コロナ診断に県立大産タンパク質 森教授が大量合成「ORF8」

新型コロナ特有のタンパク質「ORF8」を精製する森教授=石川県立大

  ●WHOが3万人分依頼、ワクチン研究で効果 

 世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染の診断薬として、石川県立大の森正之(まさし)教授(遺伝子機能学)グループが大量合成に成功したタンパク質「ORF8」の提供を依頼したことが分かった。WHOの委託を受けて新型コロナ研究の中核を担う香港大のワクチン効果を調べる研究にこのタンパク質が用いられ、有効性が確認されたため。WHOは約3万人分の診断ができるORF8の提供を求めており、世界的な普及が期待される。

  ●香港大解明、100日で効果半減

 香港大は、石川県立大が協力した「ORF8」を使った臨床研究で、複数回のワクチン接種による感染予防効果が100日後までにほぼ半減することが分かった。論文は医学系国際学術誌「ネイチャー・メディスン」(米国)に掲載された。

 森教授によると、研究の中心だった香港大教授はWHOの指針を決める「予防接種に関する戦略諮問委員会(SAGE)」のメンバー。この教授を通じ、香港大と県立大の共同研究の成果や、感染歴を診断したORF8の有効性がWHOに報告された。

 ORF8はコロナに感染すると、ウイルスから体内に放出される特有のタンパク質で、免疫としてこのタンパク質の抗体が作られる。

 一方、ワクチン接種の場合はコロナのスパイクタンパク質の抗体しかできない。このため、血液中のORF8抗体の有無を調べれば、感染歴があるかどうか診断できる。

 森教授グループは2020年、ORF8を大量合成できる技術を開発し、世界特許を取得した。

 香港大の臨床研究はワクチンを接種したことがある約5300人の血液中の免疫量の推移を調べた。ワクチンの効果を調べるには、感染によってできた免疫を区別する必要があり、血液から感染歴が分かるこのタンパク質が診断薬として使われた。大量合成が可能なため、大人数の感染歴を診断することができた。

 研究結果によると、ワクチンを接種して7日後の感染予防効果は3回目の接種で48%、4回目で69%だったが、100日までには、いずれもほぼ半減した。このことからブースター接種の効果は一時的なものと結論付けられた。

 森教授は「香港大やWHOの正確な研究を支えることができてうれしい」と話した。

  ●診断の正確さ評価 松山長崎大名誉教授 

 新型コロナウイルスに関し、抗ウイルス作用を持つタンパク質「インターフェロン」を専門に研究する松山俊文長崎大名誉教授は、香港大と県立大の共同研究について「ワクチンによる抗体か、感染による抗体か、はっきり識別できるようになったのは大きい。コロナ研究における正確な結果を導く上で、この診断方法は今後あらゆる場面で活用されるだろう」と評価した。

 ★ORF8 新型コロナウイルスと同じコロナウイルスのSARS(サーズ)とMERS(マーズ)にもあるタンパク質の一種。新型コロナと他の二つのウイルスでは塩基配列が大きく違い、新型コロナの特徴的タンパク質とみられる。ORF8が炎症や免疫に関わるタンパク質と結合し、免疫機能を阻害して重症化する論文が海外で発表されている。

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