初任給アップ、苦悩の中小企業 売り手市場、県内でも採用競争激化

就職活動が学生優位の売り手市場になる中、少しでも良い人材を確保しようと初任給を引き上げる県内企業が出てきた。一方で引き上げ原資を確保できない中小企業は焦りを募らせている=米沢市

 新入社員の初任給を引き上げる県内企業が増えている。物価高騰への対策や国による賃上げ要請に加え、人手不足が深刻化し、給与面を改善して少しでも良い人材を確保する狙いだ。一方で、県内中小企業の多くは経営環境悪化に苦しみ、経営者たちは「人材確保のため初任給を上げたいが、その原資がない」と嘆く。

 就職活動は現在、学生優位の売り手市場になっており、企業の採用競争が激化。首都圏の企業と同じ土俵で競うため、待遇を改善した県内企業がある。

 生産装置メーカーのハイメカ(米沢市)は本年度、大卒者の初任給を1万円引き上げた。「首都圏の企業が賃上げする中、若者に地元に残ってもらうためには給与を上げるしかない」と横山千広社長。大卒の技術職はここ数年、採用できておらず「新卒者自体が減っている。人材確保はますます厳しくなる」と見通す。

 食品容器メーカーのエフピコ(広島県)は寒河江市などのグループ会社の給与水準を引き上げ、初任給も生産部門が大卒、高卒とも2万3千円増、配送部門は大卒が1万7千円増、高卒が1万8千円増になった。広報課の担当者は「全国的な人手不足が続く中、優秀な人材の確保と定着を目指す」と語る。

 荘内銀行(鶴岡市)は今後、大卒と高卒を1万5千円、短大・専門学校卒を2万1千円引き上げる計画。山形銀行(山形市)も来年度に一律1万5千円増額する案を労働組合に示した。

 ただ、原材料価格や電気料金、燃料費の高騰にあえぐ県内中小企業にとって、足りない人手を確保するための初任給アップは夢のまた夢。既存社員の定期昇給すらままならない会社があり、経営者たちは「良い人材から逃げられてしまう」と焦りを募らせる。

 村山地域の建設会社は十数年間、初任給を据え置いたままだ。男性社長は「学生は休日数と共に初任給の額も見て志望先を決める。少しでも見栄えの良い額を提示したいが、上げたくても上げられない」と話す。離職者が相次ぎ、「退職理由に給与の少なさを挙げる若手もいて、返す言葉がない」とため息をついた。

 最上地域の製造業者は求人を出しても応募がほとんどなく、男性社長は「引き上げの必要性は痛感している」と話す。先の見通しが立たないため決断できないといい、「待遇を比べると見劣りする。新入社員を採用できないと会社存続に関わる」と不安を漏らした。

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