トヨタ小林可夢偉、“ルールにない”BoP変更に憮然「非常に残念。さっきまで、戦っていました」

 WEC世界耐久選手権第4戦ル・マン24時間レースは、6月3日に市内での公開車検2日目を迎えた。正午前にはトヨタGAZOO Racingの2台のGR010ハイブリッドやドライバーもリパブリック広場へと集結。ドライバーは参加受付後に、メディアのミックスゾーンへと顔を出すのだが、当初そこにチーム代表を兼ねる小林可夢偉の姿はなかった。

 これは、ル・マン直前に発行されたBoP(性能調整)の変更に対し、主催者側と協議を重ねていたからだった。

 今季から、ハイパーカークラスに参戦する『ル・マン・ハイパーカー(LMH)規定』の車両群と、『LMDh規定』の車両群において、その規則プラットフォームに属する全車が、シミュレーションに基づいて調整されるという“プラットフォームBoP”と呼ばれる選択肢が用意されている。

 しかし、今回ル・マン前に発表されたBoP変更は、個別の車種ごとに最低重量等が変更されたものであり、『プラットフォームBoP』ではない。可夢偉によれば、本来これはルールに記載されていないタイミングでのBoP変更になるという。個別のBoP変更は早くともル・マン後になる、と通達されていた。

「ルール上、それを変えるタイミングではないのですが……ここで変更になりまして、驚きしかありません」。車検場に姿を見せた可夢偉は、感情を押し殺すような表情でそう語り始めた。

「これはBoPの変更ではなく、ルールの変更になります。正直に言うと、非常に残念だなと。いまさっきまで、(主催者側と)戦っていました」

 可夢偉が主催者側に確認したところによれば、このBoP変更の意図は「レースをさせたいから」なのだという。

「レースを面白くしたい、というのは分かります」と可夢偉。

「ただ、そういった理由で僕らよりも何秒も遅いクルマを救済するというのは、正直納得がいかない、というのが現実です。BoPに対して口を出しているのではなく、突然のルール変更に不満があるということを言いたいだけです。ルールに書いていないことをいきなりやられると……このレースっていったい何なのか? という疑問が出てきます」

「ドライバーとして、というよりも、ここまで頑張って良いクルマを作ってきてくれたエンジニアに対するリスペクトというのが、一切感じられません。僕らの努力は意味がなかったの? と言う疑問が湧いてしまう状況です」

「このル・マンというレースは、お客さんも楽しめるし、クルマも開発できる。その先に、『クルマがすごい進化したな』と感じるような世界があるから、歴史が続いてきたと思っているので、今回の件に関してはちょっと不安……というか」

「結果的には、僕らマネジメントとしての力不足の部分もあるかもしれない。でも『ルールを信じないで、何を信じるの?』という話です。正直、この(大事な)ル・マンの前にすごく悔しいですけど、言い訳ばかり言っても仕方がないですし、勝つしかないです。そのためにいま、何をすべきかというのは、ある程度のところでしっかりと(BoPの問題と)切り分けて考えてやっていきたいと思います」

 その言葉のとおり、直後に行われた2台の車両と全スタッフの記念撮影の際は、メンバーひとりひとりに声をかけ、シャッターの瞬間には「ビッグ・スマイル!」と大声でチーム全体の雰囲気を引き上げようとしていた可夢偉。

 ル・マンにおける37kgの重量増の影響は、1周1.2秒ほどだという。まずは明日のテストデーで、ハイパーカーの各車がどんなパフォーマンスを見せるのか、注目したい。

リパブリック広場での公開車検で記念撮影を行うトヨタGAZOO Racing
車検場に登場したトヨタGR010ハイブリッド。ル・マン特別カラーリングとして、桜が描かれている

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