圧力鍋はどんな仕組みでどうして早く調理ができるんだろう?【すごい物理の話】

水と圧力なべの相関とは?

料理に使うのは水が基本です。水というものは温度、気圧によって相そう変へん化か(温度の推移にともなって物質の状態が気体・液体・個体に変化すること)します)。たとえば、1kgの0℃の〝氷〟から1kgの100℃の〝水〟にするまでに必須となる熱量を見積もってみましょう。まず、1kgの0℃の〝氷〟を1kgの0℃の〝水〟に融かすには、334kJ/kgの融解熱を加える必要があります。その後、0℃の水1㎏を加熱して100℃にするには、4200J/(kg.℃) ×1 kg ×(100℃-0℃)=420kJの熱量が必要で、これを顕熱といいます。したがって、トータルとして334kJ/kg+420kJ=754kJが求められることがわかります。

①さて、水は1気圧の下では100℃で沸騰しますが、3000m級の山の上だと気圧は0.7気圧程度ですから100℃より低い90℃で沸騰してしまいます。そこで圧力鍋の登場となるわけです。蓋をキッチリ締めて、中の空気を閉じ込めて加熱すると、「ボイル・シャルルの法則」から圧力は鍋の中の温度比に比例します。鍋の中の蒸気発生は無視して考えます。たとえば0℃は絶対温度では273+0=273K(ケルビンと読む)、90℃では273+90=363Kなので、温度比は363/273=1.33倍です。そのため、山の上の気圧が0.7気圧であっても鍋の中は0.93気圧まで上がることになり、沸騰温度は約99℃まで上昇していきます。

地上1気圧で圧力鍋を使えば、温度比は373/273=1.37なので、鍋の中は1.37気圧となり、沸騰する温度は約110℃となります。つまり、この変化によって高温で料理ができるのです。ただし、水分が蒸発して蒸気が鍋の中に出てくるとさらに鍋の中の圧力は上がるので、沸騰温度は110℃よりももうちょっと高くなります。そうすると、なおスピーディに炊けることになり、料理時間も短くなるというわけです。

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 すごい物理の話』著/望月修

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 すごい物理の話』
著:望月修

物理学は、物質の本質と物の理(ことわり)を追究する学問です。文明発展の根底には物理学の考えが息づいています。私たちの生活の周辺を見渡しただけでも、明かりが部屋を照らし、移動するために電車のモーターが稼働し、スマートフォンの基板には半導体が使われ、私たちが過ごす家やビルも台風や地震にも倒れないように設計されています。これらすべてのことが物理学によって見出された法則に従って成り立ち、物理学は工学をはじめ、生命科学、生物学、情報科学といった、さまざまな分野と連携しています。……料理、キッチン、トイレ、通勤電車、自動車、飛行機、ロケット、スポーツ、建築物、地震、火山噴火、温暖化、自然、宇宙まで、生活に活かされているもの、また人類と科学技術の進歩に直結するような「物理」を取り上げて、わかりやすく図解で紹介。興味深い、役立つ物理の話が満載の一冊。あらゆる物事の原理やしくみが基本から応用(実用)まで理解できます!

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