社説:「藤井名人」誕生 将棋七冠、比類なき偉業

 20歳の才能と努力に驚嘆する。比類のない偉業をたたえたい。

 将棋の藤井聡太六冠が名人位を獲得した。タイトルで最も歴史があり、挑戦者になるまで最低5年を要する戦いを勝ち上がり、4連覇をかけた渡辺明名人を下した。

 八大棋戦のうち七冠を制したことになる。最年少記録も名人(21歳=谷川浩司十七世名人)では40年ぶり、七冠(25歳=羽生善治九段)は27年ぶりに更新した。

 対局後、「とても重みのあるタイトルなので、今後ふさわしい将棋を指さなければ」と語った。次は、全冠制覇への期待が高まる。

 藤井新名人は、史上最も若い14歳2カ月で四段になり、プロデビューした。初戦で当時最年長の加藤一二三九段を破り、最多記録となる29連勝。17歳で棋聖のタイトルを奪取し、わずか3年で七冠。通算勝率は8割超…。圧巻の記録は枚挙にいとまがない。

 この間、生来の負けん気の強さをうちに秘めつつ、温和で謙虚な振る舞いは一貫し、将棋にも反映されてきたといえる。勝ちにおごらず、負けを糧に成長を続ける姿は多くの人を魅了している。

 AI(人工知能)との対戦で一線棋士が負けたことが話題になる時代を経て、AIをいかにうまく活用するかが問われる現代を象徴する棋士でもあろう。

 詰め将棋や新聞の観戦記で磨いた終盤の強さに比して、弱いといわれた序盤にAIの発想を柔軟に取り込み、戦法を独自に進化させてきた。最近の対局では、AIの判断を超えるような絶妙手も繰り出す。そのつきあい方は、私たちのヒントになるかもしれない。

 将棋ファンの裾野を広げた功績も大きい。京都市や福知山市でのタイトル戦でも和菓子や食事が話題になった。将棋教室では、あこがれる子らが後を追う。

 全冠制覇は簡単ではない。秋には残る王座戦が控えるが、挑戦者になるまであと3勝が要る。

 その前に、防衛がかかる来月の棋聖戦は、第1局がベトナムで初の海外対局となる。5番勝負の最中に、王位防衛の7番勝負も始まる過密日程だ。さらに両戦とも相手は対戦成績2勝2敗の強敵、佐々木大地七段である。

 こうした若手ライバルたちも奮起し、互いに切磋琢磨(せっさたくま)して棋界を盛り上げてもらいたい。

 無論、新名人はタイトル独占さえ最終目標ではないという。「どこまで強くなれるかが大事」。あくなき探究心で、前人未到の高みに挑み続けてほしい。

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