「失望した」との声も! 異次元にならなかった少子化対策|和田政宗 異次元の少子化対策を実現するための「こども未来戦略方針」案が政府より示された。今回の戦略方針案がこのまま決定されるということになれば、3年後には再び「異次元の少子化対策」を策定することになろう。その時はもう「異次元」と用語は使えないだろうから、「宇宙次元」とでも言うのだろうか。

政治家は襟を正さなくてはならない

6月1日、異次元の少子化対策を実現するための「こども未来戦略方針」案が政府より示された。私のもとには「全く異次元になっていない」「失望した」との声が多く寄せられている。私もこの案では異次元の少子化対策になると思えず、本日開催された自民党「こども・若者」輝く未来創造本部・政調全体合同会議で、児童手当の抜本的拡充など、戦略方針案の内容をもっと充実するよう強く主張した。

私の他にも同様の意見が多くあったことから今後の党内議論においてどこまで内容を引き上げることができるかだが、これも党執行部や政務調査会幹部がどこまで本気であるかにかかっている。

今年、「異次元の少子化対策」について議論が行われているのは、岸田文雄総理の1月4日の年頭会見によるものである。岸田内閣の支持率が低迷するなか、年初に「異次元の少子化対策」を打ち出したことに、私は「起死回生の策を思い切って打った」と評価してきた。

ここ数年のうちに児童手当の拡充をはじめとする抜本的な少子化対策を行わなければ、少子化は想定以上に大変なことになると私は思っているからだ。しかし、「異次元の少子化対策」に期待していた国民の声が失望に変われば、むしろ少子化が加速してしまうことにつながりかねない。

岸田政権は現在、正念場を迎えている。長男の岸田翔太郎首相秘書官が、首相公邸宴会問題などで更迭され、G7サミットで上昇した支持率が帳消しになり、むしろ下落しているとの世論調査も出ている。

政治家による家族優遇や世襲の準備ともみられる行動については、国民は強く批判の声を上げる。国民感覚からは当たり前のことであり、政治家は襟を正さなくてはならないと私は考える。なお私も子供がいるが、絶対に世襲はさせない。

そして、昨年末から強く聞く声は、「結局、負担増ばかりではないか」というものである。防衛費増額における増税や、少子化対策財源における社会保険料負担増などへの懸念である。コロナ禍の影響などで経済が決して良い状態ではないのに、国民負担増を求めることへの疑問が呈されている。

6月1日、第5回こども未来戦略会議

「こども国債」を創設すべき

今回の戦略方針案では、少子化財源として「支援金制度」を創設し、「徹底した歳出改革による公費節減等や保険料の上昇抑制を行うための各般の取組を行い、支援金制度による負担が全体として追加負担とならないよう目指す」とする一方、「労使を含めた国民各層及び公費で負担する」と記述されており、社会保険料負担増かそれと同様の内容で財源を確保することとなっている。

しかし、「歳出改革による公費節減」はどうやったらできるのか。毎年の予算を見れば、切り詰めて切り詰めて現在の予算額になっており、これ以上の歳出削減は不可能と私は考える。そして、我が国の「失われた20年」は、政府が歳出を渋ったことが原因である。リーマン・ショックのなどの世界経済の荒波のなか、世界各国はインフラ投資など積極的に財政出動を行って経済を支えた。

この20年で米国の国家予算は2倍、英国は2.5倍になっている。そして経済回復から発展軌道に乗せることに成功し、サラリーマンの平均年収は20年前に比べ1.5倍となった。我が国は、政府・日銀が真逆の政策を行ったために未だに20年前の年収水準に戻っていない。

こうしたことから、コロナ禍からの回復期の現在は積極的に財政出動をすべきであり、歳出削減など行うべきではない。歳出削減を行なえば日本経済は沈没し、取り返しのつかないことになる。

財源は、私は「こども国債」を創設すべきであると考えている。国会議員のなかでもほとんど知られていないが、日本学生支援機構(JASSO)の無利子奨学金の財源は長年、建設国債で賄われてきた。少子化対策の財源に国債を充てることは何ら問題ない。

今回の戦略方針案で唯一評価の声が上がっているのは、就労要件を問わず、時間単位でも柔軟に保育施設を利用できる「こども誰でも通園制度」の創設である。だが、児童手当の拡充内容は失望の声が圧倒的だ。

自民党の少子化対策調査会は3月、第一子は月額1万5000円、第二子は3万円、第三子以降は6万円とする提言をまとめたが、今回の戦略案では、第三子以降3万円と提言の半分でしかない。子育て世代の期待感を大きく削ぐような内容となってしまっている。

1子あたり1000万円給付

6月1日、松戸市のほっとるーむ八柱を視察した岸田総理

私が提唱している一子あたり1000万円給付は、4月にテレビ中継があった参院決算委員会で質問したところ、その後大きな反響を頂き、情報番組などでも取り上げられた。思い切った児童手当の増額は、抜本的な少子化からの転換に必要なことであり、1子あたり1000万円給付か、同額以上となる月額6万円×15年間給付を実現すべきである。これくらいのことをやらなければ、若いうちから子供を産み育てようという意識への転換は生まれない。

そして、今回の戦略方針案では、慎重に考えなくてはならない点もある。それは出産費用の保険適用に向けた検討である。私は不妊治療の保険適用を推進してきたので、出産を行う産婦人科クリニックの先生方と日常的に意見交換をしているが、出産費用の保険適用については慎重な意見が多い。

東京では家賃や人件費が高いため、私立のクリニックでは出産費用に約90万円かかる。保険適用で日本全国一律で出産費用は60万円となった時に、残りの30万を「差額ベッド代」などの名目で、妊産婦の方から負担して頂ける制度にできるのかどうか。

我が国では禁止されている「混合診療」になるから追加の負担は求められないということになれば、赤字になって閉院してしまう産婦人科が相次ぐことも考えられ、そうすると東京で「出産難民」が生まれることになり、少子化対策のためにと打った施策が逆に少子化に繋がるという本末転倒にもなりかねない。

今回の戦略方針案がこのまま決定されるということになれば、早晩追加の施策が必要になると思う。3年後には再び「異次元の少子化対策」を策定することになろう。その時はもう「異次元」と用語は使えないだろうから、「宇宙次元」とでも言うのだろうか。

いずれにしても真に抜本的な対策を考えなければ少子化対策は止まらない。財源は国債発行で賄える。少子化対策予算を財源論で抑えることなく進めていかねばならぬ。

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和田政宗

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