アカミミガメ、アメリカザリガニ「飼えないなら触らないで」と奈良県 - 野外に放出禁止

6月から条件付き特定外来生物の規制がスタートしたアカミミガメ(橿原市昆虫館提供)

 私たちの身近な生き物となっているアカミミガメとアメリカザリガニ。条件付きの特定外来生物に指定され、野外に放したり販売・購入したりすることを禁止する規制が6月からスタートした。特に対応が難しくなるのがアカミミガメ。道端などで保護しようとして捕獲し、別の場所に放出すると罰金・罰則の対象となる。奈良県は「とにかく触らないでほしい」と呼び掛けている。

 アカミミガメとアメリカザリガニは北米原産。繁殖力が強く、在来種の生存を脅かすなど生態系に影響を与えているとして、条件付きの特定外来生物に指定された。

 規制が始まると、生きた個体を野外に放す▽生きた個体を輸入、販売、購入する▽無償でも生きた個体を広く配る―などが禁止になる。違反すると3年以下の懲役か300万円以下の罰金、法人の場合は1億円以下の罰金が科せられる。

 ただ、これまで通りペットとして飼育したり、飼えなくなった場合に責任をもって飼える人に無償で譲ったりすることは可能。ザリガニ釣りでは、持ち帰らずにその場で放す「キャッチアンドリリース」をすれば規制がかからない。

◆飼育前に熟慮が必要

 アカミミガメは目の後ろが赤いのが特徴。1950年代後半から「ミドリガメ」の名で幼いカメが輸入され、ペットとして飼育された個体が野外に放たれて全国に定着した。

 県景観・自然環境課によると、例年「道で車にひかれそうになっている」「庭にいたので保護した」などの問い合わせが多く寄せられるという。

 特に5〜7月は産卵期。生まれたては体長3センチほどで、そのかわいらしさから子どもたちが自宅に持ち帰るケースも。ところが数年後には甲羅部分で最長28センチほどまで大きくなり、小さな水槽では飼いきれなくなるという。寿命は約30年とされる。

 環境省はホームページで、終生の飼育ができず譲渡先も見つからない場合は「殺処分することもやむを得ません」とし、殺処分の際は薬殺か冷凍などできる限り苦痛を与えない方法を取るよう呼びかけている。

 飼育前によく考えることが求められ、県景観・自然環境課も「終生の飼育ができないなら触らないでほしい」と訴える。

 環境省は「アメリカザリガニ・アカミミガメ相談ダイヤル」を開設している。電話0570(013)110。

ハス、金魚、守りたい文化 捕獲後どうすれば…殺処分にためらいも

 在来生物に影響を与えるとして条件付きの特定外来生物に指定され、6月から生きた個体の野外放出が禁止されたアカミミガメ。県内の伝統行事や水産業に関連する生物を守るため、アカミミガメを捕獲せざるを得ない関係者は、対応に頭を悩ませている。

 毎年7月7日に「蓮(はす)取り行事」(県指定無形民俗文化財)が行われる大和高田市奥田の捨篠池で昨年、ハスの生育不良が起きた。奥田地区の西川隆教総代(68)によると、今年も似た状況だという。

 生育不良の原因は不明で暗中模索の状態だが、原因の一つと推測されるのがアカミミガメだ。

 カメを中心とした自然史を専門にする亀崎直樹・岡山理科大学教授によると、地域の池からハスが消えることでアカミミガメが問題化するケースが全国的に多いという。佐賀市の佐賀城公園では2006年にハスが消滅、アカミミガメの駆除と保護柵の設置をしたところハスが再生した。

 捨篠池では今年5月、試しに仕掛けを設置したところ数百匹を捕獲、ハスを囲むネットの外に逃がしたという。

 ハス再生に向けて今後も捕獲を続けたいが、6月から特定外来生物の規制がスタート。捕獲した個体は野外に放つことができなくなり、西川総代は「どう対応したら良いか。規制するなら捕獲後の始末のことをもっと考えてほしかった」と困惑する。

◆金魚の生産地も対応苦慮

 日本有数の金魚の生産地、大和郡山市。雑食性のアカミミガメは金魚に被害を出すが、今後、養殖池でカメを見つけた場合にどうするかが課題となっている。

 ある養殖農家は「殺処分するしかないが、その方法を市などと検討している」と語る。ただ長寿の象徴とされるカメ。「縁起が良い生き物を処分するのも…」と苦慮する。

◆「日本の原風景」守るには

 雑食性で水草や水生生物のほか水鳥も捕食するというアカミミガメ。亀崎教授は「アカミミガメが増えれば他の生物は確実に減る」と指摘する。

 橿原市や明日香村など飛鳥地域の河川にもアカミミガメは多く生息し、「日々繁殖しているのをどう防ぐかが問題。飛鳥は『日本の原風景』と呼ばれるが、本来の自然に戻すように駆除していくしかない」と訴える。

 特定外来生物の規制で捕獲後の取り扱いが難しくなったアカミミガメ。駆除を進めるためには体制の整備が必要となりそうだ。

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