脚本家・金沢知樹「九州から世界に向けエンタメ発信」福岡移住の理由語る

脚本家・金沢知樹さんと田畑竜介アナウンサー

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荒くれ者の力士を主人公に据えながら角界の裏側を描き、世界中で大ヒット中のNetflix配信ドラマ『サンクチュアリ-聖域-』の脚本を手がけた金沢知樹さんに、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』の田畑竜介アナウンサーが聞くシリーズインタビュー。最終日の6月1日は、金沢さんが芸人から脚本家に転身したきっかけや、移住した九州からエンタメを発信したいという思いを語った。

金沢知樹 長崎出身。地元を舞台にした映画『SABAKAN』で監督を務めたほか、TBSテレビ『半沢直樹』の脚本も担当したいま注目の脚本家。かつては芸人として活躍、『あいのり』にも出演したことがある。福岡を拠点に活躍するゴリけんとは芸人時代からの友人。

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0から1を生み出す脚本家に

脚本にはいろんな種類があるんです。「ドラえもんの道具を考えて、ストーリーをこういうふうにしよう」と原作があるものから考える脚本もあれば、『半沢直樹』のように小説をシナリオにしていくパターンもあります。あるいは、全くゼロから世界観を構築する『サンクチュアリ』のようなパターンですね。

僕はひと通り経験して分かったのですが、一番得意なのは、ゼロから世界観を作り出すことでした。もともとやりたいと夢見ていたのは『ドラえもん』の脚本を書くことだったんですが、原作があるものというのは、制限や制約もたくさんあるし、それぞれの人が抱いているイメージがあるんですね。だからこそ「0から1を生み出す脚本家」は、すべて自分の自由に書いていいから、きついと思ったことがないんです。

いま心がけているのは、毎日10分でもいいから本を読んだり、映画を観たり、ネタを考えたりする時間を作ること。それをする時間帯を決めて、身体に「考える時間だよ」って習慣づけさせると、効率も上がるし楽になります。

『あいのり』出演後に感じた「表舞台は自分に向いてない」

もともと芸人出身ですが、脚本家になったきっかけは、世界を旅しながら恋愛するっていう番組『あいのり』(フジテレビ)に出演したことでした。僕が出演した回はすごく反響を呼んで、番組の中では僕のことは「金ちゃん」と呼ばれていましたが、街を歩いていると「金ちゃん」と声をかけられることが多くなりました。

モテたくてテレビに出演したので「念願叶った!」と思っていたのですが、ある日、牛丼屋さんで食事をしているのをみんなに見られて、人に注目されることがものすごく嫌で、こういう仕事は向いてないなと実感したんです。

そこで表に出るのをやめて、カレー屋さんになろうと思って。それでちょうど、寸胴鍋を買うために浅草橋まで見に行っている時、ネプチューンの堀内健さんから「芸人やめるって聞いたよ」って電話がかかってきたんです。「金ちゃんはネタ書けるから『笑う犬』(フジテレビ)の放送作家として入らない?」って誘われました。

「考えさせてください」と電話を切った5分後に、こんどは『ネプリーグ』(フジテレビ)などの構成作家で、お世話なっていた小野寺さんから「和田アキ子さんのラジオ番組で構成作家の欠員が出たからやらない?」と言われたんです。小野寺さんも堀内さんも尊敬する先輩だったので、「その2人に言われるんだったらやってみようかな」と思って、放送作家になっていったんです。

九州でエンタメを育てたい

僕は生まれ育った九州が好きなのですが、エンタメ分野では東京にすごく舐められていると思っています。それを払拭したいなと思っています。九州はロケ地になることは多々ありますが、九州に住んでいるクリエイターが中心となって作品を作って、配信などで東京や世界へ発信していきたいんです。

その思いもあって僕はいま、九州を拠点に活動しています。それにプラスして、自分が持っている技術や人脈を下の世代に引き継いでいきたいんです。僕は芸人になりたくて東京へ行ったんですが、当時は東京に行くという一択しかありませんでした。それを二択にしたいんです。

東京に行ったらいろんな人と出会えるし、金銭的にも余裕かもしれない。けれど、九州でも同じように演じる場所や音響・照明といった舞台の場所もある。給料は安いし人脈もないけど、地元や自分が好きな街に住みながら仕事ができるという選択肢を作りたいというのが一つの目標です。この環境作りは必ず5年以内に達成したいなと思っています。

その足がかりになったのか、ゴールデンウィーク明けに福岡で『控えめに言って、崖野は殺した方がいい』という劇を上演したことでした。僕にとって舞台では、観ている人の喜怒哀楽、感情の全てを動かしたいと思っているんです。そういう作品を作って、観る人を育てないといけないなとも感じています。その礎を築けたらという思いで作りました。

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キー局とローカル局の間を埋めるのは「個人的な話」

渋谷の居酒屋で隣の客が、ゴリけんとパラシュート部隊が出演している『ゴリパラ見聞録』(テレビ西日本)の話をしていたんですよ。それを聞いて、持っていたビールのジョッキが震えるぐらいショックだったんです。とにかくあいつらの何がいいって、自分の言葉で喋っているということなんですよね。

そのとき思い出したのが、韓国映画『パラサイト半地下の家族』のポン・ジュノ監督が、アカデミー賞授賞式でしたスピーチです。「最も独創的な作品は、最も個人的な作品である。個性的な作品は個人の話が一番いい」という…。まさにそうで、やっぱりローカルというのは「個性」だと思うんです。

九州弁もマジョリティーじゃなくマイノリティですよね。これがローカルの持つ武器じゃないかと思うんです。だから、土地に根付いた作品を打って出たいなと思っているんです。ただ『北の国から』(フジテレビ)のような温かい話だけではなく、ファンタジーやサスペンスをガンガンやっていっていきたいんですよね。

最終的にやりたいのは、韓国ドラマ『梨泰院クラス』のようなものを作りたいです。「博多」というよりも「西新」「六本松」のような、さらにローカルなところを舞台にしたい。それが今、NetflixやDisney+など世界につながっている配信サービスが買ってくれたら、世界の人が観られるということも現実的に考えられるんですよね。

これに関しては、予算ではなく大事なのは「情熱」だと思うんです。情熱があれば絶対にいい作品が作れるので、そういう動きをしているところです。実際に東京で連ドラに関わるときは、「この話、大分でどうですか?」というふうに提案しているんです。これが点だとしたら、もう1個の点は、九州に住む人たち作るということなんです。

それってすごく意味があって、その点と点を線にしていけると思います。その線になった時、僕の夢である「九州に住みながらエンターテイメントで食っていける」が実現できるのではないかと思っています。ただ、僕ひとりでできることはたかが知れているので、いろんな人と肩を組んでやっていきたいし、そうした方が楽しいと思うんですよね。

田畑竜介 Grooooow Up

放送局:RKBラジオ

放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分

出演者:田畑竜介、田中みずき、金沢知樹

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