「エンバーミング」で故人と向き合う時間を 青森県内初の遺体防腐処置施設が完成、6月稼働

エンバーミングセンターの内部。感染予防のための特殊な空調装置が備え付けられている=27日、青森市

 遺体を長時間保存できるように防腐処置を施す「エンバーミングセンター」が青森市中央1丁目に完成した。6月下旬にも稼働する。故人と遺族がゆっくりと向き合う時間を提供したい-と、同市の葬祭業者が県内で初めて整備した。エンバーミング処置件数は全国的に増加傾向にあり2022年度の件数は約7万件。青森県でも今後増えるとみられている。関係者は「遺族の悲しみに寄り添う弔いの形としてエンバーミングを提案したい」と語る。

 センターを整備したのは、同市の葬祭業「リンクモア平安閣グループ」。国の「事業再構築補助金」(4千万円)を活用し、遺体安置施設(3室)とともに整備した。

 センターには感染防止のための空調装置のほか、遺体の消毒・保存施術を行う台も設置された。

 遺族からエンバーミングの希望があった場合、病院や施設、自宅からセンターに遺体を搬送。「エンバーマー」という民間資格取得者が3時間ほどかけて保存・復元処置を行い、故人が健康だった頃の顔色や表情をよみがえらせる。

 エンバーミングから火葬まで遺体を保存できる期間を50日以内と取り決めしている。

 他の葬祭業者からのエンバーミングの依頼も対応。利用料は税込み21万6千円(リンクモア会員17万6千円)。現在、県内にはエンバーマーがいないため、仙台市などから派遣される。

 エンバーミングのメリットとして▽死後、余裕を持って葬儀日程を組める▽葬儀参列者が、生前の故人に近い姿を見ることができる-などが挙げられているほか、青森県で亡くなった外国人を防腐処置し、母国に送れるなどのメリットがある。

 日本遺体衛生保全協会によると、全国のエンバーミング実施数は22年度が約7万600件で、21年度(約5万9400件)より約2割、20年度(約5万3千件)より約3割増加。10年前の12年度(約2万6200件)に比べ2.7倍に増えている。

 実施件数が増えている理由について、エンバーミング技術が知られるようになったことや、全国にセンターが整備されていることが挙げられている。リンクモアの船橋素幸社長は「コロナ禍で入院中に、面会できないまま亡くなってしまうケースが多くあり、故人との時間をゆっくり持ちたいという希望もあるようだ。エンバーミングは遺族の悲しみに寄り添う『グリーフケア』にもなる」と話した。

 同社と共にエンバーミング事業を行うセンティスト(仙台市)の取締役本部長・石川隆次さんは「エンバーミングは、良いお別れを実現する一つの選択肢。センター稼働によってエンバーミングが普及すると考えている」と述べた。

 東北地方ではこれまで、青森県と秋田県にエンバーミング施設がなかった。青森県から仙台に遺体を移送し、エンバーミングをするのに約50万円かかっていた。

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