ストリートピアノに「うるさい」の声、同じ曲を繰り返し大音量 演奏はマナー守って 広島

人気を集める一方で、苦情も寄せられている紙屋町地下街シャレオのストリートピアノ

 駅や商業施設で自由に演奏できる「ストリートピアノ」が増える中、近年は「演奏がうるさい」と迷惑がる声も目立つようになってきた。編集局にも広島市内のピアノを巡り「同じ曲を繰り返し大音量で弾く人がいて参っている」との声が届いた。ストリートピアノが街の文化として定着するためには何がポイントなのか、探ってみた。

 広島市中区の紙屋町地下街シャレオ。市が2020年7月に設置したピアノは時間帯を問わず、弾く人が絶えない。昨年度は1日平均で約40人に上る。ショパンを奏でていた女性(62)は「家で電子ピアノを弾くより伸び伸びできる」とにっこり。毎日通りがかる男性(72)は「BGMより生の音楽の方が楽しい」と好意的だ。

 一方で苦痛と感じている人もいた。「暗い曲を弾かれると気持ちがなえる」「独り占めはやめて」。地下街店舗のスタッフ女性によると、同じ曲が延々と2時間繰り返されることもあるという。

 市が定めるルールは午前6時~翌午前0時の「利用時間」だけ。演奏時間や曲数に制限はない。練習目的で長時間引き続ける人もおり、場合によっては「マナー違反」と捉えられかねない。

 管理する中区役所には、通行人や近隣の店から「うるさい」「下手な人は弾かないで」などの苦情がこれまでに20~30件ほど届いているという。区の担当者は「迷惑がる人は他にも多くいる可能性がある」と案じる。

 各地の自治体もさまざまな対策を試みている。岡山市はJR岡山駅地下広場に設置したピアノに昨年11月、「強過ぎる音を出したり、でたらめに音を出したりするのは迷惑」などと注意を促す張り紙を掲示した。「うるさい」「上手な人ばかりでなく不快」との苦情が少なくとも12件あったという。

 中には撤去や使用中止に至ったケースも。兵庫県加古川市は今月1日、JR加古川駅のピアノを設置後わずか半年で撤去した。新型コロナウイルス禍で演奏会中止が相次ぐ中で「音楽に触れる機会を」と設置したが、長時間の独占など迷惑行為がなくならなかった。市スポーツ・文化課は「監視員を置くわけにもいかず、苦渋の選択だった」と嘆く。名古屋市も3月下旬からJR名古屋駅近くの商業ビル内に設置したピアノの使用を中止にしている。

 いっそ人通りのない場所に置けば…とも考える。ただ、それではストリートピアノならではの弾き手と聴衆の交流は生まれない。

 シャレオのピアノも「独占することなく節度を守った演奏をしましょう」と掲示で呼びかけている。月2回訪れる50代アルバイト女性は10分以内、2曲までと決めている。選曲も「かつて発表会で弾いて褒められた曲や、癒やしになる曲を選んでいる」。

 広島市内をはじめ、全国各地のストリートピアノを巡ってきたピアニストはらかなこさん(東京都)は「聞いてくれている人の存在を想像し、心を込めて演奏する姿勢が大切なのでは」と話す。「ピアノが空くのを遠くでそっと待っている恥ずかしがり屋の人もいる。制限時間がなくても、いったんピアノを離れてみては」と助言する。

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