バッテリーや映像解析など注目の最新技術を紹介/人とくるまのテクノロジー展2023

 5月24日から26日にパシフィコ横浜で開催された『人とくるまのテクノロジー展 2023 YOKOHAMA』。出展社は部品メーカーやサプライヤーが中心ということもあって、一般的なモーターショーと雰囲気は異なるが、数年先の新技術や機能がいち早く披露されることもあって、大きな注目を集めている。

 30回目の開催となった今回は、国内外から499にも及ぶ出展社が集まるなど、過去最大級の規模で実施された。クルマに関わる幅広い分野の最新技術の中でも大きな話題を集めたのが『eアクスル』などの電動パワートレイン技術と、先進運転支援システムの『ADAS(エイダス)』などだ。

 ともに次世代自動車の根幹となるものだけに各社とも進化改良が著しい分野だが、どちらも業界全体として本格普及の流れが強まっており、第二世代、第三世代というべき技術や機能も見つけることができた。

 ここでは代表的なメーカー&サプライヤーの出展物や技術をダイジェストで紹介しよう。

■電費効率を誇る電動駆動モジュール『eAxle』/アイシン

 『eAxle』は、モーター駆動に必要な3つの主要部品(モーター、インバーター、ギア)をひとつのモジュール(パッケージ)にまとめたもの。本来は別々に設計されていたものをひとつのモジュールにすることで、軽量化やコンパクト化を図っている。当然、製造コストや電費性能にもメリットがある。

 今回、アイシンのブースに展示されていたのは、同社の『eAxle』の第一世代にあたるもので、トヨタbZ4Xとスバル・ソルテラに採用されている。パワースペックはフロントユニットが150kW(FF用)80kW(AWD用)、リヤユニットが80kW。

 現在開発が進む第二世代型は、高出力化と小型化が一層図られるほか、スモール級、ミディアム級、ラージプレミアム級の3つのクラスに専用の『eAxle』ユニットが投入されることもアナウンスされていた。

『eAxle』の全景
『eAxle』のフロント表側
『eAxle』のフロント裏側
『eAxle』のリヤ側

■電動車両用駆動ユニット『e-Axle』の次世代モデル/ジヤトコ

 パワートレインの老舗サプライヤーであるジヤトコは、ふたつの次世代型『e-Axle』を初公開した。ひとつめは軽自動車から小型車クラスを想定している超小型の『e-Axle』。ギアのコンパクト化設計を用いるなどで、ユニットサイズを15インチノートパソコンと同等サイズを実現。高回転モーターと組み合わせることでマックスパワーは60kWを実現する。

 ふたつめはピックアップトラックや商用車などを想定して開発された変速機能付きの『e-Axle』。マックスパワーは250kW。従来設計では3つのモーターとインバーター&減速機を組み合わせる必要があったが、新設計の変速機能付き『e-Axle』は、変速機を加えることでひとつのモーターで可能としている。大出力仕様でありながら『e-Axle』の強みであるコンパクト化が図られてることが見どころだ。

『e-Axle』
変速機『e-Axle』

■冷却機能を向上させた両面積層インバーター冷却器/デンソー
 
 バッテリーに充電された電力(DC)をモーター駆動に適切な電力(AC)に変換する役割を持つパワーコントロールユニット(PCU)。PCU内部にはインバーター(周波数制御)と昇圧コンバーター(高電圧化)が組み込まれるのだが、変換時に発生する熱をどのように処理(冷却)するかが、PCUの性能を大きく左右するポイントになっている。

 今回デンソーが展示していた両面積層インバーター冷却器は、冷却機能を大幅に向上させた新タイプ。冷却器のインナーフィン構造を再設計することで、循環するフルードの冷却効率を向上、従来製品に対して68%ほど冷却性能が向上している。PCUの性能向上に大きな貢献を果たす技術なのだ。

冷却機能を向上させた両面積層インバーター冷却器
冷却機能を向上させた両面積層インバーター冷却器(拡大時)
冷却機能を向上させた両面積層インバーター冷却器(拡大時)
インナーフィン

■『アリア』カットモデルと最新電動パワートレイン/日産自動車

 2030年度までに27車種の電動車を導入することを公言している日産自動車。そのブースでは高性能BEV『アリア』のカットモデルのほか、モーター、インバーター、減速機の3つの部品を一体モジュール化したEV用の『3-in-1』やモーター、インバーター、減速機に加えて、発電機、増速機の5つの部品をモジュール化したe-POWER用の『5-in-1』などの電動パワートレインを展示。

 日産自動車は今後、電動パワートレインの部品の共有化やユニットのモジュール化により製造コストの削減を図ることで、2026年には内燃機車と同等程度の車両コストを目標にしている。

『ニッサン・アリア』カットモデル
『ニッサン・アリア』カットモデル
『3-in-1』と『5-in-1』

■巻線界磁形同期モーター/ヴァレオジャパン

 フランスを本拠に世界各国に様々なパーツを供給するヴァレオ。今回は多くの最新技術を展示していたが、その中でも大きな注目を集めていたのが、2022年にルノーと共同開発した巻線界磁形同期モーターだ。

 モーターとしてはEESM(Electrically Excited Synchronous Motor)タイプで、ローラーに巻き線し、そこに電流を通すことで磁界を発生させる仕組みがポイント。磁界に永久磁石を用いるPMSM(Permanent Magnet Synchronous Motor)タイプに比べると、負荷が強まるモーター高速域でのコントロール性や効率が優れる特徴を持つが、もうひとつ注目されているのが、製造時にレアアースを使わないで済むことだ。製造工程の多様性や供給面からも大きな期待を集めている。なおピーク出力レンジは115~200kWとなる。

巻線界磁形同期モーター
巻線界磁形同期モーター

■最新のセンシング『SCALA 3』/ヴァレオジャパン

 ヴァレオジャパンはADAS関連では、クルマの“目”となる検知センサーと最新解析技術も展示していた。『SCALA 3』は従来製品に対して薄型設計が特徴で、一般的なバンパー下に設置するタイプとは異なり、車両上側のエリアにも設置が可能という。

 採用メーカー次第だが、フロントルーフまわりへの装着も想定しているとのこと。カメラ映像を解析することで、特定の人物の動きを検知するパントマイム技術などのデモンストレーションも行っていた。

第3世代の長距離用LiDAR『SCALA 3』
パントマイム実演

■ホンダセンシング360/ホンダ

 ホンダは、近い将来に採用を予定している多くの新技術をデモンストレーションしていたが、その中でも注目が、周辺360°に検知範囲が拡大されるホンダセンシング360のコーナー。従来のフロントカメラのセンシングに加えて、フロントと各コーナーに計5台のミリ波レーダーを装備することで、360度センシングを実現。衝突軽減ブレーキやACCなどで車両の周辺死角からのリスクを大きく低減できるとのこと。中国向けの新型CR-Vを皮切りに実用化され、国内向けも2024年を目処に水平展開していく模様だ。

ホンダセンシング360(実験車両)
ホンダセンシング360(実験車両)

■自動運転試験車両/ダイハツ

 ダイハツは軽自動車『タント』をベースに開発した自動運転の試験実験車を展示していた。すでに2023年3月に神戸市北区筑紫が丘エリアで実証走行も行われており、会場にはその概要(パネル展示)も掲示されていた。丘陵地を切り開いた住宅地での実験ということもあって、将来の本格実用化に向けて多くの知見やノウハウが得られたとのこと。なお周辺検知はルーフの全周囲型のLiDAR、ボディ側面に6つのLiDARとカメラが担当。そのリアルタイム情報にGPS情報を組み合わせて車両制御を行うタイプだ。

自動運転試験車両/ダイハツ

■FCEV用の商用車向け大型高圧水素タンク/豊田合成

 豊田合成は商用車向け大容量タイプの高圧水素タンクを展示。ミライ搭載の水素タンクに比べて、約8倍の水素充填が可能で、より長い距離の走行を可能としている。容器は水素の通過を防ぐ特殊な樹脂容器と高圧に耐えられる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の多重構造を採用している。

FCEV用の商用車向け大型高圧水素タンク
FCEV用の商用車向け大型高圧水素タンク

■発光機能付きミリ波レーダー対応エンブレム/豊田合成

 豊田合成の発光機能付きミリ波レーダ対応エンブレムは、ミリ波レーダ発生装置とミリ波レーダーの透過させる独自技術をモジュール化することで、デザイン性を損なうことなく、最新の安全性能を両立していることが特徴だ。

発光機能付きミリ波レーダー対応エンブレム

■次世代加飾パネル/DNP

 DNPはディスプレイに特殊なフィルムを貼り付ける次世代加飾パネルを展示していた。展示物は自動車の内装加飾をイメージし、絵柄は木目調パネルを想定していたが、デザインなども自由自在とのこと。ディスプレイオンの状態で映像や画像などが自然に表示することも可能だという。

次世代加飾パネル
次世代加飾パネル
次世代加飾パネル

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