森永製菓と江崎グリコにある【2倍の差】とは?好調お菓子メーカーの決算を分析

夏の足音が次第に大きくなりつつある今日この頃、わが家の娘たちは毎日のようにアイスを食べています。彼女たちが選ぶアイスはだいたい決まっており、チョコモナカジャンボか、ジャイアントコーン。この2つは何年も変わらず、わが家の冷凍庫のイツメンです。

チョコモナカジャンボは森永製菓、ジャイアントコーンは江崎グリコが製造しています。わたしの贔屓はジャイアントコーンですが、チョコモナカジャンボも捨て難い。アイスでは甲乙つけがたい対決ですが、じつは株価の上昇率も夏に向けて接戦を繰り広げています。

お菓子メーカーは、コロナの巣篭もり需要で2021年、2022年は好調でしたが、2023年は原材料高に苦しめられ、業績は低迷していました。そこから価格転嫁をすすめ、徐々に業績が回復しつつあります。あらためて2社を比べてみましょう。

画像:TradingViewより


森永製菓の決算は?

まずは森永製菓(2201)の2023年3月期の決算から。

画像:森永製菓「2023年3月期 通期 決算説明会資料」より引用

売上高は①前年比107.2%、売上総利益は②前年比101.1%、営業利益は③前年比86.1%ということで、売上増加に伴い売上総利益も増加していますが、原材料およびエネルギー価格の高騰、戦略的な広告投資により減益となっています。

ただし、第4四半期では、原材料とエネルギー価格の上昇を価格転嫁と売上増加で大幅にカバーできており、値上げ効果が徐々に現れていることが分かります。

画像:森永製菓「2023年3月期 通期 決算説明会資料」より引用

チョコモナカジャンボは、2022年6月と2023年3月に値上げしていますが、値上げ後も売上は好調で、ファンからの支持は強固のようです。

画像:森永製菓「2023年3月期 通期 決算説明会資料」より引用

2024年3月期の予想では、売上の増収と価格転嫁の効果で、原材料とエネルギーコストをマルッとカバーできる見通しです。営業利益予想は173億円で、前年比13.6%の二桁増益が好感され、決算発表翌日は5.3%株価が上昇しました。

画像:森永製菓「2023年3月期 通期 決算説明会資料」より引用

江崎グリコの決算は?

次に、江崎グリコ(2206)を見てみましょう。

画像:江崎グリコ「2022年12月期期末決算説明資料」より引用

2022年12月期の本決算説明資料によると、営業利益は128億円、①前年同期比-33.5%と大幅減益、当初の計画よりも②14.4%の下振れて着地しています。こちらもやはり、原材料価格の高騰に苦しめられたようです。

画像:江崎グリコ「2022年12月期期末決算説明資料」より引用

2023年12月期の営業利益予想は160億円で、前期に比べて32億円増。ただし、国内での増額は1億円のみで、海外で32億円増益する見通しです。

画像:江崎グリコ「2022年12月期期末決算説明資料」より引用

2社の決算から見えてくる共通点

森永製菓の海外売上比率は10%程度に対し、江崎グリコは20%と多いため、為替の変動による影響をより受けやすいというのは留意しておいたほうがよさそうです。

江崎グリコは直近の2023年12月期の第1四半期決算で、①売上高71,075(百万円)、②前年同期比+8.6%、③営業利益3,900(百万円)、④前年同期比△4.3%と減益着地となっていますが、⑤経常利益は5,303(百万円)、④前年同期比10.6%と二桁増益となっており、こちらは為替差益がプラスに寄与しています。

画像:江崎グリコ「2023年12月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

森永製菓のように決算翌日に急騰するといった派手なパフォーマンスではないですが、じわりじわり株価を切り上げ、5月26日(金)には年初来高値を更新しました。この日は、8月1日(火)出荷分より一部商品の値上げを発表しており、今後の収益性の向上が期待されての買いも入っているようです。

2社の決算で見えてくる共通点は、複数回の値上げが消費者に受け入れられつつあるということです。利益率一桁台のそれほど高くない企業が、1%利益率を改善するだけでも、かなりのインパクトがあります。身近なお菓子メーカーの決算から、日本人のデフレマインドが解消されつつあることが見えてきますね。

じつは営業利益率には2倍の差

消費者の感覚では、森永製菓と江崎グリコ、同じような規模感ですが、実際には少し違っています。進行中の期の売上は、森永製菓が2,040億、江崎グリコは3,170億円と江崎グリコのほうが1.5倍程度あります。

一方で営業利益は、森永製菓は173億円、江崎グリコは160億円とほぼ変わりませんので、営業利益率は、森永製菓が8.4%、江崎グリコは5%となり、圧倒的に森永製菓のほうが効率良く稼げていることになります。

それにもかかわらず、企業に対する評価を表すPERは、森永製菓が16.8倍、江崎グリコは23.8倍と、江崎グリコのほうが高い。直近の株価の上昇も同様となると、投資家としては少し混乱してしまいます。

長期チャートで株価を見ると……

ところが2012年から10年の長期チャートで株価の変化を見ると、森永製菓のほうがパフォーマンスがよいことが分かります。

画像:TradingViewより

アベノミクス相場の2012年から2016年途中までは同じような動きでしたが、その先は江崎グリコは伸び悩みズルズルとゆっくり下降、森永製菓は2017年にぐいっと一段高となり、その後下げてはいますが、江崎グリコと比べると下げ幅は小さく、高い位置にあります。やはり利益率の差は、それなりに株価に織り込まれているようです。

今年、2023年4月から両者の株価が同様に上昇しているのは、どちらも値上げに対するポジティブな反応でひとくくりにされているのではないでしょうか?

ちなみに、4月26日(水)に野村證券が森永製菓の投資判断を「ニュートラル」から「バイ」に格上げ、目標株価も4,300円から5,100円に引き上げました。足元で主力ブランドの増収益が競合を上回っていることが評価となったようです。5月30日(火)現在の株価が4,500円以下なので、まだ上値余地はありますので、ここからライバルに差をつけたいところ。

もちろん江崎グリコが、この先ぐいっと利益率を上げてくることも考えられます。現在5%の利益率が7%、8%まで改善されれば、営業利益は上方修正され、株価を一段押し上げるでしょう。そういった大逆転を妄想しながら、ジャイアントコーンをいただくのも乙ですね。

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