大学進学を考える日本と米国、二つの国で 学び暮らす選択

コロナ禍を経験して社会は大きく変わった。日本社会も例外ではない。未来を見据えて、グローバルな大学進学の選択肢の一つとして、米国と日本で自分たちのルーツを生かす学びについて掘り下げる。(取材・文/河原その子)


大学進学エキスパートに聞く

新しい時代の日米大学進学のトレンド!

カレッジカウンセラーとして、ニューヨークを拠点に世界各地の日本人高校生に米大学進学の全過程をサポートする伴里美さんに、最新の大学情報を聞いた。

─米国大学進学の変化は?

以前より、生徒の学力を測る「SAT」や「ACT」は不公平だと批判されてきました。裕福な家庭の生徒が有利になる傾向があるからです。

コロナ禍でテストがキャンセルされ、スコア提出がオプショナル化し、その結果、スコアの重要度が下がり、今まで志願しなかった学生が応募するようになり、合格率は低下しています。今、大学は、より生徒の全体評価を重視するようになってきています。多様な学生が集まり、大学としては好ましいとされています。本来この流れはあり、コロナ禍がそれを後押ししたといえます。

─日米大学進学の違いは?

昔から日本や韓国などの一部の国では、貧困層でも優れた知性を持っていれば、試験を通じて社会的な上昇や公的地位につける「テスト文化」が存在していました。今も根強いです。

一方、アメリカではテストの重要性が低く、かつてはアイビーリーグなども一部の富裕層だけが入るもので、テストによる選抜を重視する文化はありませんでした。それが科学技術の発展のために学力優秀な学生が必要となっていき、多様な学生を入学させる、すなわち入学審査に「ホリスティック・アプローチ」が採用されるようになりました。

一般的に私立、特に難関校では、ホリスティックな評価、つまり「GPA」、高校で履修した科目選択、エッセイ、課外活動などが大きな影響を与えます。また、内面的なアピールや独自の視点も考慮されます。一方、日本ではテストは重視されますが、成績に関してはあまり重要視されないと言われています。

─学費の対策は?

米国籍や永住権を持ち、アメリカでの就職を希望する人はアメリカの大学に進学し、奨学金の申請も可能です。州内の公立大学なら学費が抑えられますし、柳井正財団や笹川平和財団など、海外在住の日本人高校生にも支援する奨学金が増えており、日米両国の大学に応募する人も増えています。学費の面で英語で学位取得可能な日本の大学を選ぶケースもあります。

─米国大学からの留学は?

米国では、ほぼどの大学にも留学制度があり、東大や一橋大学などへの短期留学も人気です。これからは多様性を理解し、異文化での学びを経験することが求められ、留学先でのインターンシップ経験など、留学経験は将来のアピールポイントとなりますね。

─大学選びの動向は?

前にも増して、卒業後に焦点を当てる人が増え、高収入を期待できる専攻に注目する傾向があります。駐在のご家庭では、日本で知名度のある米大学に進学したいという考えも多いですが、将来日本人留学生が増え、留学の体験談やSNSなどで、知名度が低くても良質なリベラルアーツの大学が注目される可能性もあります。ただし、日本の財団は特定大学に合格した学生を支援する傾向があり、それを意識して難関大学に応募する傾向もあります。

─エッセイの指導は?

エッセイに苦労する学生は多く、エッセイのサポートを業者に頼む人もいます。私は、個性を尊重し、学生が自身の書いたものを誇れる自分らしいエッセイになるよう指導しています。

─伴さんからアドバイスを

学校での勉強を優先させながらも、自分が得意だったり興味のある分野は何かをよく考え、深掘りすることが重要だと思います。それを大学進学前もその後も続けていってほしいです。社会は親の若い頃とは変化しており、親の助言が今の時代に合わないこともあります。特にキャリアのアドバイスが必要な時は自分より少しだけ年上の人に相談すると良いでしょう。

伴 里美さん
カレッジカウンセラー(サトリカレッジプランニング代表)

国際基督教大学で学士号、ノースウェスタン大学大学院で修士号、UCLAでカレッジカウンセリング免許取得。元ノースウェスタン大学入学審査面接官。日系情報紙に大学進学に関するコラムを連載中。
info@satoricollegeplanning.com
satoricollegeplanning.com

日本で唯一3カ国をまたいで米国大学の学位を取得

テンプル大学ジャパンキャンパスの新たな試み

ペンシルベニア州フィラデルフィアに本拠を置くテンプル大学の日本キャンパス(以下 TUJ)は、未だ知る人ぞ知る存在。その中身をアドミッションディレクターの竹本さんに聞いた。

昭和女子大と共有する新キャンパス

─TUJの存在意義

ユニークな点は、東京にありながら、米国の大学の教育が受けられること。現在約1850名の学生が在籍し、約40%が米国籍、約40%が日本国籍、残りの約20%は60カ国を超える国から集まっています。また教授陣も米国を初め、様々な国籍の教授がいます。キャンパス内にいると、ここが日本であることを忘れるような場所です。多文化に触れ、多様性を身につけることができ、毎年大学ランキングで上位グループにランクインされているので、質の高い教育を日本で受けることができます。

世界的なパンデミックが起きた後、人々の意識にも変化があり、これからは多様な価値観を身につけることが大切だと考えています。米国で生まれ育ち日本にルーツを持つ若者が、日本に来て母国と日本の違いに触れることは大変意義のあることです。東京は世界的なビジネスの中心地であり、その変化を目の当たりにすることができます。エンターテイメント業界でも独自のアプローチがあり、例えばアメリカと日本のディズニーランドを比較体験することで学べることも多い筈です。「違い」を実際に体験することで新たな価値観を身につけることができるのです。

「みんなのこと待ってます!」と学生たち

─米・日・欧で学ぶ大学

最大の特徴は、3つのキャンパス(フィラデルフィア、東京、ローマ)を自由に移動して学ぶことができることです。TUJの学生は、「Fly to Philly Program」に参加することで、最長1年間、TUJの学費のままフィラデルフィア本校に留学することが可能になりました。加えて、フィラデルフィア本校に出願する学生が、最初の1年間を日本やローマのキャンパスで過ごす「ジャパン・ファーストイヤープログラム」や「ローマエントリープログラム」を選ぶことで留学オプションが加速しています。この3つのキャンパス間の学びは、学生の成長を促進し、多角的な視野を養うことを支援するだけでなく、パンデミック後の社会変化に対応する教育の新しいアプローチとして注目されています。

─アカデミック支援

小規模ゆえに可能な、きめ細かいアカデミックアドバイジングは特筆すべき点です。学生一人一人に割り当てられるアドバイザーが、入学から卒業までの間学生達を支援します。アドバイザーは、常に学生の学業成績や活動を把握し、専攻や科目の選択などの相談に乗り、卒業時期や進路の具体的なプラン作成も、親身に対応します。

─就職での取組み

日本でも通年採用を行う企業が増えているため、就職時期は多様化しています。TUJでは、学生個々の卒業時期に合わせて、個別に就職活動の支援を行っています。就職部スタッフが、エントリーシートや面接対策のアドバイスを提供し、学生の目標やニーズに基づいたキャリアプラン作成を全面的にサポートしています。また、年に数回、多くの企業をキャンパスに招き、キャリアフェアを実施しています。業界をリードするプロフェショナル達と直接対話しながらネットワーキングができる、貴重な機会となっています。卒業生座談会も毎年開催され、在学生が就職活動に役立つコミュニケーションスキルやネットワーキングスキル向上のヒントを得る機会となっています。

─企業や就職先がTUJの学生に期待していること

企業は優れたコミュニケーション能力、対人スキル、問題解決能力を持ち合わせた人材を求めています。リモートワークの定着や離職率の増加により、新しい環境への順応性や異文化間の協調性が求められています。TUJで異なる文化的背景を持つ学生達と共に学び、日々異なる考え方に直面することで、問題解決能力を伸ばすことができるのです。

─これからの指針

AIの時代、大学のあり方も問われています。TUJでは、教授陣がチャットGPTを活用した勉強法を模索するティーチングサークルを作り、より良い指導法を共有しています。また、2023年夏学期からEスポーツ修了証明書プログラムを導入し、23年秋学期からは新たに「観光・ホスピタリティマネジメント学科」を追加するなど、教育の進化に果敢に挑戦しています。

キャリアフェアの様子

竹本正二郎さん
テンプル大学ジャパンキャンパス国内アドミッションディレクター

〈テンプル大学ジャパン〉
東京都世田谷区太子堂1-14-29
tuj.ac.jp/jp
〈フィラデルフィア本校〉
temple.edu


海外在住でも申し込める!海外の大学で学ぶ日本人学生を支援する給付型奨学金

柳井正財団および笹川平和財団は、世界の舞台で活躍する新しいリーダーを輩出すべく、日本人学生がグローバルな水準で学ぶことを支援している。米国在住の日本国籍の高校生も、米国の大学進学のために申し込むことが可能。具体的な応募条件やプログラムに関する詳細は、各財団の公式ウェブサイトを参照。

通常、大学進学には高校の成績や入学試験(SATやACT)、エッセイ、推薦状などの書類が必要となるが、多くの大学が独自の入学要件や申請手続きを持っているので、米国大学進学に興味がある場合は、まず希望する大学の公式ウェブサイトで入学要件や申請手続きに関する情報を確認することが重要になる。

柳井正財団
yanaitadashi-foundation.or.jp

海外奨学金プログラムで、2017年より始まった返済不要の奨学金。公募制学校推薦海外大学奨学金(予約型)と公募制海外大学奨学金(合格型)がある。詳細はウェブサイト参照。

笹川平和財団スカラシップ
scholarship.spf.org

社会課題の解決に意欲があり、海外で学ぶことで成長したいとの考えを持つ者であれば、年齢や年収の制限なく申し込める給付型奨学金制度。


大学のダイバーシティー推進宣言

米国では、1960年代から70年代にかけて LGBTQ支援や発達障害を持つ学生などの、多様性・包括性に関する取り組みが各大学でスタートし今に至っている。日本ではようやく2010年後半から多くの大学で「ダイバーシティー&インクルージョン推進宣言」が始まった。その推進の理解とシステム進化のスピードは早く、期待と注目が高まっている。 具体的な取り組みとして、異なる性別・性的指向、民族・文化的背景、身体的な能力や特性を持つ人々の受け入れやサポート、アクセスの改善、 LGBTQに関する啓発活動やイベントの開催、学生団体の支援などが挙げられる。

発達障害の学生のニーズに応える取り組みは、各大学に設けられた「学生支援センター」「学生相談室」へ事前に問あわせることも可能である。

日米良いところ取り!

自分にぴったりの学びを見つけた

早稲田大学国際教養学部在学生に10の質問

英語で学位のとれるプログラムを持つ有名校の一つ、早稲田大学国際教養学部。実際はどんな感じなの? に答えるべく2年生在学中の冨田梨早さんに直撃インタビューしてみた。


①選んだ理由は?

ニューヨークで育ち、帰国受験を経て高校は日本語で学んでいました。英語が好きで、私の武器でもあるので、それを使える大学をまず考え、自分の学問的興味がまだ定まらなかったので、色々試せる国際教養学部に魅力を感じて選びました。知名度にもちょっと魅かれました(笑)。

②入学試験は?

日本の高校生も、海外からの人でも受験できますが、それぞれの立場で入試方法が違います。私は母国語が日本語生徒のAO入試で、TOEFLなどの英語資格試験、志望理由、高校の平均評定(米国のGPAにあたる)に加えて、英語の長文解読とエッセイをその場で書く筆記試験がありました。

③学生の国籍は?

日本人が多いですが、アジアや欧米など様々な国からの留学生が3割くらいだと思います。世界中で様々な経験をしてきた人が集まっている感じで、それがすごくいいです。居心地が良くて、受け入れてくれている、という空気があります。そこが普通の学部と違うかもしれません。帰国子女の自分と同じような悩みを分かち合える人が大勢いるのも心強いです。

早稲田キャンパスで元気にピース

④カリキュラムは?

授業は全て英語です。しかし、国際教養学部の必修科目以外は、早稲田の他の学部の通常の日本語授業を取ることもできます。結構、自由に幅広く選択できるのが魅力です。日本語のできない学生のためには国際教養学部の必修科目の内容も違うなど、カリキュラムはさまざまです。

⑤授業は難しい?

日本語の授業では、先生が一方的に話す形が多いのですが、国際教養学部は先生もインタラクションを重視するので、ディスカッションが多いです。成績は、試験だけでなく、ディスカッションへの参加度、頻繁なエッセイ提出、プレゼンテーションなど多くの要素で評価されるので、成績を上げるチャンスは沢山あると感じます。試験の一発勝負で高評価がつくという形ではありません。それでもアメリカの大学よりは授業は易しいと思います。エッセイをうまく書けなかったと思っても、案外点数くれたりします(笑)。

⑥一般入試で入った日本人と違いを感じますか?

一般入試で入ってきた学生は、頭が良くて、忍耐力もすごいです。受験勉強した分知識もあり、努力家だと素直に思います。ただ、勉強の仕方が違うというか、日本では高校までにエッセイやプレゼンテーションをする機会があまり無いので、この学部に入った後に、そういう難しさを感じる人も少なくないのではないかと思います。

⑦サークル活動は?

「早稲田大学書道パフォーマンスサークル漣」に所属しています。出来てまだ5年目ですが、100人程いて、色々な学部の人と交流できるのがとても楽しくて、今夢中です。

書道パフィーマンスで凛々しい姿の梨早さん(高橋慈郎・撮影)

一筆入魂(中野広海・撮影)

⑧卒業後は?

多くの選択肢が目の前に広がっている感じがして、色々な可能性を探索中です。今のところ、教育学関係に興味があります。周りでは、日本で就職する学生がほとんどですが、英語力とプレゼン力は有利だと聞いています。9月入学の場合、卒業時期も違うため、リクルートスーツで一斉に就職活動するというよりかは、少し自由な印象です。

⑨留学が必修?

今年8月からスウェーデンのヨーテボリ大学へ1年間行きます。国際教養学部は母国語が日本語の生徒は海外留学が必修です。留学先も自分で選べます。留学もこの学部を選んだ理由のひとつなので、とても楽しみですが、もうすでにホームシックになっています(笑)。

⑩アメリカの高校生にアドバイスは?

多様な背景の学生の受け入れ体制は整っているので、安心して来てください。自分に似た人に必ず会えるし、友達もできます。新しい発見がきっとあると思います。


英語学位プログラムのある大学(2023現在)

私立

• 京都先端科学大学
• 慶應義塾大学
• 上智大学
• 同志社大学
• 法政大学
• 明治学院大学
• 明治大学
• 山梨学院大学
• 立教大学
• 立命館大学
• 早稲田大学

国立

• 大阪大学
• 岡山大学
• 九州大学
• 京都大学
• 国際教養大学
(公立・秋田県)
• 筑波大学
• 東京大学
• 東北大学
• 名古屋大学


はじめの1歩

海外からの日本の大学入試情報

子どもが日本の大学を選択肢に入れるとき、どこから情報収集を始めたら良いの?

ステップ1 受験生の国籍
①日本国籍のみ
②二重国籍で日本人として受験
③二重国籍でアメリカ人として受験
④米国籍のみ保持者

ステップ2 入試方法と受験資格
(A)一般入試▶日本の高校生と同じ受験
(B)推薦▶︎主に指定高校などからの推薦
(C)AO入試(総合型選抜入試)▶︎自己PR、論文、面接など大学による
(D)帰国生入試▶︎帰国後2〜3年以内、または海外の高校卒業生対象
(E)留学生入試▶外国籍の学生対象

*2重国籍者は基本的には自分で受験する国籍を選べるが、各大学で資格認定基準が変わるので、直接確認すること

ステップ3 大学・学部のタイプ選び
1)日本語で学位を取る学部・学科
留学生、帰国生の受け入れをする大学・学部は多く、英語の講義も開講されている
・ナレッジステーション(帰国生入試の情報サイト)/gakkou.net
・文部科学省: IB(国際バカロレア)制度を活用しての入学制度のある大学リスト/ibconsortium.mext.go.jp

2)英語で学位を取るプログラム
英語の授業のみで学位を取れるプログラム。現在私立11校、公立9校
(表参照)

3)海外の大学とダブルディグリーをとるプログラム(共同学位制度)
大学が提携する海外の大学と同時に2つの学位を取得するプログラム
文部科学省:共同学位制度導入大学について/mext.go.jp

ステップ4 希望大学の入学時期を確認し願書・試験の準備

ステップ0

ここで初心にもどって、まず学びたいこと、将来の目標がはっきりしている人は、自分にあう大学やプログラムの入学資格、成績や試験を突破できる可能性があるかどうか調べてみよう。はっきり決まっていなくても、リベラルアーツ(教養学部)で色々な分野を学ぶことも有効だ。

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