新NISAに向けて、現行NISA利用者がやるべきこと

無期限の非課税期間と投資枠の拡大で期待される新NISAは、現行のNISAとは全く別物としてスタートします。いま一般NISA、あるいはつみたてNISAを利用している方は、そのまま新NISA口座に切り替わるので手続きは不要ですが、注意点もあります。


「貯蓄から投資」は長生きリスクに備える保険

人気YouTuberなどの影響もあり、NISA利用者は順調に増えている一方で、とりあえず初めてはみたけれど、どうしてよいか分からないという方も少なくありません。またそういう方に限って、市場が少しでも荒れると、怖くなって投資をやめてしまう傾向があります。

これでは、せっかくパワーアップした新NISAも宝の持ち腐れになってしまいます。ここでぜひ、人生における資産形成の意義を改めて考えてみましょう。

日本人は投資嫌いだけど保険好きと言われますが、リスクに備えようという意識は大切なことです。万が一、病気やけがで働けなくなったら・家族が亡くなったら、と適切な保険に入るのは、不安なく人生をおくるために必要な行為です。

しかし、私たちは「お金の価値が目減りするリスク」にも備える必要があります。例えば物価が上昇すると、同じ金額でも買えるものが少なくなり、生活は苦しくなります。また年金暮らしになると、公的年金は物価に連動するような設計になっていますが、少子高齢化時代でも制度が継続するようにと、マクロ経済スライドが導入され、年金額の上昇は物価上昇よりも低く抑えられることになっています。

つまり、お金の価値の目減りに備えてお金に保険をかけることが重要で、それは言葉を換えると「投資により経済成長の恩恵を受けながらお金を成長させる」ということになります。人生100年時代は、長生きリスクに備えるための保険としての資産運用が求められているのです。

期待される新NISA

2024年1月から、一般NISAとつみたてNISAが統合され新NISAがスタートします。これまで一般NISAかつみたてNISAかのいずれか一方しか選べなかったのが、新NISAでは、それぞれのNISAを踏襲した「枠」が併設され、投資可能額が拡充されるとともに使い勝手がよくなります。

現行の一般NISAを踏襲するのが「成長投資枠」で、ここは投資信託の他上場株式やETF、REITなどが購入できます。年間投資枠は240万円とこれまでの倍ですし、購入方法はスポットでもつみたてでも可能です。

現行のつみたてNISAを踏襲するのが「つみたて投資枠」です。こちらは今まで通り、金融庁指定の「長期・積立・分散投資」のための一定の基準を満たした投資信託のみが選択可能です。また投資方法は積立に限ると制約つきであるところも同様です。しかしこれまで年間40万円だった枠が120万円までに拡大されます。

この「成長投資枠」と「つみたて投資枠」は、どちらもすべて使い切らなければならないというものではありません。どちらか一方のみを利用するでもいいですし、成長投資枠ではスポットでの投資を行い、つみたて投資枠では毎月2万円ずつ積立で、という使い方もできます。ただし、枠を消化仕切れなかった時でも繰り越しはできません。

成長投資枠でつみたてNISA対象商品をスポットで購入したり、積立で購入したりすることは可能です。つまり、つみたて投資枠の対象となる投資信託であれば、つみたて投資枠を超えて成長投資枠でも投資ができる、年間360万円をすべて利用できるということです。しかし上場株式のように、成長投資枠でしか購入できないものをつみたて投資枠で購入することはできません。

新NISAの口座は、18歳以上の日本に住む人はすべて開設が可能です。一人一口座が認められ、金融機関の変更は一年に1回のみ可能です。例えば、ある年は〇〇銀行で、翌年は〇〇証券会社でという風に、一生涯においていくつもの金融機関でNISA口座を持つこともできます。その際、以前購入した投資商品は、そのままその金融機関の口座に残し、いつまでも非課税で運用が可能です。そして必要な時に解約もできます。

新NISAでは、取得価格ベースで1,800万円までという生涯投資枠も設定されます。投資商品を売却すると、その分投資可能枠が再生し、繰り返し利用できます。成長投資枠のMAXは1,200万円まで、つみたて投資枠のMAXは600万円、合計1,800万円となっていますが、前述の通り成長投資枠でつみたて投資枠の対象となる投資信託を購入することは可能なので、つみたて投資枠は1,800万円まで拡大可能と理解できます。逆に成長投資枠は1,200万円の上限を超えることはできません。

例えば、毎月5万円ずつの積立を30年継続すると、投資元本は1,800万円になります。生涯投資枠を使い切ると、新しい投資はできなくなります。仮にその間5%程度で運用ができ、資産残高が4,000万円超となったので、そのうち2,000万円を解約するとしましょう。またその取得価格が1,000万円だとすると、解約により生涯投資枠1,000万円が空くので、次年度以降成長投資枠240万円、つみたて投資枠120万円上限で投資を再開することができます。このように生涯枠も用途に合わせて資金を引き出すことで繰り返し利用が可能です。

現行NISA利用者がするべきこと

つみたてNISAを行っている方は、自動的に新NISA口座が開設されるので、特別に何もしなくても現状のまま投資が継続できます。投資枠が広がりますが、無理に積立額を上げる必要もありません。

ただし、運用商品選びとつみたて計画は練り直しましょう。新NISAになってもスイッチングはできず、運用商品を見直す場合は非課税期間の途中で売却するしか方法がありません。NISAの性質上、長期で同じ商品を持ち続ける方が適しているので、現状の運用商品でいいのかは考えたいところです。

また繰り返しになりますが、これまでは年間40万円と比較的少額での投資でしたが、つみたて投資枠の対象となる投資信託であれば、年間360万円までも使えるようになります。長期目標の設定と、それに応じたつみたて計画も立ててみましょう。

現行のつみたてNISAについては20年間の非課税期間を十分活用したうえで、ライフプランに合わせて解約します。毎年少しずつ取り崩してもいいですし、一括で全額を解約してもいいでしょう。

一般NISAの場合は、新NISAスタートによりロールオーバーができなくなるので、これまで以上に注意が必要です。例えば2023年末には2019年に投資をした一般NISAの非課税期間が終了します。この時の選択肢は課税口座に移すか、売却するかの2択となります。

課税口座に移す場合、時価となるため仮にマイナスの状態になっていたら、マイナスからのスタートになります。例えば100万円でA株を買っていて、5年の非課税期間終了時の80万円のタイミングで課税口座に移すと、80万円が購入価格とみなされてしまうのです。その後100万円に戻ったとしても、20万円の利益と認識されるので税金がかかります。もしその投資商品に見切りをつけ売却をするのであれば、NISA非課税期間内で売却した方がいいでしょう。

利益が出ている場合、非課税期間内に売却してもいいですし、継続を希望するのであれば新NISAで買い直すことも可能です。タイムラグが発生するため、思った通りの売買ができないかも知れない、というのはご承知おき下さい。

また、特に上場株式で運用をしている方は、新NISAとなっても損益通算や損失の繰り越しはできないため、今後の運用方針によっては課税口座を利用するべきかどうかは精査したいところです。年間投資枠240万円が魅力で個別銘柄の運用を継続するのであれば、無期限の非課税期間を有効活用できるような銘柄、例えば高配当銘柄などを新NISAで購入し、そのほかは課税口座を活用するというのもいいかも知れません。

ETF、REIT、あるいは投資信託を一般NISAで運用していている場合も、ロールオーバーができないので、考えるべきポイントは上記と同様です。損をしていても、利益がでていても、もう少し待ちたいという気持ちがある方も多いですが、非課税期間が順次終了すると、一般NISAは「解散」となりますので、気持ちもあわせて整理が必要です。

情報を待ちつつ、早めの行動を

2023年5月末現在、新NISAに関する情報は十分とは言えません。

例えば、新NISAの成長投資枠で扱う投資信託については信託期間20年未満、毎月分配型の投資信託、及びデリバティブ取引を用いた一定の投資信託などを除外するという方針がすでに出されています。しかし、具体的に各金融機関が成長投資枠でどの投資信託を扱うのかは公表されていません。

また、つみたてNISAの対象となっている投資信託は228本ありますが、これらすべてを扱っている金融機関はありません。一般的にネット証券は多数扱っていますが、銀行の場合1本しか扱っていないというところや、4~5本というとこもざらにあります。そもそも一般NISAだけで、つみたてNISAはしていないという金融機関もあります。

これについては、新NISAスタートにあたり、つみたて投資枠に新たに対象となる投資信託が追加されるかも知れませんし、信託報酬の更なる引き下げなどがおきるかもしれません。また、各社の取扱商品が増えることも考えられます。

今後の情報開示によっては、新NISA口座は今とは別の金融機関で開設しなおすというケースも出てくるかも知れません。その場合は、1月からスタートするための口座開設締め切りが設定されるでしょうから、遅れないよう手続きをしましょう。


個人的には今後、過度なNISA口座獲得キャンペーンが行われることなく、この制度が本当の意味で国民の資産所得倍増のために役立つように願っています。また一人一口座とされていますが、複数口座を併用可能とすることで、金融機関サービスの利用が広がったり、NISAで積立をしている人は住宅ローンの金利優遇が受けられたりなど、人生をより豊かにする資産形成を応援するサービスが出てくることを期待しています。

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