出生前検査の情報収集、ネット検索だけで大丈夫? お腹の赤ちゃんに病気があったらどうしよう…頼れるサイトとは

出生前検査を受けた女性。事前に動画で学んだことをメモに残していた=3月、東京都内

 お腹の中にいる赤ちゃんの病気や状態を調べる出生前検査の利用が広がっています。生まれてくる前に赤ちゃんの状態が分かれば、必要な医療や社会的な支援を早めに準備できる可能性があります。ただ、検査を受けるのかどうか、受けるとすればどの検査にするのか、妊娠中の限られた時間で考えて決めるのは容易ではありません。結果の受け止め方に悩む人もいます。検査のこと、遺伝のこと、子どもが生まれた後のこと、インターネットで検索してもどれが正しい情報か見極めるのが難しい時、何を頼りにすれば良いのか。医師や専門家に取材しました。(共同通信=岩村賢人、村川実由紀)
※記者が音声でも解説しています。以下のリンクから共同通信Podcast「きくリポ」をお聞き下さい。https://omny.fm/shows/news-2/21

 ▽出生前検査を受けた人に聞いてみると…

 東京都在住の43歳の女性は2021年8月に妊娠が判明しました。子どもを授かりたいと思ったきっかけの一つに長女の「妹や弟をほしい」という思いがありました。
 高齢での出産になるため不安はありました。元気な赤ちゃんを産んであげたい。もし健康に不安があったとしても長女に伝える準備がしたい。そんな気持ちから、出生前検査を受けることを考えました。
 出生前検査の存在はもともと知っていました。追加で情報を得るため、いろいろな検査法の違いをインターネットで検索をしても十分な情報は得られませんでした。病院は高齢での出産のケースに慣れているところを選びました。最も参考になったのは病院で渡された資料で、それぞれの検査の特徴がきちんと解説されていてよく理解できました。
 興味を持ったのは、「新型出生前診断(NIPT)」です。妊娠9~10週目以降に受けられる検査で、妊婦の血液中に含まれる赤ちゃんのDNAのかけらを分析して、21トリソミー(ダウン症)と18トリソミー、13トリソミーという3つの染色体異常のリスクを調べます。興味を持った理由は、友人がこの検査を受けていたからでした。
 価格は自費で約10~20万円。「高いな」と思ったものの、結果が早く分かると聞いたので、夫にも相談し、受けようと考えました。

日本産科婦人科学会の啓発ポスター(学会提供)

 ▽検査結果はメールで

 医療機関に検査を受けたいと伝えると、その前に必要なことがありました。検査や遺伝に詳しい専門のスタッフから説明を受け、疑問があれば相談する「遺伝カウンセリング」です。
 まずはオンラインで検査が陽性だった場合にどんなことが起こる可能性があるのかといった情報を得られる動画を見たり、クイズ形式のテストを受けたりしました。その後、1時間ぐらい対面で遺伝カウンセラーと話をしました。事前に家族とよく話し合っていたため、カウンセリングは1人で受けました。
 動画や遺伝カウンセリングを通じて、「陰性」だからといって赤ちゃんが確実に健康に生まれると保証されたわけではない点、「陽性」だった場合は追加で羊水検査などより精度の高い検査で確定診断をする必要がある点などさまざまなことを学びました。特に念を押されたのは、「NIPTで調べられる病気は限られていて、赤ちゃんに関する全てが分かるわけではない」という点でした。
 検査を受けたのは、2021年の9月で、結果を知らせるメールが届いたのは10月でした。結果が出るまでの間は悩まないように仕事に打ち込んでいましたが、いざ結果を見るとなると緊張は抑えられません。メールには「陰性」と書かれていました。その後電話などで説明を受けました。
 遺伝カウンセリングで教えてもらった内容を踏まえて、長女には赤ちゃんが生まれるかもしれないと打ち明けましたが、「順調に育つようにお祈りしてね」と伝えました。
 子どもは2022年4月に生まれました。「今のところ、健康上の問題がなかったから言えることかもしれませんが、検査もカウンセリングも受けて良かったです」と女性は振り返ります。

 ▽どのサイトを見ればいいのか

 妊娠してから子どもが生まれるまでに必要な準備はたくさんあります。その中で、出生前検査について調べ、考える時間は限られています。この女性は専門家に相談し、検査の種類や何が分かるか、全てが分かるわけではないことなどについて納得して検査が受けられましたが、そうではないケースもあります。
 出生前検査は、NIPTのほかに、羊水検査、繊毛検査、母体血清マーカー、超音波マーカー・コンバインド検査などさまざまな種類があります。検査は義務ではなく、受けた人は出産に至った件数の1割程度というデータがあります。検査は自費で、数万~20万円ほどかかります。
 NIPTは2013年に一部の施設で始まりました。その後、産婦人科以外の美容外科や歯科などの施設も参入していますが、検査前の説明や検査後のサポートが十分でない施設もあり、問題視されてきました。
 現在は日本医学会の「出生前検査認証制度等運営委員会」がNIPTを実施するための体制が整った施設を認めるという制度ができましたが、インターネットで検索すると、出生前検査や遺伝に詳しい専門職の人がいる認証施設の情報と、そうではない施設の情報が混在しています。検索結果の上位に来る施設が認証施設とも限りません。

日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会が作ったホーページ

 認証されていない施設では検査前後のサポートが十分に行われていない可能性があります。専門家からは「きちんとした情報提供がされておらず、誇大広告とも取れる内容のものもあります。不利益を被った妊婦の事例も多く、不安をあおっているのではないか」といった声が出ています。
 問題を解決するため、学会や厚生労働省は情報発信に力を入れています。現在、二つのホームページが公開されています。
 一つが、日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会が作った「一緒に考えよう、お腹の赤ちゃんの検査」というホームページです。
https://www.jams-prenatal.jp/
 二つ目が、2023年3月に公開された厚生労働省が予算を充てて医師や患者団体、遺伝の専門家らが作った「妊娠中の検査に関する情報サイト」です。
https://prenatal.cfa.go.jp/
 いずれのホームページも、各都道府県にある認証施設の一覧が見られます。さらに、「一緒に考えよう、お腹の赤ちゃんの検査」は、検査を受けた人と受けなかった人の声や、相談に対応する自治体の窓口や団体を紹介しています。

医師や患者団体、遺伝の専門家らが作った「妊娠中の検査に関する情報サイト」

 ▽検査でダウン症と分かったら…

 「妊娠中の検査に関する情報サイト」では、検査の説明のほかに、ダウン症の人が幼少期や大人になってからどのように過ごしているか、医療関係者や支援者団体が当事者や家族に取材してまとめたドキュメンタリー映像を公開しています。
 ダウン症の子どもの診療に関わる埼玉県立小児医療センター遺伝科の大橋博文部長によると、ダウン症の人の予後はとても改善していて、かつては3歳までの死亡率が10%程度でしたが、感染症への対応や心臓の治療成績が向上したため亡くなる子どもは減っています。現在は3歳を過ぎたら健康面での心配がなくなる人が多いそうです。

出生前検査について報道向けのセミナーで講演する埼玉県立小児医療センターの大橋博文医師=3月8日午後、東京都千代田区

 長く生きられるようになったのは朗報ですが、大橋さんは「医学的な情報に比べて、子育てに必要な療育とか家族会とか、社会福祉制度に関する情報は探してもなかなか見つからない状況だった」とこれまでの情報発信に欠けていた点を指摘しています。
 ホームページで公開されている映像は、2歳、3歳、小学生、高校生、30歳、45歳、59歳のダウン症の当事者それぞれに取材した映像と、「余暇とスポーツ」に着目した映像など計9本です。1本10~15分程度で、当事者や家族の話、学校や職場で過ごす姿、友人や同僚と交流する様子を紹介しています。
 大橋さんは「ホームページができて、正確な情報に簡単にアクセスできるような場所が整ったのは画期的」と評価し、「検査で異常が見つかっても、『育てられるんだ』『不幸にならず、家族として一緒に過ごしていけるんだ』と考えられる有用な情報源になったら良い」と期待します。
 動画の制作に関わり、自身もダウン症の子どもを育てている、NPO法人「親子の未来を支える会」理事の水戸川真由美さんは「出生前検査を受けて、結果が確定するまでの時間はいろいろ考えてしまう。結果が陽性だったら『今後はどうなるんだろう』と悶々とする。どういう道を選択するのかを考える情報源の一つとして活用してほしい」と映像の意義を語ります。

ダウン症の当事者のドキュメンタリー制作に関わったNPO法人「親子の未来を支える会」理事の水戸川真由美さん=3月31日午前、東京都豊島区

 NPO法人では、出生前検査を勧めない、妊娠の継続も中断も強要しない中立的な立場で、さまざまな人の相談に乗っています。ダウン症の人と接した経験がないと、「立てるんですか」「喋れるんですか」「旅行に行けますか」という質問もあるといいます。特に、成人して、親が高齢になって以降の生活が分からないという声が多いそうです。
 「ダウン症の人たちの現状を淡々と伝えている。出生前だけじゃなく、ダウン症の赤ちゃんをさずかった家族や支援する人たち、当事者以外のいろいろな人にも見てもらえる映像だと思う」。そう水戸川さんは話しています。
 今回制作したのはダウン症の人たちの映像ですが、厚生労働省は、NIPTの対象である他の染色体異常「13トリソミー」と「18トリソミー」に関する映像を作ることも検討しています。
 映像制作に中心的に関わった株式会社PDnaviの西山深雪・代表取締役社長はもともと認証施設の国立成育医療研究センターで「認定遺伝カウンセラー」として働いていました。「検査は受けても受けなくても良い。でも正しい情報源にはたどり着いてほしい」と話しています。

株式会社PDnaviの代表取締役社長、西山深雪さん

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