金属量が少ない星は生命出現に好条件?

夏は紫外線による日焼けを気にする人が多くなる季節です。紫外線は生命にとって有害であり、日焼けは紫外線が皮膚の細胞にダメージを与えたことの現れといえるからです。紫外線は細胞の奥深くへと達してDNAを損傷する可能性もあります。

太陽からの紫外線の多くは大気中のオゾン層に遮られていることから、地球上の生命はオゾン層に守られていると言われています。そのため、地球のような岩石惑星を対象とした系外惑星探査では、大気中に存在するオゾンの含有量が、複雑な生命の居住可能性を判断する上で重要な条件になります。

【▲ 金属に富む恒星(上段)と金属に乏しい恒星(下段)が惑星のオゾン層形成に与える影響を比較した図。金属に富む恒星は金属に乏しい恒星よりも紫外線放射は少ないが、オゾン層の形成を助けるUV-C(ピンク色)の比率がオゾン層を破壊するUV-B(紫色)よりも小さいため、形成されるオゾン層は希薄になり、惑星表面に生命の出現は望めない。一方、金属に乏しい恒星は逆の状況を作り出し、生命の出現にとって好条件となる(Credit:MPS/hormesdesign.de)】

マックス・プランク太陽系研究所の科学者アンナ・シャピロ(Anna Shapiro)氏が率いる研究チームは、系外惑星大気中のオゾン含有量に焦点を当てた数値シミュレーション研究の成果を2023年4月18日付けで「Nature Communications」誌に発表しました。シャピロ氏は、「惑星がオゾン層を形成するために、親星である恒星がどのような性質(化学組成)を持つ必要があるのか理解したかったのです」と、本研究の動機を語っています。

太陽などの恒星は様々な電磁波を放射しています。紫外線もその一部であり、可視光線のなかでも波長が短い「紫」よりも外側の波長域(波長の短い領域)に位置していることからそう呼ばれています。可視光線よりも波長が短いので、人間の目で感知することはできません(モンシロチョウなど一部の生物は紫外線を感知できると考えられています)。

紫外線はその波長により、UV-A(315~400 nm)、UV-B(280~315 nm)、UV-C(100~280 nm)の3種類に分類されています。UV-Cは上空のオゾンと酸素分子によってすべて吸収されるため、地表には到達しません。UV-AとUV-Bは地表に到達しますが、特にUV-Bが生物に大きな影響を与えます。

オゾンは酸素原子3個から成る分子で、太陽から放射された紫外線は地球大気中のオゾンの生成と破壊の両方に関わっています。紫外線のうちUV-Cは中層大気中でオゾンを生成する役割を担っていますが、UV-Bは個々の酸素原子や酸素分子との反応プロセスを通してオゾンを破壊します。このことから、系外惑星の大気でも地球と同じように紫外線が複雑な反応を生起し、影響を与えていると考えるのは妥当なことです。

惑星が確認されている恒星のうち約半数の表面温度は約5000℃から約6000℃の範囲にあり、太陽もその1つに数えられます。研究チームはこのグループに注目して研究を行いました。

研究チームは最初に恒星が放射する紫外線の波長を正確に計算しました。今回の計算では恒星の金属量に左右される影響も初めて考慮されています。この特性は、恒星に含まれる水素と重元素(※)の比率を表わしており、本研究では鉄の含有量が多い星と少ない星についても検討されました。たとえば太陽の場合、鉄原子1個に対して水素原子は3万1000個存在します。

※…天文学では一般的にヘリウムよりも重い(原子番号が大きい)元素を「金属」や「重元素」と呼びます。

その次に、研究チームは恒星から放射される紫外線が「ハビタブルゾーン」(恒星の周囲に広がる生命の出現にとって有利な領域)を周回する惑星の大気にどのような影響を与え、どのように変化させていくのかを、オゾンや酸素などの気体と紫外線の相互作用をシミュレーションする化学気候モデルを用いて分析しました。

このモデルを用いることで、研究チームは系外惑星の様々な状況と地球大気の過去5億年に渡る歴史を比較することができました。地球大気の歴史には系外惑星の生命進化に関する手がかりが隠されているかもしれないからです。

シミュレーションの結果、全体として金属に乏しい星は金属に富む星よりも紫外線を多く放射することが示されました。それだけでなく、オゾンを生成するUV-Cとオゾンを破壊するUV-Bの比率は、星の金属量に大きく依存することも示されたといいます。

UV-BとUV-Cの比率は非常に大きな意味を持ちます。金属に乏しい星ではUV-Cの比率が大きいため、惑星の大気では厚いオゾン層が形成されます。いっぽう、金属に富む星ではUV-Bの比率が大きいため、惑星の大気で形成されるオゾン層ははるかに希薄になるのです。

結果的に、金属に富む星は金属に乏しい星よりも紫外線放射が大幅に少ないにもかかわらず、その周りを公転する惑星ではオゾン層が希薄になるため、その表面はより強い紫外線にさらされていることになります。「予想に反して、金属に乏しい星は生命の誕生にとってより有利な条件を提供するはずです」と、シャピロ氏は結論付けました。

金属(重元素)は恒星内部の核融合反応によって数十億年かけて合成された後、恒星から流れ出る恒星風や超新星爆発を通して宇宙空間に放出されていき、次の世代の恒星や惑星の材料となります。そのため、新しい世代の星は、その前の世代の星が作り出した金属を含む材料から形成されることになります。

つまり、星に含まれる金属の量は、星が世代を重ねるごとに増えていくことになります。宇宙全体で見れば金属に富む星ばかりが増えていき、恒星系で生命が誕生する確率は宇宙が年老いるにしたがって低下していく可能性を、研究チームは示したことになるのです。

とはいえ、今回の成果は必ずしも地球外生命探査にとって絶望的な報せというわけでもないようです。系外惑星が公転する親星の多くは太陽と同じような年齢の恒星であり、そのような恒星を公転する惑星のうち少なくとも1つ……すなわち地球には、複雑で興味深い生命体を宿していることが知られているからです。

Source

  • Image Credit: MPS/hormesdesign.de
  • Max Planck Society \- Metal-poor stars are more life-friendly
  • Shapiro et al. \- Metal-rich stars are less suitable for the evolution of life on their planets (Nature Communications)

文/吉田哲郎

© 株式会社sorae