リンク&コー駆るエルラシェールが新世代TCR世界戦初勝利。ヨーロッパ組ジョン・フィリピは大金星

 すでにフランスのポー市街地で第2戦を終えたTCRヨーロッパ・シリーズと再合流し、ベルギーはスパ・フランコルシャンでの第2戦を迎えた新生TCRワールドツアーは、前身たるWTCR世界ツーリングカー・カップ連覇も経験するヤン・エルラシェール(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コー03 TCR)が待望の新世代世界戦で初勝利。レース1でポール・トゥ・ウインを飾り、同戦のヨーロッパ組からは今季ラリークロスより転向の新鋭コービー・パウエル(コムトゥユー・レーシング/アウディRS3 LMS 2)が、早くもシリーズ初優勝を飾る活躍を演じた。

 そして週末最後のレース2では、2014~2017年までWTCC世界ツーリングカー選手権にも参戦したジョン・フィリピ(コムトゥユー・レーシング/アウディRS3 LMS 2)が総合優勝を果たし、ヨーロッパ・シリーズ登録の苦労人が世界戦組を差し置いての最高峰初勝利を手にしている。

 双方の開幕戦となったポルトガルのアルガルベに続き、新たなジョイント開催の枠組みとして同一セッションでの勝負を繰り広げる両シリーズだが、今回はTCRワールドツアーが第2戦、TCRヨーロッパが第3戦と開催ラウンド数が異なるイベントとなった。

 この週末のスパは、全長7kmを超えるコースとロングストレートによるウエイト感度や“トウ合戦”に、高い気温による路面コンディションが焦点に。そんな状況下で、当初より赤旗絡みとなったFP1では新型モデル『FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR』で孤軍奮闘のネストール・ジロラミ(ALMモータースポーツ)が最速タイムを記録し、続くFP2ではコムトゥユー・レーシングよりシリーズデビューを飾ったパウエルのアウディがトップタイムを奪う。

 迎えた予選ではラディヨンからケメル・ストレートに掛けて、直線速度を助けるべく“牽引車”を探すドライバーや、フライングラップ開始直前に前方へ充分なスペースを確保するため最終セクターで極端に速度を落とすドライバーなど、一部で混沌とした状況も招くセッションとなるなか、Q1、Q2ともにアウディ陣営が代わる替わる首位タイムを刻んでいく展開に。

 しかし「誰かの後ろで走っても楽しくない。とにかく全開で行くだけ」と語り、クリーンエアでの1発に賭けたエルラシェールが直球勝負でポールポジションを射止め、僚友テッド・ビョークやサンティアゴ・ウルティアらがトラックリミット違反で最速タイム抹消の憂き目に遭うなか、予選最大の15点獲得に加えてウエイト搭載を甘んじて受け入れる態度を示した。

今回のラウンドではフィリップ・リンドバーグを僚友に迎えたネストール・ジロラミ(ALM Motorsport/FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR)「情報共有は理解向上の大きな後押しになる」
予選総合4番手、ヨーロッパ組のポールを獲得した18歳の新鋭コービー・パウエル(Comtoyou Racing/アウディRS3 LMS 2)
予選は、直線速度を助けるべく”牽引車”を探すドライバーや、フライングラップ開始直前に前方へ充分なスペースを確保するため最終セクターで極端に速度を落とすドライバーなど一部で混沌とした状況も招くセッションに

 一方、別の理由でペナルティを言い渡されたのがBRCヒョンデN スクアドラ・コルセのミケル・アズコナ(ヒョンデ・エラントラN TCR)で、WTCR最後の王者はQ2終盤のアタックへ向かう際にトム・コロネル(コムトゥユー・レーシング/アウディRS3 LMS 2)を牽制してラインを封じ、両者はレ・コンブで接触。アタック中断に加えてグリッド降格ペナルティにより、アズコナはレース1で3番手ダウンの14番手スタートとなってしまった。

「ヤツらはレースじゃなくゲームをしている」と憤慨するのは、最終的に7番グリッドとなったコロネル。「スロットルを緩めて政治的な駆け引きをするなんてクソだ!」

 現地土曜15時30分に開始されたレース1は、フロントロウに並んだ僚友マ・キンファの蹴り出しが遅れ、ポールシッターのエルラシェールはFL5型シビック、ジロラミとの対決構図に。

 続く2周目には前戦ポー市街地勝者のドゥサン・ボルコヴィッチ(ターゲット・コンペティション/ヒョンデ・エラントラN TCR)が1周に渡って他車との接触劇を演じ、最後はラ・ソースでクラッシュし、ここでセーフティカーが導入される。

 それでも再開の4周目以降、マネジメントに徹してシビックの攻撃をしのいだリンク&コーの元王者が、1ラップ延長の9周目にトップチェッカーを迎え、エルラシェールがまずはTCRワールドツアーでの初勝利を達成。

 序盤でウルティアにパスされ3位表彰台は明け渡したものの「とにかく疲れた! もちろんとても安心したが、今の気持ちを言葉にするのは難しい。あれが僕にとって初めてのセーフティカー・リスタートだったし、フロントタイヤの準備がまったく整っていなかったんだ」と語った18歳のパウエルが、ヨーロッパ組最上位となる総合4位で、シリーズ最大ポイントを持ち帰った。

マネジメントに徹してシビックの攻撃をしのいだLynk&Coの元王者ヤン・エルラシェール(Lynk&Co Cyan Racing/Lynk&Co 03 TCR)が、まずはTCR World Tourでの初勝利を達成した
「TCRヨーロッパのタイトルについて考えるのは時期尚早で、焦点はルーキーチャンピオンシップであり、それに成功できれば素晴らしい」と欧州勝者パウエル(右下)
「モデル初年度だし、まだまだ学ばなければいけないことはたくさんあるが、このクルマには大きなポテンシャルがある」とレース1で2位表彰台のジロラミ

■「GTテストに乗せてくれるなら」の条件でスローダウン

「簡単そうに見えても、ベブ(ジロラミの愛称)が僕の後ろでプッシュしていたし、そんなにコントロールできたわけじゃない」と謙遜した総合勝者エルラシェール。

「残り2周くらいで大きな(タイヤのグリップ)落ちを感じたが、僕のクルマが彼をスリップで引かないよう安全なギャップを維持したかったんだ。彼のシビックは最高速に優れているからね」

 一方、チェッカー目前まで僚友パウエルの背後で5番手を維持していたコロネルは、ファイナルラップでチームからスローダウンするよう求められ「(コムトゥユーの)GTテストに乗せてくれるなら」との同意を得て、世界戦登録のロブ・ハフとフレデリック・バービシュを先行させフィニッシュ。予選での自身の発言をあっさり翻意する、憎めない“らしさ”も披露した。

 明けた日曜現地11時30分開始のレース2は、予選トップ10リバースの好機を活かしたフィリピが躍進。WTCC時代は4位2回が最高成績で、WTCRでの最高位は5位、そして2019年から散発的に参戦するTCRヨーロッパでは3勝を挙げているフランス出身ドライバーが、開幕戦でシリーズ初代ポールシッターとなったノルベルト・ミケリス(BRCヒョンデN スクアドラ・コルセ/ヒョンデ・エラントラN TCR)やコロネルらの攻防を尻目に大金星を挙げる結果となった。

「長い間、この瞬間を待っていた! 世界的なカテゴリーで、とくに経験豊富で非常に強いノルビ(ミケリスの愛称)やトムのようなドライバーの前でゴールするのは信じられないほどの気分だ」と喜びを語った総合勝者フィリピ。

「パウエルのクルマがターン2で止まったとき、セーフティカーがコースインするのではないかと本当に心配したが、最終的には大丈夫だった。その後に僕がしなければならなかったのは、後ろのクルマとのギャップを保つことだけ。確かにそれは簡単ではなかったけどね」

 これでTCRワールドツアーはミケリスが依然94点でランク首位を守り、勝利を挙げたエルラシェールとウルティアのリンク&コー・シアン・レーシング陣営が続く展開へと変わり、ヨーロッパでは前戦ポーで発動させた“戦略”も機能したコロネルが首位を堅持。僚友フィリピとルーキーのパウエルがそれを追う構図となった。

 続くTCRワールドツアー第3戦は、招待制の“TCRイタリアン・フェスティバル”との併催で6月10~11日のバレルンガで、同TCRヨーロッパ第4戦は6月17~18日にハンガロリンクで開催される。

レース2はジョン・フィリピ(Comtoyou Racing/アウディRS3 LMS 2)が総合優勝を果たし、世界戦組を差し置いての最高峰初勝利を手にした
レース2でトム・コロネルに続き欧州3位、総合6位のフェリペ・フェルナンデス(R2C Racing/アウディRS3 LMS 2)
「最終コーナーでウルティアにかなり強くぶつけられ『パンクしないで!』と願ったよ」と、総合でも3位表彰台を得たトム・コロネル(Comtoyou Racing/アウディRS3 LMS 2)

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