“蛭子さんの人生相談”最終回「言いにくいことを言い出すには?」

2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える好評コラム。9年に渡って続いた名物連載の最終回はーー。

【Q】「実は……、蛭子さんに伝えなければいけない大切なことがあるのに、どうにも言い出しにくくて、なかなか言えませんでした。……でも、言います。この連載、今回が最終回になります! これまで本当にありがとうございました」(吉田健一さん・48歳・東京都・編集者)

蛭子:あ〜、そうですか……(と語ったきり、無言のまま時間が過ぎる)

マネージャー:蛭子さん、人生相談が終わって寂しいですか?

蛭子:えっ、なんでしたっけ? 最終回? いや、まったくオレはいいですけどね。それよりも人生相談が続いていたことに驚きました。

マネージャー:2014年6月に始まって毎週、9年間も続きました。

蛭子:で、これが最後の相談ですか……。オレは、相手がどう思うか、あまり考えないほうがいいと思いますけど。考えすぎるとうまくいかないことが多い気がします。

マネージャー:空気をあまり読み過ぎるな、ということですか?

蛭子:まあ、そうかもしれない。空気なんか読まないほうが楽でいいですよ。

マネージャー:でも認知症になったのに連載を続けてくれたことには、蛭子さんからも御礼を言いましょうよ。

蛭子:あ……(頭をポリポリかきながら)そうですね、なんか病気(認知症のこと)になってからもいろいろ目をかけてくれて、ありがとうございました。テレビでは有吉(弘行)さんにお世話になっていますね。

それに……この連載はどこの雑誌に載っているんですか?

マネージャー:『女性自身』さんです! 最後なんだから空気を読んでください……。

蛭子 :あ、どうもすみません。

吉田(担当編集):『女性自身』が「(前妻を亡くされた)蛭子さんが再婚相手を探している」と聞いて、集団お見合いを企画したのが2003年4月。それから20年のお付き合いです。

蛭子:あ、そうやったっけ? すみません、覚えてませんでしたけど、ありがとうございます。

吉田:400回以上やった人生相談ですが、なにか印象に残っているお悩みはありますか?

蛭子:……いや、まったく……、すみません。

マネージャー:僕が印象に残っているのは、働く意欲が湧かないという22歳の男性の相談者に対して蛭子さんが『仕事でやりがいや生きがいを見つけるのが間違い。働くことに意欲を求めるのがおかしいんです。仕事で輝くという人生は変。人は競艇場で輝くために働くんです』と回答した回です。蛭子さんに相談するなんて、という人もいましたが、意外と悩みを打ち明けるとスッキリしたと言われるようになりました。

蛭子:そんなこと言っていたんですか……。

吉田:編集部で話題になったのは、18歳の猫を飼っている女性から「ペットロス症候群を防ぐ方法はありますか?」という相談に、蛭子さんは「猫や犬などの動物と人は気持ちが通じ合わないもの。オレは動物と一緒にいて癒されたこともありません」と書いて、最後には「だから競馬ものめり込まない。やっぱり競艇ですよ!」と締めた。相談者としては、ペットを失ったときの悲しみことを聞いているのに、なぜか競艇を勧められていた……という、まさに蛭子さんらしい回答がさえていました。

蛭子:すみません。

吉田:同じ相談に「チャットGPT」を使って回答を求めてみたら、ペットロス症候群は「悲しみを共有する、時間をかけて悲嘆する、支えを求める、新しいルーティンを作る……」など具体的な解決方法が出てきました。でも、蛭子さんに相談すると、不思議と気持ちが軽くなるというか、悩んでいることがバカバカしくなるというか……。

蛭子:あまりしっかり答えていなかったかもしれません。今でもオレは、悩みのすべてはお金が解決すると思っています。でも、それを言ってしまうと終わってしまいますから……。

マネージャー:認知症になってからも、仕事を続けられたのはありがたいこと。どちらかというと、認知症になってからのほうが『感謝の気持ちを伝えよう』とか『人付き合いを大切にしよう』など毒気がない、蛭子さんらしくない回答が増えた気がします。

蛭子:あ、そうですか。でも、連載が終わってしまうということは、お金(ギャラ)が入らなくなるんですよね……。それはちょっと困りますが。

吉田:いや、今、蛭子さんに絵を描いてもらって「最後の絵画展を開く」というプロジェクトが進んでいます。蛭子さんが描いた絵は、すごく高く売れますから、頑張りましょう。

蛭子:えっ、そうですか。オレの絵が売れるんですか? あ……、この前も有吉さんと絵を描きましたが……。

マネージャー 先日、テレビ『有吉クイズ』で有吉さんと共作した絵は、150万円の値がつきました。びっくりしました。

蛭子 うへ〜、それはいいですね。

吉田 そういえば人生相談でも、蛭子さんはよく有吉さんのことをよく口にしていましたね。

蛭子:そうですね、有吉さんには「ありがとう」と言いたいです。

吉田:これから「絵画展プロジェクト」を本格的に進めていきますが、人生相談は一応これで一区切り。これからも悩みをもっている人がいるかなと思いますが、蛭子さん、なにか伝えたいことがあれば。

蛭子:いや〜、ちょっと……面倒くさいですね。適当にまとめてください。

マネージャー:蛭子さん、しっかり答えてください!

蛭子:あ……はい、すみません。オレは(死ぬまで)なんとなく楽しく生きればいいと思っています。たぶん、これからもそうだと思います。とにかく死ぬのだけは嫌だし、生きていればなんとかなる。これからもそんなオレをみて楽しんでくれて……、できればお金をくれたら嬉しいですね。

【A】9年間続いた蛭子さんの人生相談がついに最終回。長い間、ありがとうございました!

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