トヨタ中嶋一貴、速さ見せる2メーカーに苦い顔「『普通に走っているので見てくださいよ』という感じ」

「フェラーリとポルシェが速いですね」

 ル・マン24時間レースを前にしたテストデーのセッション終了直後、中嶋一貴TGR-E副会長に話を聞くと、苦々しい表情とともにそう返ってきた。

 トヨタGAZOO Racingは午後のセッションで7号車GR010ハイブリッドがトップと僅差の3番手に食い込んだもの、直前のBoP変更の余波もあり、実質的なポテンシャルの面では、2メーカーとは開きがあるように感じているようだ。

■「マイクが無事でよかった」

 この日、サーキットのタイミングモニターは、プラクティス/予選仕様ではなく、決勝仕様で運用されていた。決勝を想定し、新たなセーフティカー手順を確認するためのものであったと思われるが、モニター上では各車両がベストタイム順ではなく周回数の多い順に並び、さらに各車のベストタイム自体が常時表示されない(直前のラップタイムのみ表示される)という事態となっており、「モニターが超絶見づらいので(苦笑)」と一貴副会長も状況把握には苦労していたようだ。

「それはしょうがないのですが、ずっと(モニターを)見ていないと何が起こっているか全然分かりませんでしたよね。見てる印象としては、フェラーリとポルシェが速いな、というところがあって……非常に難しい一日ではありました」

 午前のセッション終盤には、7号車のマイク・コンウェイがテルトル・ルージュでクラッシュ。一貴副会長によれば、とくにトラブル等があったわけでなく、いわゆる“攻め過ぎ”という類のものだったという。

「そういう意味でもスムーズな一日ではありませんでしたが、幸いダメージは外観だけというか、ボディワークだけでほぼほぼ済んで、時間内(午後のセッション2開始前)にメカニックも直してくれて戻すことができたので、そこは不幸中の幸いだったと思いますし、何よりマイクが無事だったのでよかったです」

クラッシュしたマシンとともにピットへ戻るマイク・コンウェイ

 気になるBoPの影響については、「正直、そこは分からないですが……コンディションも結構暑いのであまり参考にならない部分もあると思いますし、まだまだタイヤなどいろいろ見なければいけない部分もあるんですが……ポルシェとフェラーリが速いですよね(苦笑)」。

 直前にBoPが変更されたことを受け、ハイパーカークラス全体でいわゆる“三味線”が横行するのでは、という見方もあったテストデーだが「『普通に走っているので見てくださいよ』という感じです」と一貴。

 午後のセッションでは7号車が3分29秒台に入れ、首位のフェラーリ499Pからコンマ3秒差にまで肉薄。午前中はトップから1秒以上引き離されていたことを考えると、ポジティブな結果かと思いきや、「前のグループは28秒台に入る感じですからね」と一貴。「だとしたら、(彼らは)速いですよ。あまりこれ以上はコメントできないですが(苦笑)」。

 ハイパーカークラスの勢力図は、BoPをめぐる駆け引きが行われている可能性を考えると、現時点では全体像が見えないと言える。果たしてレースウイークに入り、大きな勢力変動は見られるのか。もちろんレースでは速さだけでなく、信頼性が大きな鍵となることは歴史が証明している。速さと強さの両面から、いろいろな意味で目が話せない戦いが続くであろうことは、間違いない。

テスト&リザーブドライバーも務める中嶋一貴TGR-E副会長

■リザーブとして6周をドライブ「思ったよりも普通」

 なお、テスト&リザーブドライバーも務める一貴は、この日朝のセッションの冒頭で6周、8号車GR010をドライブした。アウト/インを繰り返しながらの走行で、ボディワークなど、各部のチェックを担当したという。

 久々にサルト・サーキットで走行した感触ついて聞くと「思ったよりも、“普通”でしたね」と一貴。

「今年はセブリングでもテストしたので、(バンピーなセブリングと)比べたらだいぶ緊張感は少なかったかなと思います。楽しんだか? 楽しむにはちょっとラップが足りなかったりしましたけど(笑)」

 何かイレギュラーな事態が発生しない限りは、一貴“副会長”はレースウイークはマネージメント業務に集中することになりそうだ。

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