社説:長男秘書官更迭 首相の公私混同の果て

 岸田文雄首相の公私混同が招いた失態というほかあるまい。国民の信を損ねた責任は重く、猛省を求めたい。

 岸田氏は、長男で政務担当秘書官の翔太郎氏を更迭する考えを表明した。あす辞職するという。

 昨年末、翔太郎氏は首相公邸で親族と忘年会を開いた際、公的スペースである赤じゅうたんの階段や、記者会見用の演台などで記念撮影をした。新閣僚が並ぶのをまねた構図では、首相さながら前列中央でカメラに納まっていた。

 公邸は、官僚らが勤務する官邸に隣接し、首相と翔太郎氏が暮らす居住スペースに加え、執務や賓客の接遇を行う公的な場を備える。当然、警備や維持は税金で賄われている。特別職の国家公務員である政務秘書官として、自覚を欠いた不行状だ。

 政治とカネや世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係などで、岸田政権の4閣僚が相次いで更迭された時期でもある。

 24日に週刊文春が写真付きで報じた直後、岸田氏は居住部分の食事会では自らあいさつをしたとし、事実関係を認めた。だが当初は「厳重注意」にとどめ、野党からの罷免要求は拒んだ。

 方針転換の背景には、先週末に行われた報道各社の世論調査があるとみられる。広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)で議長を務め、与党内で「印象が良い間に衆院解散を」との声も行き交った。だが、共同通信の調査で内閣支持率はほぼ横ばいにとどまり、低下した社さえあった。

 サミットの高揚感に冷や水を浴びせられ、遅まきながら目が覚めたというなら、あまりにお粗末な認識ではないか。

 もともと岸田氏が昨年10月、政治経験の乏しい翔太郎氏を政務秘書官に起用した時から「世襲をにらんだ身内人事」「政治の私物化」と与野党から批判が出ていた。今年1月に首相の欧州訪問に同行した際には、公用車で観光や買い物をしたと報じられた。

 岸田氏はそのたびに「適材適所の配置」などと釈明し、官僚も巻き込んで「意見交換や対外発信に使用する風景撮影のため」などと観光目的を否定した。

 無理な強弁を重ねた揚げ句の不祥事である。岸田氏は「任命責任はある。重く受け止める」というが、年末の4閣僚や性的少数者への差別発言をした首相秘書官の更迭時と全く同じ対応だ。緊張感に欠ける。国民には口先だけにしか映らないのではないか。

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