【TSRの眼】FCNTが民事再生法、国内スマホメーカーの苦境を象徴

「arrows(アローズ)」シリーズや「らくらくスマートフォン」で知られた携帯電話ベンダーのFCNT(株)(TSR企業コード:027062554)が5月30日、関連会社2社とともに東京地裁に民事再生法を申請した。
負債総額は保証債務を含めて3社合計で1,775億円に達する。

2018年1月、富士通グループが携帯電話事業からの撤退を表明し、投資ファンド傘下での再スタートを切った。しかし、群雄割拠が続くスマホ市場で、独自性を出してシェアを伸ばすことが難しく、FCNTは費用負担がかさむなかで事業開始から2022年3月期決算まで継続して最終赤字を計上。採算ベースに乗せることができないまま、次第に経営が不安視されるようになっていった。
2023年4月に入ると、バンクミーティングが開催されたとの情報が駆け巡った。同時期には取引銀行がFCNTとグループで製造を担当するジャパン・イーエム・ソリューションズ(株)(TSR企業コード:027062619、以下JES)に対して債権・動産譲渡を設定。また、同じタイミングで持株会社であるREINOWAホールディングス(株)(TSR企業コード:027062490)が保有する製造子会社の工場不動産に設定されていた抵当権の仮登記設定が本登記に変更されるなどの動きが表面化し、にわかに注目が集まっていた。
当社の前身でもある富士通グループの携帯電話事業の歴史は1991年にまで遡る。NTTドコモ向けの第1世代携帯電話の発売を皮切りに、時代の変遷に合わせて「ガラケー」(フィーチャーフォン)から「スマホ」(スマートフォン)に至るまで豊富なラインナップを展開してきた。この中で培ってきた「arrows」や、シニア世代をターゲットとした「らくらくホン」、「らくらくスマートフォン」シリーズは一定のブランド力を有し、グループの代名詞的な存在に成長した。
ところが、ガラケーからスマホへの移行期を境に、国内の携帯端末市場は大きな転換期を迎えることになる。米、中、韓メーカーの台頭により競争が激化、採算が悪化した国内メーカー勢の撤退が相次ぎ、次々と姿を消していった。2010年には富士通と東芝の携帯電話事業が統合され、事実上、富士通が引き受けた。
以降、富士通はソニー、シャープ(2016年に鴻海精密工業(台湾)の傘下入り)などとともに国内スマホメーカーの牙城とされてきたが、2018年にはついに携帯電話事業からの撤退を表明した。経営権は投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループへと移り、製造部門のJESとともに、富士通グループから離れることになった。
メイドインジャパンにこだわったものづくりを前面に押し出してきたが、それから5年。業績が浮上することはなかった。

FCNTが民事再生の申請後に債権者へ送付した「お詫びとお知らせ」には、製造や修理、アフターサービスの継続は「困難な状況」と記載されている。一般債権については、「5月29日以前に生じたものについては、弁済が一時禁止され、再生計画に従って弁済する」という。また、JESが5月30日に開示した書面は「弊社製品をご購入いただいたお客様及びご購入を予定されていたお客様には、多大なご迷惑をおかけすることとなりますことをお詫び申し上げます」と結ばれている。
NTTドコモは、東京商工リサーチの取材に対して「FCNT社端末をご利用されているお客さまへご心配をおかけすることがないよう、アフターサポート体制を整え、販売を継続する」とコメントした。修理やサポートは、メーカーではなく、購入ルートに依拠する状況だ。

近年、準則型私的整理の枠組みが広がり、法的倒産でも一般債権者や消費者に影響のないスキームの活用が活発だ。これらの背景には、事業価値の毀損を最小限にとどめ、取引先や消費者、地域経済への影響を最小限にする狙いがある。
こうした環境下でFCNTは法的倒産を選択し、一般債権者や消費者にも影響が及びかねない状況だ。この選択こそが、国内スマホメーカーの苦境を象徴している。

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