【今週のサンモニ】脅迫と威嚇の区別がまったくついていない|藤原かずえ 毎週毎回おかしな報道ばかりを繰り広げることで知られるTBS「サンデーモーニング」。月刊誌でのひと月に一回のツッコミではとても間に合わない! そこで『Hanada』プラスでブロガーの藤原かずえさんに【今週のサンモニ】と出し、データとロジックで逐一ツッコんでいただく連載がスタートしました。記念すべき第一回は2023年5月28日放送のものから!

「広島G7サミットは大変な失敗だった」

突然ですが(笑)、今週から直近のTBSテレビ『サンデーモーニング』で番組に取り上げられたいくつかのトピックスを挙げて自由な感想を述べる『今週のサンデーモーニング』と題した散文を『Hanadaプラス』にアップロードしていきたいと思います。

さて、今週は、広島G7サミットについて、VTRで「岸田総理 広島ビジョンに被爆者から怒りの声が」というテロップで「広島G7サミットは大変な失敗だった」とするICANのサーロン節子氏の会見を一方的に紹介しました。

アナウンサー「サーロン節子さんは日本政府や核保有国は核禁条約の存在を認めようとしていないと落胆しています」

広島G7サミットの直後に行なわれた世論調査では岸田内閣の支持率が爆上がりしましたが、『サンモニ』は、そんな国民の評価を打ち消すように、論理的根拠を全く伴わない【感情に訴える論証】を全開にしたサーロン節子氏によるG7サミットに対する罵倒を延々と流しました。

この報道スタンスの大きな問題は、サンモニがパシフィストを道徳の権化のように偶像化し、被爆者のステレオタイプと勘違いさせて倫理操作を行っている点です。

サーロン節子氏(VTR)「核兵器を最初に作った米・英・仏の代表がここにいる。インドの代表もいる。だけど、その人たち、自分たちのことを少しも考えないで他の人たちばかりを非難していた。『ロシアが悪い』『北朝鮮が悪い』『中国』『イラン』と」

むしろ、核兵器で世界を脅している中露北を説得せず、その核兵器の使用を抑止している自由主義国家に対してのみ核兵器を捨てるようキレるサーロン節子氏の無責任なスタンスこそ不合理です。

平和を希求する軍事の専門家が【限定合理性】の仮定や国際社会の複雑性を反映する【マルチ=エージェント・シミュレーション】を駆使した最新のゲーム理論で核抑止を検証する中、論理性を欠いた素人が安易なモラリズムによる個人の信念で核抑止に反対するのは、残念ながら世界の罪もない人々の生命を脅かす障害でしかありません。

ウクライナ戦争は、核を廃棄して集団的自衛権の枠組みに無加盟の核抑止力を持たない国を核保有国が侵略して尊い命を大量に奪っているものです。彼らパシフィストは、加害者を擁護し、被害者の支援者を非難しているのです。

抑止理論の基本をわかっていない

安田菜津紀氏「サーロン節子さんの言葉は非常に重いものだった」

これは完全なる倫理操作です。言葉が重いかどうかは各個人が判断するものであり、これを断定して押し付けることはモラリズムの強要に他なりません。

山極壽一氏「国家安全保障戦略に『日本を攻撃したら大変なことになると相手国に思わせるような武力を持たなければならない』と明記してある。これは軍拡競争に参加することだ」

核を【暴力 brute force】として【脅迫 threat】に使う攻撃国が存在する現在の世界では核を【強制力 coercion】として【威嚇 intimidation】に使う核抑止が防衛国にとって唯一のセキュリティ手段になります。

彼らは、暴力と強制力および脅迫と威嚇の区別がまったくついていません。

国家安全保障戦略に明記された『日本を攻撃したら大変なことになると相手国に思わせるような武力を持たなければならない』は、抑止理論の基本中の基本である【懲罰的抑止 deterrence by punishment】です。

警察官が拳銃を所持するのと同様、強制力で威嚇して平和を維持する懲罰的抑止の意味が理解できないから「軍拡競争」などという意味不明の言葉が出てくるのです。

この区別がつかない人たちが広島ビジョンを罵倒し、核廃絶のクリティカルパスである中露北には何も言わず、日米英仏のみを徹底的に非難しているのです。核廃絶の機運が深まる訳がありません。

送還忌避者に対する前科者は増加している。

安田菜津紀氏「G7サミット声明には『難民の保護』が書かれていながら、日本の中ではむしろ難民を追い返すことに力を注ごうとしている。言行不一致にも程がある」
「入管法改正で保護されるべき人が保護されないまま送還の対象になっていく。無辜の人に死刑のボタンを押すことに等しい」

不正確にも程があります。日本政府は「難民」の敵である「難民を騙る犯罪者」の国外退去に力を注ごうとしているに過ぎません。『サンモニ』はまったく報じませんが、極めて残念ながら、日本において送還忌避者に対する前科者の割合は年々増加しています。

・2020年末:送還忌避者 3103人(うち前科者 994人)
・2021年末:送還忌避者 3224人(うち前科者1133人)
・2022年末:送還忌避者 4233人(うち前科者 約4割)

マスメディアは入管を一方的に非難していますが、それは必ずしも合理的とは言えません。母国に帰国すると危害を受けると主張する人物が日本国民に危害を加えても日本に在留できる制度に正義はありません。無辜の日本国民はどうなってもよいのでしょうか。

藤原かずえ

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