現代に特産品が残るトウカイの「宿場町」【東海道五十三次40番目の「鳴海宿」】〜近隣の有松とともに、絞り染めで名を馳せた宿場〜(名古屋市緑区)

今も江戸時代の風情が残る有松の街並み(写真提供:(公財)名古屋観光コンベンションビューロー)

古くからヒトやモノが往来した街道沿いで、旅人のために、宿や人馬の輸送機関(問屋場)を置いた集落「宿場町」。東西を結ぶ交通の要所でもある東海エリアには多くの街道が通り、宿場町が点在していました。旅人相手に、グルメや生活用品をはじめとする特産品を売り出す宿場も少なくなく、各宿場の「名物」として、旅の楽しみにもなっていました。ここでは、かつての「名物」が今も残るトウカイの宿場町を紹介します。

東海道五十三次の内の「鳴海宿」(名古屋市緑区)〜近隣の有松とともに、絞り染めで名を馳せた宿場〜

今も江戸時代の風情が残る有松の街並み(写真提供:(公財)名古屋観光コンベンションビューロー)

お江戸日本橋から数えて40番目の宿場町「鳴海」

広重『東海道五拾三次 鳴海・〔名物有松絞〕』, 保永堂. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1309868 (参照 2023-05-31)

『緑区誌』によると、江戸時代の鳴海には、地域の政治を担う陣屋(鳴海代官所)が置かれていました。管轄は鳴海、有松、大高、愛知郡東南、知多郡東浦で、総石高7万2077石もある大陣屋だったといい、一帯の政治の中心地でした。

一方で、東海道53次の内の40番目の宿場とされた鳴海宿は、東の平部町から西の丹下町の約1.8キロの街並みで、身分の高い旅行者が泊まる本陣は根古屋(現・名古屋市緑区鳴海町根古屋)、「脇本陣」や「高札場」は本町にあったとされます。

旧鳴海宿の位置図(県道222号沿い)

天保14(1843)年の宿場の規模は、旅籠68軒、家数847軒、人口3643人。

町の発展とともに本陣や旅籠などは消滅してしまっていますが(一部移築保存または再建されているものあり)、宿場の入り口と出口を見守り続けた「常夜灯」は、江戸時代の姿そのままに残っています。

今も残る、江戸時代に建立された常夜灯(左:丹下町常夜灯、右:平部町常夜灯)

尾張藩によって新設され、絞り染めとともに発展した「有松」

店先で絞り染めの「くくり」作業に従事する女性と、話しこむ客が描かれた浮世絵葛飾北斎 画『東海道五十三次』[2],刊.国立国会図書館デジタルコレクション(https://dl.ndl.go.jp/pid/2550951) (参照 2023-05-31)

東海道の宿場(旅人のための宿泊・輸送機関を備えた集落)が整備された江戸時代初期、「池鯉鮒宿」(現・愛知県知立市)と「鳴海宿」の間は人家も耕地もなく極めて寂しい状態だったといいます。旅人の安全のために茶屋集落(間の宿)が必要とのことで、慶長13(1608)年に尾張藩が移住を奨励してできた村が有松でした。

『尾張徇行記』にある有松村の記述によると、このとき移住してきた里民によって、「絞木綿」を生産し販売するようになったそうです。絞木綿の手拭いや着物は旅人に評判が良く、一躍、東海道の名物となり、浮世絵などにもよく描かれました。

染める前の「くくり」の担い手は主に近隣の婦女で、鳴海村・大高村には絞り染めをする者もいたとのことで、名古屋木綿問屋経由で江戸へも出荷していたようです。

伝統を守りながら進化を続ける「有松・鳴海絞」

「くくり」の実演風景(写真提供:有松・鳴海絞会館)

江戸時代の伝統を今に伝えるとともに進化を続ける有松・鳴海絞は、パリコレをはじめとするファッションショーに生地が採用されるなど、グローバル化が進む現代にも通用する布地として評価されつつあります。

デザイン性と肌触りの良さで人気の絞り染め製品(写真提供:有松・鳴海絞会館)

絞り染めというと藍色で伝統的な柄の印象が強いですが、最近では、カラフルな色合いや淡いパステル調の色合い、挑戦的な模様も作り出されており、注目の素材となっています。

現代の有松には、伝統に培われた絞り技法の開発の舞台となり、産業として支えてきた昔ながらの街並みが色濃く残っています。

卯建(うだつ)を設けた屋根や虫籠窓(むしこまど)といった特徴を持つ絞商の豪壮な屋敷や、絞りに関わる人々の住居(町家)が混在。

約500メートルの街道(旧東海道=県道222号)沿いは、昔ながらの風情を生かしたカフェや土産物屋など、歴史文化と観光、グルメも楽しめる心地良い空間となっています。

国選定「重要伝統的建造物群保存地区」文化庁認定「日本遺産」になっている有松の街並み(写真提供:有松・鳴海絞会館)

有松・鳴海絞について知りたくなったら

有松・鳴海絞について知りたくなった人は、絞りの歴史や作品の展示即売、工芸士による実演、体験教室を実施している「有松・鳴海絞会館」へ。絞り染めの魅力に触れられる貴重な施設で、初めての人には特にオススメですよ。

◎有松・鳴海絞会館(名古屋市緑区有松3008番地)
開館時間/9:30~17:00(実演は16:30まで)
休 館/年末年始、その他臨時休館日
電話番号/052-621-0111

毎年6月第1週の土日には、有松界隈で「有松絞りまつり」が催されており、愛知県絞工業組合によるバラエティー豊かな絞り作品の展示のほか、絞り染め体験、有松絞りの浴衣着付け体験など、盛りだくさんな企画でにぎわいます。
※2023年「第39回有松絞りまつり」開催日は6月3日(土)、4日(日)

※掲載情報は公開日時点のものとなります

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