社説:供給網の強化 分断せず自由貿易の視点で

 「囲い込み」で対抗しあうばかりでなく、自由貿易の意義を見失わないようにしたい。

 日米など14カ国が参加する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」が、サプライチェーン(供給網)を強化する協定を結ぶことで合意した。

 半導体や鉱物など重要物資の供給が途絶えるリスクへの対応を強化し、危機の際は互いに融通する仕組みを構築するとしている。

 目指すのは特定国への依存脱却である。特に希少鉱物や蓄電池などの高い世界シェアを武器に、覇権拡大の動きを強める中国を封じるのが主眼だろう。

 広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)でも、中国を念頭に「経済的威圧」に対抗する新たな枠組み創設を掲げており、包囲網の一環といえる。だが、米中双方を軸としたブロック化により、世界経済の分断が進む恐れも拭えない。

 中国は、太陽光パネルや電気自動車(EV)用電池に欠かせないレアアース(希土類)産出量で世界の60%を握る。先月も、レアアースを使った高性能磁石の技術を禁輸にする方向を表明し、市場に揺さぶりをかけている背景がある。

 昨年5月に発足したIPEFは、米国がインド太平洋地域での経済的影響力を保つため作った枠組みだ。国内の産業保護の世論を背に、離脱した環太平洋連携協定(TPP)のような関税撤廃は交渉対象外であり、新興・途上国には輸出拡大などの利点が少ないとの不満がある。

 このため、真っ先に供給網の強化を進め、新型コロナウイルス禍で半導体や医薬品の不足を体験した東南アジア諸国を取り込みたい狙いだ。調達先の多角化や融通の仕組み作りを急ぐ。

 他の交渉3分野のうち、「クリーン経済」は水素活用で一部合意したが、貿易手続きや税逃れ防止のルール作りは意見が隔たる。目指す今秋までの全体合意は見通せない状況だ。

 一方、中国は包囲網に反発する。半導体技術をはじめ「自立自強」による突破と、ロシアなどとの連携に動いている。

 双方が味方集めを競う中、中国とつながりの深い東南アジア諸国は対抗色が強まることへの懸念が根強い。自由貿易の拡大をてこにしてきた成長基盤を崩しかねないからだ。

 先のG7首脳声明では、経済安全保障は「デカップリング(経済切り離し)ではなくデリスク(リスク回避)に基づく」と掲げた。自由で公正な貿易体制の強化をうたい、柔軟性も持たせた形だ。

 世界経済の分断化を極力避け、経済安保上の制約は限定的とする賢明さが求められよう。

 東南アジアと同様、日本も隣国・中国と密接な結び付きがある。米国のTPP復帰への働きかけを含め、中国やインド太平洋地域とも多層的な関係を築く真の「橋渡し役」を務めたい。

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