ジャニーズ性加害問題で露わになったテレビ局の共犯性! ジュニアの練習場を提供したテレビ朝日はジュリーの謝罪後も批判なし

ジャニーズ事務所公式サイトより

英BBCによる報道や元ジャニーズJr.であるカウアン・オカモト氏らが告発してきた故ジャニー喜多川氏の性加害問題について、今月14日、ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長がようやく謝罪と公式見解を明らかにする動画と文書を公表した。

しかし、今回のジュリー社長がおこなった説明は、到底納得できるものではない。まず、ジャニーズ事務所はジャニー氏による加害行為をいまだに認めておらず、文「当事者であるジャニー喜多川に確認できない中、『事実』と認める、認めないと言い切ることは容易ではない」と抗弁し、「ヒアリングを望まない方々も対象となる可能性が大きい」などとして第三者委員会の設置も拒否。さらに、ジュリー社長は「(性加害問題について)知らなかったでは決して済まされない話だと思っておりますが、知りませんでした」と述べ、重要な情報はジャニー氏と故・藤島メリー泰子氏以外には知ることができない状態だったと説明。「週刊文春」が報じたジャニー氏の性加害を事実と認定した2003年の高裁判決についても、「今回の件が起こり、当時の裁判を担当した顧問弁護士に経緯確認するまで詳細を把握できておりませんでした」などと述べた。

加害行為を事実と認めず、第三者委員会による真相究明も拒絶し、知らぬ存ぜぬでシラを切るとは、誠意ある態度とはまったく言えない。だいたい、ジュリー社長は「何も知らなかった」というが、長年にわたってジャニー・メリー体制のジャニーズを広報担当として支え、自社タレントのスキャンダル報道を封じ込めてきた白波瀬傑副社長は、「週刊文春」の取材にも対応してきただけではなく、文春との裁判にも出廷しているのだ。にもかかわらず「知らなかった」という一言で逃げている時点で、企業としてこの問題に真摯に向き合う姿勢は微塵もないと示したようなものだ。

だが、この謝罪になっていない謝罪により、あらためて再認識させられたのは、テレビをはじめとするメディアの酷さだ。

そもそも、今回の一連の動きの端緒となったBBCおよび「週刊文春」の報道に対して反応したのはネットメディアだけで、大手マスコミは完全に沈黙。さらに、4月12日に元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏が日本外国特派員協会で記者会見をおこなったが、同日中に反応した大手マスコミは共同通信や朝日新聞デジタル、読売新聞オンラインなどといった新聞メディアのみ。翌13日にジャニーズ事務所がコメントを発表したことを受け、ようやくNHKが報道したが、それも16時のニュース枠という扱いで、日本テレビはCS番組とウェブ、テレビ東京もウェブでのみ報じた。つまりテレビ局は、ジャニーズ事務所が公式コメントを出すまで一切ニュースにしなかったばかりか、地上波ではNHKが目立たない枠で小さく報じただけだったのだ。

そんななか、告発会見から約10日後の4月21日、ジャニーズ事務所が取引先企業に対して報告文書を出していたことを朝日新聞が報じると、TBSは『news23』で問題を小さく取り上げ、『サンデーモーニング』などでもカウアン氏の告発を紹介。5月11日には『news23』がテレビ局でははじめて被害を告発している元Jr.を独自取材し、小川彩佳キャスターが「報道機関がどれだけこうした被害を報道してきたのか。少なくとも私たちの番組ではお伝えしてこなかったという現状があります」とコメントをおこない、話題を呼んだ。

小川キャスターのコメントは最低限の自己批判であり、特段踏み込んだ発言でもなんでもない。だが、テレビ各局が揃いも揃ってあからさまなジャニーズ忖度を見せているなか、独自取材で問題を報じたことは大きな前進でもあった。しかも、ジュリー社長自らが動画で説明をおこなったことで、他局も無視できない状況に追い込まれた。未成年者に対する性暴力という事の重大さを考えても、ここまでくればさすがにジュリー社長のツッコミどころ満載の説明に、テレビ各局も批判をおこなわざるを得ないだろう。普通はそう考えるはずだ。

ところが、テレビ各局の報道は、この期に及んでも腰が引けまくったシロモノだった。

●嵐・櫻井翔をフレームアウトさせた『news zero』 それ以上に酷かったテレビ朝日

たとえば、日本テレビは15日放送の『DayDay.』で、MCである元NHKアナウンサーの武田真一が、小川キャスターと同様に“伝えてこなかったことの責任”を語ったが、ジュリー社長の不誠実極まりない対応に対する批判はなし。さらに、同日放送の『news zero』では、その前まで出演していた嵐の櫻井翔をフレームアウトさせた上で、メインパーソナリティの有働由美子が「この件については、番組で話し合って私が話します」と言い出し、「エンタメを通じてたくさんの夢を見せてきてくれたジャニーズだからこそ、ファンや私たちが迷いなく夢を見続けられるようにしてほしい」などと発言した。ニュースについてコメントできない人物を報道番組に起用していること自体が問題だが、この状況下で「迷いなく夢を見続けられるようにしてほしい」というコメントは、被害者に対して無神経すぎるだろう。

さらに酷かったのが、フジテレビだ。『めざまし8』では、短いVTR後にメインMCの谷原章介が「異例の謝罪でしたけれども、ジャニー喜多川さんの性加害について、ジャニーズ事務所は知らなかったということでしょうか」と一言述べただけ。スタジオには橋下徹や古市憲寿といったコメンテーターも揃っていたが、話題を振ることなく、天気コーナーに移ってしまったのだ。

だが、こうした日テレやフジの報道よりも酷かったのが、テレビ朝日だ。

まず、15日放送の『報道ステーション』では、大越健介キャスターによる「被害を訴えている人たちをはじめ、 夢を傷つけられたファンや、 この問題でショックを受けた多くの人たちの思いをまずはしっかりと受け止めていただきたい。誠実に向き合うというのはそこからはじまるのでないでしょうか」などと当たり障りのないコメントでお茶を濁したのだが、さらにジャニーズへの忖度があからさまだったのが同日放送の『羽鳥慎一モーニングショー』だった。

『モーニングショー』も短くVTRでジュリー社長の説明を伝え、スタジオでは羽鳥が「代表であるジュリー社長がコメント、謝罪ということになりました」と話題を振ると、石原良純が「当事者であるジャニー氏が亡くなっているから事実認定ができないっていうのは、まあそういうことなんでしょうけども」などと無批判に語り、「時代がどんどん変わっていってるなと。こういうことが取り上げられて、メディアに取り上げられて」とコメント。さあらに、玉川徹までこんなことを言い出したのだ。

「やっぱり藤島社長がこういうふうにコメントをして、謝罪をしたっていうことは大きなことだと思うんですよ。とても大きなことだと思うし、大きなステップを踏み出したんだなというふうに思います。やっぱり今後なんですけどね、 今回こういうふうにコメントされたことをきっちり進めていけるかということと、自ら検証して進めていけるか、その際に被害を訴えられている方を第一に考えて進めていけるかどうかってことがポイントだし、やっぱりジャニーズの未来をそこが決めるんだろうと思います」

政権批判を厭わない、あの玉川氏までもが、加害行為を認めていないことや第三者委員会の設置拒否という問題点をスルーし、「藤島社長がコメント・謝罪したことは大きい」などと大甘なコメントを発するとは……。あまりにも手ぬるいと言うほかないだろう。

じつは、テレ朝はカウアン・オカモト氏の会見にカメラクルーを出席させていた。にもかかわらず、ジュリー社長の公式見解が出るまで、まったく放送してこなかった。この背景に何があったのかについて、テレ朝社員は「週刊文春」でこう証言している。

「上層部から『取り上げるな』とは言われていませんが、暗黙の了解で『取り上げないよね?』と。うちは城島茂の『週刊ニュースリーダー』、東山紀之の『サンデーLIVE!!』など、ジャニーズがメインのニュース番組もある。会見は素材としてとりあえず撮りに行った形です」

つまり、上層部が現場に圧力をかけたわけでもなく、社内に暗黙の了解があり、ジャニー氏の性加害問題を取り上げなかったというのである。

●ジャニーズ事務所の言いなりテレビ朝日 『Mステ』でも『モーニングショー』でも忖度

こうした忖度はテレ朝にかぎらず他局でも同じ空気が流れていたことは想像に難くないものだが、テレ朝の場合、とりわけ重いものだったはずだ。実際、テレ朝とジャニーズ事務所が築いてきた蜜月関係は、他局よりも古く、濃いものだからだ。

テレ朝とジャニーズの関係を語る上では外せないのが『ミュージックステーション』の存在だ。1986年に放送が開始された『Mステ』は、芸能プロダクションとの癒着が有名で「テレ朝の天皇」とも呼ばれた皇達也・元取締役制作局長が、ジャニーズと田辺エージェンシーと共同で立ち上げた番組。一時はジャニーズの稽古場がテレ朝局内に置かれていたこともあったほどの関係にある。

そして、番組スタート時からジャニーズ所属のアイドルがほぼ毎週出演してきた一方で、ライバルとなる他事務所の男性グループアイドルが出演できない状況がつづいてきた。現に1997年には、この年デビューしたDA PUMPが番組に出演することが決まると、放送前日になってジャニーズはKinKi Kidsを出演させないと一方的に通告するという事件が起こった。こうしたジャニーズ以外の男性アイドルグループの番組からの排除は、ジャニー氏の意向をテレ朝が汲み取った結果だ。ジャニー氏の功績を振り返った「週刊新潮」(新潮社)2019年7月25日号の記事では、実際に皇氏がこう証言している。

「台頭してきた他の事務所の男性アイドルを番組に出すかどうか考えていた時のこと。ジャニーさんは“出したらいいじゃない。ただ、うちのタレントと被るから、うちは出さない方がいいね”と言う。ジャニーズタレントが番組から消えたら大変です。私が”そんなこと言わないで後進に手本を示してくださいよ”と返すと、”わかったよ”と理解してくれた。厳しさの反面、度量もある方でした」

皇氏はジャニー氏が理解してくれたと述べているが、実際にはその後、DA PUMPはヒット曲をいくら出しても『Mステ』に出られず、再出演を果たしたのはなんと21年後の2018年のことだった。

さらに、『Mステ』では、ジャニーズアイドルのバックダンサーをジャニーズJr.が務めることが多いが、「目立たせたいJr.がいる」といったジャニー氏の要望により位置替えがよく起こっていたという。また、『Mステ』は番組開始当初から20時スタートだったのを、2019年10月からは21時スタートに変更したが、ここにもジャニー氏への配慮があったと言われている。というのも、Jr.には15歳未満の者も多く、21時スタートでは彼らが生出演できなくなる可能性があったからだ。つまり、ジャニー氏の死去によって、Jr.への配慮の必要がなくなり、21時への改編が可能になったというわけだ。

『Mステ』以外にも、1998年にはジャニーズJr.にとって初のゴールデン枠のレギュラー番組となる『8時だJ』を放送するなど、ジャニー氏の言いなりともいうべき関係を築いてきたテレ朝。こうした古くからの関係が、局内に「忖度するのは当然」という空気を生み出し、あの玉川氏でさえ鋭い批判ができない要因となっているのだろう。

実際、玉川氏とともに政権批判を繰り出してきた『モーニングショー』元コメンテーターの青木理氏は、16日放送のYouTube番組「Arc Times」において、番組名は伏せつつも『モーニングショー』での出来事だと思わせる“ジャニーズ忖度”のエピソードを披露した。

青木氏によると、SMAPの解散報道時、事前にプロデューサーから「青木さん、コメントしたいですか?」と尋ねられ、青木氏は「芸能事務所とテレビ局がある種、一心同体になってしまっている。準当事者になってしまっていて、報じられないこともある。だから視聴者はこういうメディアリテラシーも必要なのかもしれない」といったことを言いたい、と伝えたという。ところが、このコメントは「会議が開かれてNGに」なったらしく、「この件は一切コメントなしで行きますから」と告げられたという。

●高裁で事実認定されても国会で取り上げられてもジャニー氏の性加害を報じてこなかった大手メディアの責任

しかし、前述したように、ジャニーズ事務所への忖度報道をおこなっているのはテレ朝だけにかぎらない。つまり、日本を代表する芸能プロダクション創設者による未成年者への性加害告発という重大問題を前にしても、テレ朝と同じようにジャニーズとの利権構造でがんじがらめになっているテレビ局ほど消極的な報道に終始しているというわけだ。

いや、それはテレビ局だけの問題ではない。テレビより酷いのは全国紙系列のスポーツ紙で、ジュリー社長が公式見解を出すまでは紙面において全紙が沈黙。いまだにジャニーズに対する批判的視点がほぼ皆無の記事を出している。これもひとえに「J担」と呼ばれる記者がジャニーズに接待漬けにされ、スキャンダル報道を封じてきた悪しき慣習にいまも従っているためだ。

ジャニー氏の性加害は、言うでもなく大手メディアがその疑惑を把握しながら無視を決め込み、高裁で事実認定され最高裁で確定しても国会で取り上げられても報じることなく、隠蔽に加担したことで、これまで「なかったこと」にされてきた問題である。外圧と勇気ある告発によって、ようやくそのパンドラの箱が開いたというのに、大手メディアは相変わらずこの体たらく……。徹底した真相究明とジャニーズ事務所の責任追及が果たされるとは、とても考えられないだろう。
(編集部)

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