ドラムをたたいて認知症検査 腕の角度と重症度に関連性

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ドラムをスティックでたたく動きを計測することで、認知症の重症度をスクリーニング(ふるい分け)できるとする論文を東京大学先端科学技術研究センターが発表した。簡便な方法を用いることで、認知症の高齢者が必要性を理解できずに検査を強く拒んだり、日常的な行為ができないために正しく検査が行えなかったりする問題が解消される可能性がある。

握力が弱いほど認知症リスクが高いと先行研究で報告されているように、上肢(肩から手まで)の運動機能の低下は認知機能の低下につながるとされている。また、認知症の重症度に応じて肩の筋肉を使う動きが難しくなり、腕を高い位置に上げる動作をしにくくなるという。

しかし、上肢の運動機能を調べて認知症の重症度を推し量ることは困難だった。重度の認知症患者は、まひなどの運動機能の障害がなくても今までできていたことができなくなってしまう「失行」の症状などのために、正しく検査を行うことが難しいためだ。そのため、患者自身や医療従事者に負担をかけない簡便な検査方法が求められていた。

そこで同大の宮崎敦子特任研究員と檜山敦特任教授らの研究チームは、スティックがドラムから跳ね返る力を利用すれば簡単に腕を上げられる点に着目。ドラムを演奏する動きから上肢の運動機能を測定して、認知症の重症度を推測する方法を開発した。

実証実験では平均86歳の男女16人が利き手にスティックを持ち、座った姿勢で20分間ドラムを演奏した。加速度センサーとジャイロセンサーを備えた腕時計型ウェアラブル端末で利き手の動きを計測したところ、腕の挙上角度は平均14.73度だった。認知症の症状が重い人は腕が上がっていない傾向があり、研究チームは「ドラムをたたく腕の角度と認知症の重症度は相関している」とした。

さらに、今回の研究で得られたドラム演奏時の腕の挙上角度と握力のデータを用いた計算モデルが、認知症高齢者の認知機能障害を説明するのに優れていることがわかった。また、スティックを振る速さは認知症の重症度と関係がなかった。

研究チームは「ドラム演奏に必要な動きは、認知症や虚弱な方でもできるため、効果的で実用的な手法となり得ます」と述べた。実験で装着したウェアラブル端末は比較的安価であり、介護現場などでも導入が容易だとしている。

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