つくばから土浦へ――TX延伸の近況まとめ【コラム】

つくばエクスプレス車両(写真:JUNNOSUKE / PIXTA)

ちょうど1年前の2022年5月、つくばエクスプレス(TX)の延伸計画をご紹介させていただきました。現在の路線はつくば止まりですが、それを水戸や土浦方面などに延ばすのが茨城県の考え方で、県の第三者委員会は2023年3月31日、4案あったルート候補のうち、「土浦方面への延長が最善」とする提言書を大井川和彦県知事に提出しました。

現時点ではあくまで地元の方向性が固まっただけで、実際の鉄道建設から開業までに相当なハードルがあることは、本サイトのご覧の皆さまにあらためての説明は不要でしょう。本コラムはそうした課題はさておき、仮に東京(秋葉原)―つくば―土浦の鉄道ルートが開業したら、何がどう変わるかを考え、延伸ルートを先取りする形で、つくばから土浦までバスで〝ミニ紀行〟してみました。

延伸ルートを4案から絞りこむ

つい最近、本サイトにこんなニュースが掲載されて話題を呼びました。「まだ正式には決定していませんが、TXの土浦方面への延伸に向けた動きが活発になっています。そんなTX沿線では中古マンションなどの価格が上昇傾向にあります」。まだ構想段階ですが、TXの延伸は確実に社会的インパクトを与えているようです。

まずは簡単におさらい。TXの現路線は秋葉原―つくば間53.8キロです。茨城県が構想する延伸ルートは順不同で、①水戸方面、②筑波山方面、③(茨城)空港方面、④土浦方面――の4案ありました。

延伸ルート4案。土浦延伸はつくば駅からほぼ東進する路線イメージです(資料:茨城県)

県は4案の絞り込みに当たり、「アフターコロナを見据えた新たな地方創生の実現を目指し、県総合計画に位置づけたTXの県内延伸4方面案について、必要な調査・検討などを行い、2022年度中に延伸方面の一本化を図る(大意)」の見解を表明。2022年12月に三者委を立ち上げて検討を始めました。

三者委の正式名称は、「TX県内延伸に関する第三者委員会」。メンバーは筑波大学社会工学域の岡本直久教授(委員長)ら有識者5人で、TXを運行する首都圏新都市鉄道のほか、JR東日本水戸支社や国土交通省関東運輸局の代表などがオブザーバー参加しました。

「未来の交通ネットワークの整備」

第三者委の提言に入る前に、構想の経緯をたどります。TXの延伸、地元では一定の盛り上がりをみせていたようです。

2021年9月の県知事選では、大井川知事が2回目の当選を果たしたのですが、公約を読み返すと「未来の交通ネットワークの整備」のフレーズが見付かりました。未来の交通ネットワークは、TX延伸を指すようです。

大井川知事のTX延伸に対する考え方が読み取れるのが、2023年3月の県議会答弁です。最大の課題の事業費負担について、「茨城県だけで費用を負担するのは困難。沿線都県(茨城以外のTXの沿線自治体は東京都と埼玉、千葉の両県です)との間で合意形成を進めていく」と発言しました。

TXは秋葉原から東京駅への延伸構想があります。さらに、小池百合子都知事は2022年11月の会見で、「都心部・臨海地域地下鉄線構想」を発表。東京駅から銀座、築地などを経て東京ビッグサイトに至る地下鉄新線は、TXと相互直通運転の路線として建設されるプランもあり、大井川知事は「東京駅延伸を県内延伸とあわせて実現すれば大きな相乗効果が得られ、茨城県はもとより首都圏の発展に寄与できる」と、2つの延伸計画をセットで考える方針を示しました。

TXの沿線人口は開業以来26%増える

ここから三者委の提言を引用しながら、土浦延伸のメリットを探ります。結論から書き始めれば、「延伸によって得られる効果と費用のバランスを考慮すれば、土浦方面への延伸が最善」が三者委の見解です。

茨城県は、全県レベルでは人口減少社会に入っていますが、TX沿線3市(つくば市、つくばみらい市、守谷市)に限れば人口は開業年の2005年度と2022年度の比較で約26%も増加しています。鉄道は地域の発展に貢献。TXを延伸すれば、成長する地域も拡大します。

TXが土浦に延びれば、人口25万人のつくば市、14万人の土浦市、27万人の県都・水戸市が、TXとJR常磐線の2本の鉄道で結ばれます。延伸4案のうち土浦方面は建設距離が最も短く、他の3方面に比べて実現の可能性は高そうです。参考までに、TXつくば駅とJR土浦駅の直線距離は約8.4キロ。事業費約1400億円と試算されます。

書き忘れていましたが、三者委は土浦延伸で土浦駅接続と、常磐線で土浦の1駅先(水戸寄り)の神立駅接続の2案を比較しました。神立接続は土浦市中心部を通過しないことで事業費を抑えられますが、土浦駅を利用する乗降客はTXを利用しにくくなるので利便性は低下します。この点、土浦駅接続は神立駅接続よりも有利です。

TXは高架上、JRは地上を走る

三者委の提言のようにTXが土浦駅に乗り入れると、土浦―東京間はJR常磐線とTXの二重ルートになります。一見すると過剰投資に思えますが、注目したいのは線路構造の違いです。

地上を走るJRに対し、建設時期の新しいTXは高架構造(東京都内やつくば駅付近は地下)。万一の自然災害時に常磐線が被災しても、TXとJRを乗り継げば東京(秋葉原)―つくば―土浦―水戸を移動できます。

三者委の提言を受けた県は今後、費用負担や事業スキームを精査。国のアドバイスも受けながら、関係都県・機関との調整に取り組む方針です。

あくまで個人レベルの予想ですが、仮にTXが土浦に延びればJR常磐線との相互直通運転が実現するかもしれません。相当な将来になりますが、TXが土浦以遠、茨城空港方面に延びる夢も膨らみます。

つくばから土浦へ路線バスで移動してみる

整然とした街並みを4車線の幹線道路が貫くTXつくば駅前(筆者撮影)

ここで現地ルポ。TXの延伸ルートを先取りする形で、つくばから土浦まで関東鉄道の路線バスで移動してみました。つくば駅は地下構造で、地上にバスターミナルのつくばセンターがあり、各方面のバスが発着します。

つくば―土浦間はかなりの輸送需要があるようで、1時間2~3本のバスがシャトル運行されます。つくばと土浦を結ぶのが片側二車線の茨城県道55号線で、通称「学園東大通り」。バスの乗客には途中の停留所で下車する地域住民のほか、つくばから土浦まで通しで乗る学生らしき人もみられ、両都市間で相応の移動需要がある様子がうかがえました。

筑波鉄道がよみがえる?

追想・筑波鉄道 筑波町(現つくば市)の常陸北条駅で行き違う筑波鉄道の列車(写真提供:関東鉄道)

最後は、鉄道ファンの皆さま向けの話題。前回コラムでも紹介しましたが、かつて土浦とつくばを結んでいた筑波鉄道という鉄道がありました。土浦―岩瀬間の40.1キロで、岩瀬は国鉄水戸線との接続駅。筑波鉄道は常磐線と水戸線という国鉄2線を結びました。

筑波鉄道は、国鉄民営化と同日の1987年4月1日に廃止されました。筑波鉄道筑波駅は筑波山ケーブルカーの宮脇駅そばで、TXのつくば駅とは相当離れていますが、TX延伸は土浦とつくばを結ぶ鉄道の復活という見方も可能です。

今回、関東鉄道のご厚意で筑波鉄道の写真を提供いただきました。ぜひご覧ください。

追想・筑波鉄道 快走するキハ762。北海道の雄別鉄道から譲受、国鉄キハ21形気動車と同形でした。バックは筑波山です(写真提供:関東鉄道)

本コラムはここまでですが、TX延伸に関しては、今後も動きがあれば続報の形でご紹介させていただきたいと思います。

記事:上里夏生

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