もうすぐ暑い夏の到来。四十度近い猛暑に加え、クーラーの効いた室内との温度差や、冷たい飲み物の取り過ぎによる内臓の冷えなどによって、自律神経がみだれて、体調不良を起こす人が多くなるので要注意です。冷え症対策として、お腹を温めると、腸内の働きが良くなり、免疫力を高めると言われています。日本人は子どもの頃から腹巻きをつける習慣があり、近年になって、その良さが見直されてきています。

奈良県橿原市にある「巽繊維工業所」で、奈良県の地場産業である靴下の編立技術を使って、夏用の薄手の腹巻きを作っているとの情報をゲット!腹巻きの自社ブランド「ならまき」を作り出した企画営業担当の巽美奈子さんにお話を伺ってきました。

―――巽繊維工業所はどんな会社なのでしょうか?
私の曽祖父が昭和3年に創業して今年で95年目になります。創業時は、魚網用の糸を紡ぐ撚糸工場でした。その後拡張移転を続け、橿原市に大和工場を新設。昭和32年、靴下の製造を開始しました。主に先の丸いスクールソックスなどを下請けで作っていたそうです。祖父の代になって、当時製造が難しいとされた五本指の靴下を開発して作り、五本指靴下を強みとして、業界に広く知ってもらう会社に成長しました。とはいえ、経営は順風満帆ではありませんでした。

―――日本の下請け工場は大変な時代でしたよね。
この頃から、メーカーから注文が来るのを待つのではなく、自社ブランドを立ち上げて、独自の商品を作るようになりました。阪神淡路大震災の後、父は自衛隊の活動を応援するべく、自衛隊員のための訓練用ソックスの製造を開始しました。自衛隊員の方の要望を聞きながら、過酷な訓練に耐えられる丈夫な靴下を作るのに、何度も試行錯誤を繰り返し、やっと完成したのが「ガッツマン」という靴下です。自衛隊の駐屯地に出向いて販売し、直接消費者の声を聞くことで、改造を繰り返し、唯一無二の靴下となり、自衛隊員の中では知らない人はいないほどのブランドとなりました。

―――下請けから自社ブランド展開へ経営方針を切り替えたのがよかったのですね。
下請けだと、お客さまの声を聞く機会がなかったので、どんな商品をお客さまが求めているかなどがわからなかったのです。今は、ネット販売などで口コミを見る事ができ、ダイレクトにご意見が聞けるようになったのでありがたいです。父の代になって、「お客さまの要望を形にする」という企業スタンスが始まりました。父が道を築いてくれたのかなと思います。創業100年にあたる2028年のタイミングで、父から私に代替わりする予定です。この時までに、お客さまに当社の商品を一番に選んでいただけるような会社にしていきたいと思います。

―――後を継ぐということは、小さい頃から決めておられたのでしょうか?
子どもの頃から祖父に「お前の旦那さんが後を継ぐんやで」と言われてきたのですが「女性が後を継いではいけないのかな?」という疑問が常にありました。女の私でもやれるはずだと思っていたんですね。大学卒業後、営業を学ぶため、敢えて菓子卸会社という別業種に就職。いつか培ったことを発揮できるようになったら、実家に戻ろうと思っていました。
―――何年前に巽繊維工業所に入られたのですか?
7年前、27歳のときです。靴下の大手メーカーがOEM製品の発注を減らすという噂を聞いて、家業の存続に危機感を覚え、戻ってきました。
―――靴下業界に入ってみて、いかがでしたか?
実際に業界は想像以上に厳しい状態だったのですが、父から、お客さまの声を聞くようにと言われ、お客さまからの「ようやく求めていた商品に出合えた」「何年も愛用している」という長い書き込みを読んで、心の底から感動しました。「リピート買いしたいので、会社がつぶれませんように」と心配してくださる書き込みもあり、うちの商品を待ってくれている人がいる限り、絶対に存続しなければいけないと、気持ちを新たにしました。

―――最初に取り掛かられた商品が腹巻きだったんですね。
主力商品の「ガッツマン」が男性向けの商品だったので、女性向けの商品を開発したいという思いがありました。父の、「これと思うものがあれば、なんでも作ってみろ」という後押しを受けて、お客さまからのご要望が多かった、丈夫でよく伸びる薄手の腹巻きの製造に挑戦しました。地場産業を盛り上げたいとの思いもあり、奈良を発信する商品にするため試行錯誤を繰り返し、開発を進めました。奈良県は日本製靴下の生産量が日本一なんです。それを支える地場の老舗メーカーの高い技術力を集結し、分業で生産することで、あたたかいのに通気性も良い、春先や冷房の効いた夏にもおすすめの薄い腹巻きを完成することができました。それで、「なら」から「はらまき」を発信したいとの想いから「ならまき」という奈良製を強調したブランド名にしたのです。
―――他社製品にも腹巻きはありますが、どこが違うのでしょうか?
安価な他社製品は、そのほとんどが海外製です。お客さまの声を聞くと、洗うとすぐにボヨボヨになる、肌に触れるとチクチクする、長くつけていると苦しい、下腹のところでクルクル巻き上がってしまうなどというご意見がありました。当社の製品は、そんなマイナスポイントを一つひとつ検証し、高品質の商品作りを目指しました。

―――「ならまき」を触ると空気をつまんでいるようにふんわり柔らかいですね。
丸胴編みといって、靴下の技術を併用した筒状の機械で編んでいます。サイドにつなぎ目がないため、肌に直接つけても負担がありません。刺繍の裏側も、ベビー用品の刺繍をしている工場で製作しているので、フラットになっており、気にならずにつけていただけます。

―――ワンポイント刺繍の柄がかわいいですよね。
奈良土産を作りたいとの思いで、奈良の縁あるものを縁起物として刺繍にしました。鹿や大仏、奈良漬け、柿の葉寿司などのほか、橿原ブランドとして認定された、神武天皇の東征を勝利に導いたといわれる金鵄(きんし)も人気です。昨年第2弾で、キトラ古墳の天文図と四神獣の図柄を採用。男性の方でもつけていただけるよう、これまでのSMサイズ(ウエスト64-77cm)に、MLサイズ(ウエスト69-85cm)を追加しました。色は黒と白の2色展開しています。

―――素材について教えてください。
生地は、吸水性・通気性に優れたコットン75%と、人の肌に最も近い天然繊維で保湿に優れるシルク20%の混紡です。双方の特質の良いとこ取りを実現し、夏はサラッと快適に、冬はあたたかくご利用が可能です。手入れは、洗濯ネットに入れて洗濯機にかけて風通しの良い半日陰で干していただくだけなので楽ちんです。私は2枚を交互に毎日使っていますが、1年経っても劣化せず、使えています。


まだまだ小さな会社で、私がひとりで営業に回っているので認知度が低いですが、売り場が増えています。「奈良蔦屋書店」やイオンモール大和郡山と高の原にある「イノブン」、奈良もちいどのセンター街にある「絵図屋」、平城宮跡歴史公園の「天平みつき館」などで取り扱っていただいていますので、実際に手に取っていただければありがたいなと思います。
―――今後どのような展開を考えておられますか?
海外に腹巻き文化を伝えられたらいいなと思っています。今は、フランス・パリにある日本のアンテナショップにも置いていただいているのですが、とても反響がよく、売り上げも伸びています。身体をあたためるアイテムのひとつとして認知度を上げて行ければと思います。
―――ありがとうございました。
■会社名 有限会社巽繊維工業所
■住 所 奈良県橿原市土橋町607番地
■アクセス 近鉄大阪線真菅駅より徒歩10分
■営業時間 9:00~17:00
■休業日 土曜日、日曜日、祝日
※この記事は取材当時の情報です。