。

 樋渡さんは子どもの頃から本の匂いが好きだった。学生時代はそれなりに共感してくれる人がいたものの、社会人になるとほとんど相手にされなくなった。「それならば自分で(本の匂いを嗅ぐ会を)やってみたらどうか」と考え、2019年12月に始めた。新型コロナウイルス禍で自粛した期間もあったが、これまで10回以上開催してきた。

 参加者は30代以上の人がほとんど。3回目という女性は「自分にはない感受性に触れることができる。いろんな書籍の匂いも嗅げます」と満足げだ。参加者は「落とし嗅ぎ」と名付けた、顔の上に本を近づけ〃降りてきた〃匂いを嗅ぐ独特な方法を駆使し楽しむ。

 樋渡さんによると、本の匂いを決めるのは、使われている紙やインク、のりなどで輸送される状況なども作用する。「古い本の場合は、自宅での保管状況が大きく影響します」と樋渡さん。初心者には筑摩書房や河出書房新社、岩波新書などもお薦めという。

 「初めて付き合った彼女が使っていたシャンプーの匂いが思い出せた」と話す参加者もおり、「記憶をよみがえらせることができた」と思わぬ“成果”にもやりがいを感じている。樋渡さんは「電子書籍もあるが、紙の本への愛着や読書欲を高められるよう『本の匂い』を発信していきたい」と語っている。

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