【第2回WUBS】アテネオ・デ・マニラ大(フィリピン)を見逃してはいけない3つの理由

昨年8月に初開催となったWUBS(Sun Chlorella presents World University Basketball Series=ワールド・ユニバーシティー・バスケットボール・シリーズ)で、負けなしの3連勝という成績で初代王者となったアテネオ・デ・マニラ大(フィリピン)は、様々な点で日本とゆかりのあるチームだ。今年の大会は2年連続出場であり、連覇を目指して来日することとなった。昨年のインカレでの優勝、準優勝によりWUBSへの出場権を獲得した東海大と白鷗大、さらにはシドニー大(オーストラリア)、国立政治大(チャイニーズ・タイペイ)、高麗大(韓国)、ペルバナス・インスティテュート(インドネシア)とそれぞれの国・地域の王者が集い、アメリカからはNCAAディビジョン1のラドフォード大もやってくるこの大会で、そのハードルは昨年以上に高くなっている。

ブルーイーグルスというニックネームで親しまれているアテネオ・デ・マニラ大が、仮に順調にシドニー大との初戦を突破した場合、準決勝の相手は白鷗大とペルバナス・インスティテュートの勝者となる。連覇の話題を抜きにしても、単純にアテネオ・デ・マニラ大 vs. 白鷗大の舞台が整った場合に白鷗大が勝利することができるか興味深い。また、東海大は決勝戦で対戦する可能性がある(敗者復活戦で戦う可能性もある)が、59-68で敗れた昨年の雪辱は果たせるだろうか。まずは日本勢との対決の観点から、アテネオ・デ・マニラ大は非常におもしろい存在だ。

しかし、実は少しこのチームについての情報を追いかけると、日本の大学との対戦をぜひとも見たくなる要素がさらに見つかってくる。

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昨年WUBSの初代王者となったアテネオ・デ・マニラ大(写真/©WUBS)

フィリピンのバスケットボール史をけん引した大学界の雄
アテネオ・デ・マニラ大という個別のチームの前に、まずはフィリピンのバスケットボール事情をひも解いてみよう。フィリピンはアジアのバスケットボール界における古豪であり、今後あらためて飛躍が期待される国でもある。ワールドカップ出場は日本よりも早い1954年の第2回大会(当時の呼称は世界選手権)であり、しかもその大会での成績は世界3位。身長191cmのセンター、カルロス“カーロイ”ロイサガは得点ランキングで3位に入り、大会全体のベスト5にも選ばれている。

フィリピン国内にPBA(Philippines Basketball Association)というプロリーグがあることは、プレーヤーのBリーグへの流入が急加速したことや、今年日本で初シーズンが行われたEASL(East Asia Super League)にリーグ所属の2チームが参加したことなどを通じて、近年日本でも広く知られるようになった。その誕生は1975年。リーグ公式サイトによれば、現在までの48年間の歴史はプロリーグとしてアジア最長であり、世界全体でもNBAに次いで2番目に長いという。

このようなフィリピンにおけるバスケットボールの発展を支え、かけがえのない伝統を築く上で大きな役割を果たしてきた要素として、大学バスケットボールの存在があげられる。

バスケットボールを含むフィリピンの大学スポーツは、首都マニラに拠点を置く8大学の交流と切磋琢磨を促進することで前進してきた。その統括団体はUAAP(University Athletic Association of the Philippines)と呼ばれ、1938年に誕生している(それ以前には1924年から、その名もNCAA[National Collegiate Athletic Association]という団体が存在した)。UAAPには高校生部門の競技会もあり、2022-23シーズンに広島ドラゴンフライズで活躍したカイソットもアテネオ・デ・マニラ高の一員としてその中でプレーしていた。代表チームの躍進もプロリーグ誕生も、UAAPを中心的なプラットフォームの一つとして確立し、その中で若いタレントの発掘・育成を進めたアプローチの結果ということができるのだ。

そして、ブルーイーグルスというニックネームで親しまれているアテネオ・デ・マニラ大は、UAAPの中でも伝統的な強豪として知られている。国内で大学界の王座に就いた回数が26回(UAAP12回、NCAA14回)。卒業生にはサーディとキーファーのラベナ兄弟(サーディが三遠ネオフェニックス、キーファーが滋賀レイクス)やドワイト・ラモス(レバンガ北海道)などBリーグで活躍し、かつフィリピン代表にも選ばれているタレントがいる。

2022年に行われたUAAPの直近シーズン(シーズン85)では、ファイナルでライバルのフィリピン大を2勝1敗で下して王座に就いた。ブルーイーグルスはWUBSのディフェンディング・チャンピオンだが、第2回WUBSの出場権はこのシーズン86制覇により獲得している。

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\--{ボールドウィンHCとの忘れがたき2006年の因縁}--

ボールドウィンHCとの忘れがたき2006年の因縁
もう一つ、このチームを追いかける上で重要なのは、ヘッドコーチを務めるタブ・ボールドウィンという人物と日本との縁だ。日本でも30歳代以上のファンやバスケットボール関係者ならば、彼の名前に聞き覚えのある人が相当いるのではないだろうか。

アテネオ・デ・マニラ大を率いるタブ・ボールドウィンHCは、2006年のワールドカップで日本代表を倒したニュージーランドの指揮官だった人物だ(写真/©WUBS)

なぜなら彼は、大げさでもなんでもなく、日本の男子バスケットボールの歴史を変えたと言ってもいい存在だからだ。ボールドウィンは、2002年のFIBAワールドカップでニュージーランドを同国史上最高の4強入りに導き、日本開催だった2006年の大会でも16強入りを果たしている…といえばピンとくるかもしれない。

あの大会でニュージーランドは、グループラウンドで開幕から3連敗と苦戦した。4試合目は1勝2敗の日本との対戦だったが、その試合を落とせばグループラウンド敗退が決まる。逆に日本は、勝てばグループラウンド突破決定という状況。前半を終えて38-20…。18点の大量リードを奪っていたのは日本だった。しかしボールドウィン率いるニュージーランドは後半怒涛の反撃で逆転に成功し、最終的に60-57で勝利を手にしたのだ。

息を吹き返したニュージーランドはパナマに快勝を収めグループラウンドを突破。消沈した日本は2日後のグループ最終戦でスペインに大敗して決勝ラウンド進出を逃した。チームを率いたジェリコ・パブリセヴィッチHCは大会後に解任。以降日本のバスケットボール界は、国内で分裂したトップリーグの対立に象徴されるガバナンスの欠如からFIBAの制裁を受けるなど、暗黒と称すべき低迷期に突入していく。もしも日本代表がベスト16に名を連ね、母国のファンの前で決勝ラウンドを戦うことができていたら、どうなっていただろうか。もしかしたら、まったく異なる機運の高まりもあったかもしれない。そんな「たられば」の尽きない日本バスケットボール史の帰路に、ボールドウィンHCは立っていた。

フィリピン代表級の新戦力も加わったブルーイーグルス

そのボールドウィンHCが率いる今シーズンのアテネオ・デ・マニラ大はどんなチームだろうか。昨シーズンの主力からは、東海大との試合で14得点を挙げたデイブ・イルデフォンソ(Dave Ildefonso)、ファイナルMVPに輝いた身長208cmのリム・プロテクター、アンジ・クアメ(Ange Kouame)らが抜けたが、フィリピンのメディアを見てみると、新戦力として何人かの注目すべき名前が挙がっている。

FIBAワールドカップ2023アジア地区予選でのメイソン・エイモス(写真/©FIBA.WC2023)

メイソン・エイモス(Mason Amos)はシューティングタッチの良い身長201cmビッグマンで、FIBA U18アジア・チャンピオンシップ2022で平均21.2得点、5.8リバウンド、1.5アシストというアベレージを残したプレーヤーだ。FIBAワールドカップ2023アジア地区予選でも2試合に出場しており、レバノン戦で13得点、2リバウンドと活躍を見せた。身長193cmのプレーメイカーで秀でたボールハンドリング能力を持つカイル・ガンバー(Kyle Gamber)も、エイモスとともにU18アジア・チャンピオンシップ2022に出場したプレーヤーだ。ほかに、カリフォルニア出身のガードフォワードでリーダーシップに定評があるショーン・トゥアノ(Shawn Tuano)も新たに加わる。

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FIBA U18アジア・チャンピオンシップ2022でのカイル・ガンバーは、平均6.8得点、3.2リバウンド、2.3アシストのアベレージを残している。チームとしては6位だった(写真/FIBA.U18Asia2022)

ブルーイーグルスは新たなロスターで5月からプレーシーズンゲームに臨んでいるが、最初の2試合は黒星だった。ただ、8月のWUBSまでにもUAAPのシーズン86が開幕する秋口までにも、まだ時間がある。フィリピン・メディアの報道でも、ボールドウィンHCが現段階で欠点が浮き彫りになったことを肯定的に受け止めるコメントが紹介されており、焦りや誤算といったことはなさそうだ。

WUBSでのブルーイーグルスと日本勢の対戦がかなえば、それは将来の日本代表とフィリピン代表の前哨戦としても、ボールドウィンHCに2006年の借りを返す機会という意味でもおもしろい。近い将来Bリーグにやってくるタレントもいるかもしれず、見どころの尽きないチームとして追いかけることをお勧めしたい。

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